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第3話

Auteur: 十枝コハク
母の墓地へと転がるように駆けつけると、莉乃が業者に指示を出して、墓を掘り返させているところだ。

「やめろ!!」

勢いよく飛びかかって、2人の作業員を力任せに突き飛ばすと、スコップを奪い取って、母の墓石の前に立ちはだかる。

莉乃は拓海と美優を自分の後ろに隠して、鼻で笑う。

「お金さえ払えば何でも貸し出すんじゃなかったの?

あんたのお母さんの墓地のレンタル料なら、もう振り込んだわ。今さら何の真似よ?」

怒りで歯の根が合わなかった。

「お前……それでも人間か?」

莉乃は悪びれる様子もなく肩をすくめる。

「あんたのルール通りにお金を払っただけなのに、何が悪い?

それともあんたの中では、他の感情はすべて尊くて、私たちの夫婦の絆だけが安っぽくて、お金で取引できるものだってこと?」

爪が手のひらに深く食い込んでいるが、憎しみのせいで痛みすら感じない。

到底理解できなかった。

母の病室で徹夜で看病して、母に向かって「絶対に奏多さんと幸せになります」と甘く微笑んでいたあの女が、どうしてこんな風になってしまったのか。

拓海は犬の遺影を胸に抱いて、声を詰まらせながら口を開いた。

「もういいよ、莉乃。コロは俺と美優にとって家族同然だったけど、いくらなんでも動物だ。奏多さんのお母さんのお墓を奪うのは、やっぱり良くないよ」

彼の涙を見た莉乃の声は、冷ややかなものに変わった。「奏多、どきなさい」

俺は歯を食いしばる。「ふざけるな!」

彼女は俺のそばに歩み寄って、耳元で囁いた。

「悠真、来月手術よね?今は少し大人しくしてたほうがいいんじゃない?」

全身が凍りついた。

「悠真は、お前の息子でもあるんだぞ?

実の息子を盾に取って、俺を脅すのか!?」

莉乃は手を伸ばして、俺の襟元を無造作に直す。

「そうよ。でもね、美優だって私の実の娘なの。

あんたと付き合い始めた最初の年。拓海と久しぶりに会って、お互い飲み過ぎて……つい間違いを犯しちゃったのよね。

あんたと悠真には金と名分をあげたから、もう少し物分かりよくしてちょうだい」

冷や汗で全身がびっしょり濡れる感覚がした。

だからだ。俺と付き合い始めたばかりの頃、彼女が突然海外留学を決めて、俺が会いに行くのを頑なに拒んだのは。

心筋梗塞で突然倒れた息子の姿が、脳裏で何度もフラッシュバックする。

ゆっくりと、手にしていたスコップを下ろした。両足が鉛のように重くて、こわばった足取りで横へ退く。

美優が一直線に飛び出してきた。「やったー!やっとコロに場所譲ってくれるんだって!」

彼女は母の墓石を倒した。そして業者が掘り返したばかりのカロートから骨壺を奪い取って、地面に叩きつけようとした。

「やめろ!」

頭の中が真っ白になって、猛スピードで飛びついた。骨壺を庇うようにして、俺の頭は墓石に激しく打ち付けられる。

視界がぐらりと回って、目の前が血の赤に染まった。

「奏多!」

莉乃が慌てて俺の側に寄って、震える手で額の血を拭おうとする。

「痛くない?頭は?」

その手を強く振り払って、バッグに入っていた書類を彼女の目の前に突きつけた。

「お前の払ったレンタル料じゃ足りない。サインしろ」

書類に大きく書かれた【不動産譲渡契約書】の文字を見て、莉乃の顔色がスッと冷たくなった。

「……いいわ。本当にいい度胸してるじゃない」

彼女は躊躇なくペンを取り出して、乱暴な筆致で自分の名前を書き殴った。そしてペンを書類ごと地面に叩きつけて、拓海と美優の腕を組んで足早に去っていく。

ペンは真っ二つに折れていた。それは、付き合って3年の記念日に俺が贈ったものだった。彼女がそのペンで初めてサインしたのは、俺たちの婚姻届だったのだ。

書類を拾い上げて、譲渡契約書の後ろに挟んでいた離婚届を取り出す。そこには見慣れた綺麗な字でサインが記されていた。

泣きながら笑って、母の骨壺を抱えたままふらふらと立ち上がる。

悠真の手術が終われば、俺たち夫婦は完全に終わりだ。

ついに迎えた手術当日。悠真が手術室に運ばれていくのを見送る。

ホッと息をついて、扉の前にへたり込んで祈り続けた。神様、どうか息子の手術が成功しますように。

だが、手術が終わる前だというのに、スマホに再び振込通知が届いた。その備考欄の文字を確認する間もなく、手術室の扉が突然開いた。

医師が血のついた手袋も外さないまま、慌てて外へと飛び出してくる。

手足の感覚が麻痺する中、最後に出てきた医師の白衣に死に物狂いでしがみついた。

「息子の手術はまだ終わっていません!どこへ行くつもりですか!」

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