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第2話

Author: 月の輝き
星也は顔色を土気色に変えて立ち尽くし、拳をギリリと鳴らした。

「美桜、お義母さんがまだあんな状態だって時に――」

言いかけた言葉を、真理奈の澄んだ声が遮った。

「星也、彼女が離婚なんてできるわけがないわ!どうせあなたを脅してるだけよ」

その一言が、一気に波紋を広げた。

誰かに脅されることを何よりも嫌う星也は、すぐに離婚届に署名した。

「美桜、そこまで言うなら付き合ってやる!でもな、後になって復縁を泣きついてくるのは面倒くさいから、1ヶ月だけ考える時間をやる!とりあえず離婚届は俺が持っておく」

吐き捨てるように言うと、彼は一度も私に視線を向けず、真理奈を連れて足早に去っていった。

去り際、真理奈は彼の肩越しに私へウィンクを送り、おどけた調子で念を押した。

「今日は木曜日よ。夜に星也を待ってても無駄だから。バイバイ!」

――おかしな話だ。私は星也の妻でありながら、彼を独占できるのは月・水・金の夜だけだ。

火・木・土は、真理奈が戸籍課の窓口当直に入る日だからだ。

「昼間に悪いオーラを浴びすぎちゃうから、夜に一人でいると良くないことを考えちゃう」と彼女は言った。

以前の私は、星也を引き留めようと泣き叫び、割れたガラスの破片の上に立ち尽くして、狂ったように懇願したこともあった。

けれど彼は、ほんの二秒ほどためらっただけで救急車を呼び、困り果てた表情で言った。

「美桜、君まで真理奈みたいに騒ぐのか……あいつは大人しくないけど、君も同じなのか?

ああ、俺だってどうしようもないんだ。あいつを見捨てたら、何かあった時に取り返しがつかない」

彼はいつも困っていて、いつも「仕方ない」と言い、いつも正義の味方のような顔をしている。

幸いなことに、もう二度とその言葉を聞かずに済む。

私は家に戻り、体にこびりついた汚れを洗い流すと、案の定、熱が出た。

家中をひっくり返して解熱剤を探していると、スマホが鳴り止まず、次々と地元のトレンドニュースが流れてきた。

【役所窓口の美人職員、魔女の正体を暴く】

【最難関T大卒業の五十嵐美桜、略奪婚の末路!】

コメント欄は怒りに震える人々で溢れかえっている。

【こういう社会のゴミはさっさと晒すべきだ!正義感溢れる吉尾さんには感謝状を贈るべきじゃないか?】

【五十嵐美桜?知ってるよ!大学じゃ有名なヤリマンで、先輩の彼氏を寝取るのが専門だったよね。何がベストカップルだよ、審査員と寝まくったんじゃないの?】

【汚らわしい!エイズや梅毒なんて生ぬるい。さっさと死ねばいいのに、生きてるだけで空気が汚れる】

【一家揃ってろくなもんじゃないな。両親が入院してるのは因果応報だろ!】

あまりにも毒々しい誹謗中傷に、私は思わず震えた。

そして、父にメッセージを送った瞬間、彼からのメッセージも届いた。

【お父さん、私、離婚しようと思ってる】

【美桜、帰ってこい。たとえ何があっても、お父さんがお前を支えてやる!】

涙が抑えきれないほど溢れ出し、私は心の底から安堵した。

その夜、私は星也に何度も電話をかけることも、真理奈から送られてくるラブラブな写真に執着して不眠に陥ることもなかった。

泥のように深く眠りについた。

ところが深夜、あろうことか星也が酔った勢いで家に上がり込んできた。

リビングを通りかかった時、置いてあった二つのスーツケースにつまずき、彼は一瞬ドキリとした。

しかし、そのスーツケースがほとんど空で軽いことに気づくと、納得したように口角を上げた。

――また、俺に構ってほしくて、形だけ整えたんだな。

寝室のドアが乱暴に開かれ、熱を帯びた重い獣のように私にのしかかってきた。

「美桜、T大を卒業してから10年経っても、俺たちは今でも一番人気のベストカップルなんだぞ……

今日もOBからメッセージが来た。二人の子供はまだかってさ」

彼を突き飛ばそうとした私の手が、止まった。

大学三年生の経営学部の天才と、一年生の文学部で一番の美人。二人の恋物語は、それほどまでに熱く、眩しいものだった。

星也は当時、学生としてできる限りロマンチックな方法で私にアプローチし、一万通を超えるラブレターを綴った。

私が卒業すると同時にプロポーズし、立ち上げたばかりの会社の株を私に譲渡してくれた。

最初の五年間の甘い記憶は、真理奈が一箱分のラブレターを抱えて帰国したあの年に、すべて苦い思い出へと変わった。

星也が私に書いたラブレターは、すべて真理奈への手紙の焼き直しで、名前を書き換えただけだったのだ。

今の世間の騒ぎの中で、この子作りを促す言葉も、決して祝福などではない。

私は潤んだ目をぱちぱちと瞬きし、ふっと鼻で笑った。

「星也、よくもまあ……そんなことが言えるわね」

星也は呆然とした様子で私に顔を寄せ、頬を強引に撫で回した。

「泣くな。ずっと子供を欲しがってたじゃないか。俺は、本当は――」

その時、嫉妬に狂った表情の真理奈が、部屋のドアを蹴り破るようにして現れた。

「星也!あの女には触らないって約束したじゃない!」

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