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87話 都

Author: 子猫
last update publish date: 2026-04-13 19:00:00

(どこかで見たことあるような…。)

誰かに似ていると思ったが思い出せずに悶々とする優希の元に女性職員が来た。

優希は安心して無意識に女性職員に寄っていく。

「あら、あなたどこかで見たことあると思ったら、三滝家のお嬢さんね。」

背中にかけられた都の声に優希の体が固まる。

「国を出てたのね。英断だわ。今じゃ国中が井竜若奥様の転落事故の真相を知っているもの。」

ゆっくり振り向いて都を見ると、楽しそうに細められた目にははっきりと悪意が込められている。

覚えのない人から突然向けられた悪意に優希は戸惑う。

この国に来た経緯を優希は誰にも言っていなかった。

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  • 白月光は妹?私が死んでから元夫は泣いて後悔しました   89話

    本を読む姿に惹かれて思わず立ち止まると、向こうも優希を見てきた。 話しかけられると胸は高鳴り、全身の血を沸き上がらせる。数年ぶりに生を感じた優希は将生を拒絶することができなかった。 しかし将生の周りは温かくて居心地が良かったが、その分襲ってくる罪悪感は苦しくて辛く、耐えきれずに将生にそれを吐露してしまう。 すると突然優希は抱きしめられた。 服越しにじんわりと伝わってくる将生の体温と清潔な匂い。 背中に回された腕は強く、くっついた胸から心臓の鼓動が分かるほどだった。 優希が最後に抱きしめられたのは12歳の誕生日の3日前、本邸のリビングで美緒と老夫人と泣きながら抱きしめあった時だ。 舞は優しく抱きしめるどころか痛めつけ、英二に至っては優希がそのような接触を望んでいなかった。 孤児院では人と関わらず、抱き合うような仲の人もいない。 実に4年ぶりの人との触れ合いに、孤独感が満たされるのを感じた優希は泣きながら将生にしがみついた。 ハグは幸せホルモンを分泌させると言うが、おそらくこの時の優希は、脳が処理しきれないほど大量の幸せホルモンが出ていただろう。 将生との交際は、暗いベールで覆われていた優希の人生を春の陽だまりのような色鮮やかで温かいものに変える。 当初は幸福に浸かることの後ろめたさに苦しくなることもあったが、将生の優しさや老夫人の継続的な励ましのおかげで徐々に前向きになることができた。 まっすぐ目を見て話せるようになり。自然に笑顔が浮かび、自分からキスやハグや、時にはその先を強請れるほどに将生に心を許して行った。 罪意識から避けていた感情を素直に受け取れるようになると、呼吸がしやすくなり暗い表情も明るく豊かになっていく。

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    ただ、優希にとって嬉しいこともあった。 都の訪問の翌日、孤児院に国際電話がかかってきた。 老夫人は壁にぶつかり気絶したが、特に後遺症などもなく次の日には回復したと言う。 「井竜財閥の持てるネットワーク全て使って、やっとゆうちゃんを見つけたの。あら、声が少し大人っぽくなったかしら?」 笑いながら言う老夫人に、優希は声を詰まらせて上手に話せなかった。 緊張と不安でたどたどしい優希の言葉に嫌な空気も出さず、老夫人は以前と変わらない優しい声で相槌を打ってくれた。 「ゆうちゃんがいないと寂しいわ。こっちに帰って来ない?」 近況を話した後の少しの沈黙、老夫人は静かに言った。 寂しげな声は、心からそう思ってくれているのだと優希に喜びを与えたが、優希はすぐに視線を落とす。 「…帰れないよ。」 お金も無いし会わせる顔も無い。 それにお父さんにはもう新しい娘がいるから。

