15歳の時、白石紬(しらいし つむぎ)は、姉の白石澪(しらいし みお)が近所の九条航(くじょう わたる)を壁際に追い詰めてキスしているのを見た。航の背筋はピンと伸びて、耳まで真っ赤になっていたが、拒んだりはしなかった。18歳の時、紬は、澪と航が手を繋いで両親に挨拶をし、結婚の相談をしにくるのを見ていた。20歳の時、紬は、澪が留学という貴重なチャンスを手にするために、結婚式の前日に逃げ出したのを知った。その時、紬は路地の入り口まで追いかけ、澪の後ろ姿に向かって震える声で叫んだ。「お姉ちゃん!彼と別れるなら……私がもらってもいい?」澪は一瞬足を止めると、振り返りもせず、適当に手を振った。「いいよ、あげる」こうして、両家の面目のため、自分自身の誰にも言えない秘密の気持ちのために、紬は自分のものではないウェディングドレスを着て、ブライダルカーに乗り込んで、航の花嫁になった。あれから3年が過ぎた。紬は手料理を覚え、航の制服にアイロンをかけ、彼の身の回りの世話を完璧にこなした。けれど航の態度は、いつも壁を隔てているかのように冷たかった。それでも紬は、ずっと航を愛し続けられると信じて疑わなかった。そんなある日、紬はいつも通り航にお弁当を届けるため、彼が働く特殊部隊の基地を訪ねていった。その時、仕事を邪魔してはいけないという航の言葉を思い出し、外で待つことにした。いつの間にか雨がしとしとと降り出した。紬はお弁当を抱きしめて、中身が濡れないように必死で守った。だが、時間がことごとく過ぎても航は現れなかった。紬は航の持病で胃が痛みを起こしていないかと心配になり、意を決しておずおずと彼のオフィスの前へと向かった。そこで紬が目にしたのは、全身の血の気がすっと引いていくような光景だった――人前ではいつも冷酷で厳しい航が、今、床に片膝をついているのだった。その目の前には、3年間姿を消していた澪が座っていた。航はとても優しい手つきで、壊れ物を扱うかのように澪の足首を包み込んで、ゆっくりと揉みほぐしていた。「痛っ……もっと優しくして」澪は甘えるように声をあげた。航はすぐに手の力を更に和らげて、澪を見上げて言った。「今の力加減はどう?」その声には心配の色が滲んでいた。澪はそんな彼を見つめ、ぷっと吹き出して笑った。「何が可笑しいんだ?
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