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第6話

作者: エイスース
紬は両親の焦りながらもどこか当然だという表情を見つめ、ふと過去の様々な記憶が脳裏を過った。

澪が幼い頃に熱を出した時、家族みんなで大騒ぎした。父の白石宗佑(しらいし そうすけ)は夜中に慌てて医者を呼びに行き、母の白石貴子(しらいし たかこ)は寝ずに看病していた。その時、自分まで起こされて、水などを運ばされ、看病の手伝いをさせられたものだ。

澪が転んで少しすり傷を作っただけで、両親はひどく心配し、よしよしとあやして抱きしめていた。

あるとき不意に手を怪我し、血が止まらなくなった時、両親はまず、そそっかしいと自分を責め立てた。それから、早く自分で手当てをしてきなさいと言ったのだ。澪の勉強を見てあげるのが滞ってしまうから。

いつだってそうだった。自分が病気でも、怪我をしていても、最後には、「もっとケアが必要な」澪の世話をさせられるのだった。

だから、今回も紬は何も言わず、手の甲の点滴の針を抜き取ると、痛む体を引きずるようにして、ゆっくりとベッドから降りた。

すると、両親は紬が素直に従ったのを見て、ようやく少し表情を和らげ、澪の病室へと彼女を急がせた。

病室に入ると、澪がベッドにもたれて座っていた。その顔は青白く、か弱い様子で航が口元に運んでくれた水を飲んでいるのだった。

紬が入ってきたのに気づき、航の視線は一瞬、彼女の手の甲から滲み出る血に止まった。すぐに、彼は眉間にしわを寄せ、かすかに表情を曇らせた。

すると、澪は優しい声で言った。「お父さん、お母さん、航。みんなずっと付き添ってくれてありがとう。お仕事もあるでしょうから、もう行って大丈夫よ。私には紬がついているから、安心して」

航にはまだ、災害対応の後始末という仕事があったし、両親にもそれぞれの仕事があった。

彼らは澪にしっかりと安静にするよう何度も言い含め、惜しみながら病室を後にした。

最初から最後まで、彼らは紬に対して「体調はどうか」、「怪我は痛まないか」などと、一言も声をかけることはなかった。

こうして、みんなが去ると、病室は紬と澪の二人きりになった。

途端に澪は、さっきまでのしおらしい態度を急に変え、当然のように紬を顎で使った。「紬、喉が渇いたわ。お水を一杯ちょうだい。

紬、肩が凝っちゃった。揉んでくれる?

紬、果物が食べたい。リンゴを買ってきてちょうだい。ちゃんと皮を剥いて、食べやすい大きさに切ってね」

一方、紬は一言も言い返さず、黙って指示に従った。

水を汲み、肩を揉み、だるい体を引きずりながら外へリンゴを買いに行った。そして、丁寧に皮を剥いて、綺麗に切り分けた後、皿に載せて、澪の手元へと置いた。

紬は心に開いた風穴がどんどん広がっていくのを感じながらも、まるで感情を持たない影絵のように、命じられるまま手を動かした。

それから数日後、澪は無事に退院した。

ちょうど、澪の誕生日が間近に迫っていた。両親と航は、あらかじめ市内きっての一流レストランの個室を予約し、お祝いをしようと計画を立てていた。

当日、個室は華やかに飾られ、テーブルには大きなホールケーキが置かれていた。その周囲にはたくさんのプレゼントが積まれていて、主役の澪は多くの人々に囲まれて、嬉しそうにお祝いの言葉を受けていた。

その一方、紬は一番隅の席にひっそりと座り、ただうつむいて、目の前の食事を静かに口へ運んでいた。彼女はまるで空気のようにそこにいても誰にも気づかれることはなかった。

昔なら、澪が誕生日を迎えるたびに、紬は密かに羨ましく思ったものだ。

誰かに愛され、大切に扱われるその姿を。

けれど今の紬には、もうその感情すらなくなっていた。

見ない、聞かない、考えなければいい。そうすれば、心に痛みを感じることもない。

誕生会がお開きになると、両親は澪に付き添って先に帰って行ったから、航と紬は、後に取り残された。

レストランの外に出ると、航は不意に立ち止まった。澪の歩いていった方向をじっと見つめ、彼の視線はしばらく動かなかった。

街灯の光が彼の険しい横顔に影を落としている。その視線からは、抑えきれない愛しさが、滲み出ていた。

それを見ていた紬の心は、ただ切なく静まり返っていくのだった。

彼女は何も口にせず、ただ前を向いて我が家の方へと歩き出した。

あの冷たく人気のない家に帰ると、玄関のところで警備員が慌ただしく一通の封筒を届けてきた。

「奥さん、マイナンバーカードが届きましたので、持ってきました」と、警備員は笑顔でそれを手渡してきた。

紬がそれを受け取ろうとした時、まだ回復していない指先が滑ってしまい、封筒はパシッという音とともに冷たい床へ滑り落ちた。

航がさっと身をかがめ、それを代わりに拾い上げた。ふと、彼は紬の誕生日はいつなんだろうと思い、聞いてみた。

紬が淡々と日付を伝えると、彼は固まってしまい、これまで見せたことのないほどの驚きの表情を浮かべて言った。

「今日は……君の誕生日でもあるのか?」

そう言われ、紬はただ航を見つめ、静かに頷いた。その声は相変わらず淡々としていて、起伏がなかった。「うん」

「なぜ……これまで何も言わなかったんだ?」

それを聞かれ、紬は不意に可笑しく思えてきた。

航をまっすぐ見つめ、紬の澄んだ瞳の奥には、すべてを悟り切ったかのような切なさが浮かんで、彼女は一語一句、穏やかなトーンで言ってあげた。

「去年も言ったよ。

一昨年だって、言った。

その前の年も、ずっと言ってたよ」

紬が言葉を重ねるごとに、航の表情は少しずつ強張っていった。

「だけど、あなたはこれまで覚えててくれたことなんてなかったじゃない」

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