  • 白月光は妹?私が死んでから元夫は泣いて後悔しました   87話 都

    (どこかで見たことあるような…。) 誰かに似ていると思ったが思い出せずに悶々とする優希の元に女性職員が来た。 優希は安心して無意識に女性職員に寄っていく。 「あら、あなたどこかで見たことあると思ったら、三滝家のお嬢さんね。」 背中にかけられた都の声に優希の体が固まる。 「国を出てたのね。英断だわ。今じゃ国中が井竜若奥様の転落事故の真相を知っているもの。」 ゆっくり振り向いて都を見ると、楽しそうに細められた目にははっきりと悪意が込められている。 覚えのない人から突然向けられた悪意に優希は戸惑う。 この国に来た経緯を優希は誰にも言っていなかった。 もはやこの孤児院しか居場所のない優希は、母親が愛人で、あろうことか嫉妬から身重の正妻を突き落としたこと、そしてその原因は優希自身にもあるということを知られたくなかった。 身勝手だとしても、子供だった優希はこの居場所に縋るしか無かったのだ。 「優希ちゃん、お知り合い?」 女性職員は無邪気に尋ねる。 「まぁ、若奥様は植物状態だって診断されて、坊ちゃんもお嬢様も寂しい思いをしてるのに、あなたはこんな所で呑気に暮らしてるの?なんて薄情な人。そこのお姉さん、気をつけた方がいいわよ。この子自分を可愛がってくれた妊婦を母親と一緒になって突き落としたんだから。」 都の大きな声はよく響き、それまで賑やかだった部屋が静まり返る。 優希は知られてしまったという思いと、初めて知った美緒のその後に顔色を無くした

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    道端で公衆電話を見つけ、早る気持ちで駆け寄った。 時差についてはこの時の優希の頭にはなかった。 緊張で震える手はなかなか言うことを聞かないが、なんとかカードを入れ、自宅の番号を押すと単調なコール音が鳴り出す。 (誰が出るかな…。お父さんかな、お手伝いさんかな…。話、聞いてくれるかな…。) しかしコール音の回数が増えていくにつれ、期待はだんだんと不安に変わっていく。 「……はい。」 留守なのかと電話を切ろうとした時、隆一の掠れた声が聞こえ心臓が跳ね上がった。 久しぶりに聞いた隆一の声に優希は恋しさで声を詰まらせる。 目は涙でかすみ、鼻が詰まり、喉からは嗚咽が漏れる。 「…どちら様ですか?」 訝しむ隆一の声に優希は焦って呼びかけた。 「お、お父さ…。」 「…優希?」 痙攣する喉に邪魔されきちんと呼べなかったものの、隆一は優希に気づいた。 嬉しさに優希は何度も頷く。 「お、とうさん…、私…。」 視界を覆う涙を拭いながら、優希は声を絞り出した。 ちゃんと話したい、と優希が呼吸を整えていると、電話の向こうで声が聞こえてきた。 「おじ…お父さん?」優希よりも幼いであろうその声は、優希の父を「お父さん」と呼んだ。 「ああ、起きちゃった

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    「どいて!!」 気持ち悪さに両手足をがむしゃらに動かして英二の下から抜け出そうとするも、英二が腹部に乗っていてただ体力を消耗させるだけだった。 英二は疲れて息を荒くする優希に満足気に笑うと、片手を優希のシャツの中に入れる。 その行動に男が何をするつもりなのかを察した優希は先ほどよりも激しく暴れた。 「やめて、離して!!お母さん助けて!!」 殴る、蹴る、噛み付く。 いくら子供といえど、13歳の全力の抵抗には英二も手を焼き、目的の箇所に触れない。 「黙れ!!」 次の瞬間、顔が横を向くほどの衝撃を頬に感じ、優希は一瞬放心した。 目の前が点滅し、頬に熱と痛みを感じ始めると殴られたことに気づく。 英二は思わず出た手だったのか驚いた顔をしたが、大人しくなった優希の体に再び手を這わせた。 優希はもう死にものぐるいだった。 頬の痛みも忘れるほど暴れた。 目の端に椅子を見つけ、必死でそれを手繰り寄せる。 「やめてってば!!」 渾身の力で叩きつけると、英二は叫び声をあげて優希の上から転がり落ちた。

