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6話 メモ

Author: 子猫
last update publish date: 2026-01-19 15:10:59

翌日、優希は10時に起きた。

当然ながら暁春は既に出勤しているようで、優希の隣には既に人の体温はなかった。

朝方まで酷使した体は全身が筋肉痛のように痛かったが、 暁春が体を清めてくれたのか、痛み以外の不快感は感じられなかった。

今日は妊婦健診を予約していたためゆっくりとベッドを降りた。昨晩の激しい行為が影響ないかも心配だった。

ふとサイドテーブルを見ると、薬の箱が置いてあることに気づく。見慣れた避妊薬のものだ。暁春が置いていったのだろう。テーブル横のゴミ箱には口を縛ったコンドームが何個も入っている。

実は暁春はまだ2人の時間が欲しいと言って、子供を望んでいなかった。子供を希望していない暁春は、自身がコンドームを使用する他に、優希にも毎日避妊薬を飲むよう指示していた。

少し考えて、優希はその避妊薬とサイドテーブルの引き出しの中にある未使用のコンドームをゴミ箱に捨てた。

昨日は妊娠のことを伝えられなかったが、今晩帰ってきた時に伝えるつもりだった。もうこれらはいらないだろうと思ったのと、後ろめたい証拠を破棄したかったという理由もあった。

暁春が子供を望まず、避妊を徹底しているのに何故優希は妊娠できたのか。

もちろん他の男性を頼ったなどではなく、恥を忍んで未使用のコンドームに針で穴を開けていたのだ。

優希は自分の年齢を考え、それでも暁春のプレッシャーにならないようにと、結婚当初からさりげなくアピールをしていたが暁春は認めなかった。どんなに余裕がない時でもコンドームは着用していた。2週間前のあの夜も、スラックスのポケットからそれを取り出すのを、疲れでかすんだ目でぼんやりと見ていた。

子供は、優希の望むものの中で唯一暁春が拒否したものだった。

だから優希は未使用のコンドームの袋に針を刺し、避妊薬の摂取をこっそりやめた。突拍子もない行動に感じるが、優希はそれだけ子供が欲しかったのだ。

暁春を騙す行為だと自覚していたが、妊娠してしまえば子供を拒否しないだろうと思っていた。なにせ2人は夫婦なのだから。

シャワーを浴びた後ダイニングへ行くと、冷蔵庫のメモを見つけた。

おはようございます。昨日は無理させてしまいすみません。冷蔵庫にサンドイッチを作って入れておきました。食べてください。

貴方の大事な人より

綺麗な字で書いてあるそのメモは、なんて事ない内容だったが優希は心が暖かくなった。

目を細めながら大事そうに冷蔵庫から外し、携帯ケースの中に閉まった。後でクローゼットの中に隠してある缶に仕舞おうと思ったのだ。

暁春は他人が家に入るのを嫌がり、お手伝いさんは雇っていなかった。だから料理は専ら優希の役割だったが、朝食はこうして暁春が作ってくれることもあった。

サンドイッチは卵フィリングのものと、レタスとハムのものだった。アクセントでマスタードが塗られておりとても美味しかった。これは幼い頃、父から教わって気に入った優希が、暁春に教えたものだった。お姉さん風を吹かせて得意げに話していたのを覚えている。暁春も彼女がこの味が好きなことをずっと覚えていたようだ。

当時の優希は今とは違い、天真爛漫に明るくいつも笑顔だった。そして自信家でもあった。大人になった今は自信なんて消えてしまっていた。

変わってないところは馬鹿な選択ばかりするところね…

幼い頃の思い出を思い出し柔らかい表情でサンドイッチを口に運んでいたが、思い出したくもない過去の出来事も同時に思い出し口角が下がる。

食べ終わった優希はお皿を片付け、出かける準備をするために主寝室のウォークインクローゼットに向かった。

クローゼットの中は広かったが、優希も暁春も余分な服は持たないのでスペースは余っていた。手前の方にかかっている普段使いの質素なワンピースをとり、ベッドに置く。その後またクローゼットに入り、床に置かれた箪笥を開ける。下着などの細かい衣類の奥にピンクの丸い缶が置いてあった。そっとそれを取り出し蓋を開けると、中にはメモ紙が沢山入っていた。暁春からの小さなメモ達だった。

おはようございます。先に会社に行きます。

お弁当ありがとうございました。とても美味しかったです。

庭の花が綺麗に咲きましたよ。

愛しています。

どれも取り留めのない内容だったが優希の宝物だった。時間が無い時に急いで書いたであろう、走り書きのようなメモも愛おしかった。暁春が出張で留守にする時にこのメモ書きを読んで寂しさを紛らわしていた。

そこに先程冷蔵庫から外したものをそっと入れる。

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