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2話 愛人のよう

Author: 子猫
last update Petsa ng paglalathala: 2026-01-19 15:05:52

テーブルの上のご馳走を冷蔵庫へいれてソファに移動する。

テレビをつけると、丁度暁春が画面に映った。

先週国外で商談を締結させて帰国した時の空港の映像だった。

広い肩と細い腰、その下に伸びる長い足。サングラスを掛けているので目元は見えないが、無駄のない輪郭の中央にスラリと通る鼻筋。引き締まった口元は、時折隣を歩いている秘書に何かを話している。

半分隠れていても端正と分かる顔立ちは気品と美しさを醸し出しており、コートをはためかせながら堂々と歩くその姿は、27歳と若いながらも貫禄があった。

井竜財閥の社長である暁春は出張も多く、月の半分は帰ってこない。それでも愛する妻を不安にさせないようにと、電話やメッセージのやり取りは欠かさなかった。花やケーキやたまにアクセサリー等の贈り物も忘れない。愛情表現は惜しまず、体調や機嫌を気遣いフォローをしてくれる。

見た目、性格、権力の三拍子揃った、誰が見ても欠点のない完璧な旦那と言うだろう。

優希は誰もが羨む奥様なのである。

『以前から公表していた大切な方とはその後如何でしょうか。今年中にはなにか素敵なご報告はあるんでしょうか。』

取り囲む記者の1人が質問した。

それを聞いた優希は思わずリモコンの電源ボタンを押してテレビを消してしまった。

リモコンをローテーブルに置くとそのまま横に倒れ、胸を焦がすような焦燥感からクッションを強く抱きしめる。

2人の結婚は世間に公表されていない隠れ婚だった。

その理由については優希も納得しているが、日の目を見れない愛人のようだと感じていた。

誰もが羨む奥様は、誰も知らない奥様だった。

世間的には暁春はまだ独身ということになっているので、記者達は唯一公表されている大切な人の存在をスクープしたがっていた。

最近、優希は言いようのない焦燥感を感じる時があった。

暁春の愛情を疑っているのではない。彼の言動、ボディランゲージから、彼女へ向けられた愛情は本物だと確信しているし、彼女も彼を愛している。愛し合っているはずなのに何故こうも心からの安心感がないのだろう。公表されない存在だからだろうか、もしくは自分が専業主婦だからだろうか、それともいつか自分より若くて美しい女性に彼が惹かれるのではという不安だろうか。あるいはもっと別の理由だろうか。

キツく閉じた瞼の裏に愕然とした表情のか細い女性の顔と、怒りで顔を醜く歪めた女性の顔が浮かんだ。後者の女性はさらに腕を振り上げた。

急いで目を開けた優希はソファから飛び起き胸を抑える。激しい鼓動は耳まで響いていた。

胸を震わせるくらいの鼓動に気持ち悪さを感じて、急いでキッチンに駆け込む。

空嘔吐を何度かし、水を飲み深く息を吐けばだんだんと落ち着いていく。

彼女を苦しめていた焦燥感も同時に消え去った。

ソファに戻りSNSを開く。

トレンドでは、先程のニュースで暁春の隣を歩いていた女性秘書について盛り上がっていた。

"あの女性秘書かっこいいよね!顔は可愛いのにスーツをビシッと着こなして、そのギャップが好き!"

"会社のホームページ見たんだけど、まだ25歳だってよ!若いのにすごい~!"

"いつも冷たい感じの井竜社長も彼女には少し甘い目線向ける時ない?好きなカップリングだから私の欲目出ちゃっただけ?"

"いや!私も感じてた!同士よ~!"

若くて綺麗で仕事ができるとなれば一般人ながらもファンができる。国を代表する財閥の社長秘書となれば尚更だ。

SNSを見るのをやめてソファの背もたれに頭を乗せる。

( 25歳…)

夫婦の年の差は5歳。9月になれば33歳になる妻と先日27歳になった夫。

年齢差はどうしようもないと理解しているし、暁春もわかった上で結婚しているのだから気にするだけ無駄だと言うのも、頭ではきちんと理解している。

しかし夫の隣に若い女性がいることに無関心でいられる妻はいないだろう。

また気持ちが重くなる前に軽く目を閉じた。

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