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第608話

Author: 雨の若君
素羽の唇に、かすかな笑みが浮かんだ。

「私と同じようにしてあげるのよ」

この世界そのものが狂っているのだから、自分だけがまともでいる必要などどこにもない。みんな揃って、こちら側へ堕ちてくればいい。

司野は素羽の瞳の奥に広がる底知れない冷たさを目にし、胸を締めつけられるような恐怖を覚えた。彼はすぐに医療スタッフを呼び寄せ、千尋を先に連れて行くよう命じた。

心の奥底にある恐怖を刺激された千尋は、頑として司野から離れようとしなかった。

「嫌!行かない!あなたと離れたくない!あの悪魔が、あなたを私から奪おうとしてるの……!」

千尋が必死にしがみついたせいで、司野の服は見るも無惨に乱れていく。彼がその執拗な抵抗に手を焼いている間に、素羽はすでに背を向け、その場を後にしていた。

長いドレスをまとった細い身体は、風が吹くたびに裾がむなしく揺れ、今にもそのまま空へさらわれてしまいそうなほど、痛々しく儚げだった。

千尋の耳をつんざくような悲鳴は、なおも辺りに響き渡る。司野は思わず不快そうに眉をひそめた。

森山が慌てて支えに駆け寄ってくるのを見て、司野は千尋の腕を強引に引き剥がした。

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