  • 白月光は妹?私が死んでから元夫は泣いて後悔しました   84話 その後

    翌日には井竜財閥が美緒の件を公式に発表した。 社長の愛人関係とはさすがに公表出来ず不慮の事故とされ、同時に英二も体調不良により休職となることも発表された。 「親父は今頭に血が上っているだけだ。もう歳も歳だから、暁春が後を継ぐ前に体が限界になるだろうな。落ち着いたらそれに気づいて俺を呼び寄せるさ。」 英二はニュースを見ながら楽観的に言い、勘当を真剣に受け止めていないようだった。 英二はもちろん、舞も秘書として同行している時の映像から顔が割れており、このまま国内で生活するのは周りの反応が煩わしいと英二が嫌がったため、すぐに国外に移住することになった。 「これからは家族としてよろしくね。」 空港に向かうタクシーの中、英二は優希にそう笑いかけた。 密かに睨みつけてくる舞の目と笑いかける英二の目が怖く、優希は俯き僅かに頷いた。 垂れた髪が2人の視線を遮ると安心することに気づき、それ以降優希はずっと俯いていた。 英二が決めた移住先は世界でもトップクラスに物価が高い国だった。 しかし貧富の差が激しく、煌びやかな大通りを1本逸れると孤児や薬物中毒者、ギャングなどの巣窟で、毎日誰かが道で倒れている。 英二たちはだいぶまとまった金額を貰ったようで、一等地の一軒家を買い、毎日外食をし、働かずカジノに通った。 2人はその国の言葉を話せたが優希は日常会話も不慣れだったため、学校には行かずに豪邸でひっそりと過ごしていた。 隆一が一括で払った優希の養育費など、本来の目的で使われなかったのだ。

  • 白月光は妹?私が死んでから元夫は泣いて後悔しました   31話 疑惑再び

    蚊に刺されたようにも見えるそれを最初は気に止めていなかったが、それを囲むように点線状の凹みも見つけた瞬間、優希の目は釘付けになった。 だいぶ薄いが、カーブを描いたその凹みは歯型のように見える。 「下ろしますね。」 もっとよく見ようとしたが、暁春の言葉に思わず自分の足元を見てしまい、気づいてすぐに顔を戻すも、襟で隠れていた。 優希は大人しく浴槽に浸かる。しかし頭の中では先ほどの光景が揺れていた。 歯型………? なぜ?

    last updateLast Updated : 2026-03-24
  • 白月光は妹?私が死んでから元夫は泣いて後悔しました   59話 それぞれの車内

    「…時間がある時にでも、三滝社長とゆっくり話をしたらどうかしら。彼も離れていた間のことをゆうちゃんから聞きたいと思うの。」 老夫人の提案にそうだろうかと不安に思うも、とりあえず頷き車に乗った。 手を振る老夫人の横で、老人も優希に軽く頭を下げるとすぐに老夫人に視線を向け、彼女の肩にストールをかけた。 (今、おじいさんにとって1番気にかかってることはおばあさんなのね。) あからさまな老人の態度に思わず優希の口元に笑みが浮かぶ。

    last updateLast Updated : 2026-04-05
  • 白月光は妹?私が死んでから元夫は泣いて後悔しました   60話 来た

    指輪を見ながら有美は聞いた。 どうする?とは聞いたが、心の中では中絶させるだろうと思っていた。 結局、暁春は優希との子供を望んでおらず、今回も優希の勝手な行動で妊娠しただけなのだから。 「……。」 しかし暁春から返ってきたのは予想していた返答ではなく沈黙だった。 それの意味に気づいて有美の顔から表情が消える。

    last updateLast Updated : 2026-04-05
  • 白月光は妹?私が死んでから元夫は泣いて後悔しました   57話 女主人の老夫人

    「細工、しましたね。」 優希が反応をしないと、暁春は誰に言っているのか知らすように口調を変えた。 優希がそろりと目線をあげると、先ほどの睨みは和らいだが、それでも凍りつきそうな視線でまっすぐ見てくる暁春と目が合う。 その目には老人の言う通り喜びは無く、優希は歯を噛み締めた。 「え?何のこと?」

    last updateLast Updated : 2026-04-04
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