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第2話

作者: 十枝コハク
和気あいあいとした雰囲気は、まるで俺と息子が他人の家に迷い込んだかのようだ。

「奏多……」

莉乃は慌てて立ち上がって、玄関に駆け寄って俺の上着を受け取る。

「拓海の大家さんが急に家を売るって言い出して、あの二人、追い出されちゃったの。

急に次の住まいが見つからなくて。だから、しばらくここに住まわせてあげられないかな……」

何も答えず、使用人が俺と息子の荷物を一つ一つ物置部屋へ運び込んでいるのをただ見つめている。

拓海は申し訳なさそうに口を開いたが、その表情には隠しきれない優越感が滲んでいる。

「ごめんなさい、奏多さん。俺、体が弱くて、日当たりと風通しのいい部屋じゃないとダメで……だから莉乃が、一番広い部屋を譲ってくれたんです」

息子の部屋も美優に占領されていた。息子のお気に入りだったオルトラマンのフィギュアは、美優に外へ放り出されて、手足が折れてしまっている。

莉乃は急に後ろめたさを感じたようだ。「もし嫌なら、他のところをまた……」

「いいよ、構わない」彼女に向かって手を差し出す。

「レンタル料は今まで通りだ。だが、うちの場所代と、お前が向こうの家族に付き合うための追加料金は別途請求させてもらう」

バサッ。莉乃は俺の上着を床に叩きつけて、怒りを露わにした。

「頭おかしいの!?子どもの前でなんてこと言うの!?もう恥も外聞もないわけ!?」

鼻で笑うしかない。他の男と子どもを家に連れ込んだのは自分なのに、それを指摘した俺に「恥を知れ」とくるとは。

莉乃は拓海と美優を引っ張って、ドアの外へ向かおうとした。俺の横を通り過ぎる際、キャッシュカードを顔に向かって投げつける。

「1億よ。これで文句ないよね。

いい加減にしてよ、そんなに金が好きなら一生お金と暮らせばいいわ!」

家の中が完全に静まり返った後、悠真がしゃくり上げながらティッシュで俺の顔を拭いてくれた。

その時初めて、投げつけられたカードで目尻が切れて、血が出ていることに気づいた。

「パパ、僕が病気になったせいで、毎日ママにいじめられちゃってごめんね……」

悠真を強く抱きしめる。

「怒ってないよ。悠真の手術が終われば元気になる、それだけでパパは嬉しいんだ……」

小さい頃からママの絵本の読み聞かせがないと眠れなかった息子は、涙を浮かべたまま俺の腕の中で眠りに落ちた。

苦しげに眉を寄せた寝顔を見つめていると、車に轢かれたかのように胸が痛む。

かつて幸せだった家族三人が、いつからこんな風になってしまったのだろうか。

拓海の妻が亡くなった後、彼が早まったことをしないかと心配して、莉乃が毎晩のように慰めに行き始めた頃からか。

その頻度があまりにも多くて、たまに自宅に帰ると、逆にゴシップ誌から「不倫」と勘違いされるほどだった。

それとも、美優が「母親がいない」といじめられるのを心配した莉乃が、彼女の授業参観に毎回必ず出席するようになった頃からか。

こどもの日や誕生日会にも決して欠席しなかった。

そのせいで、悠真は「母親がいない子」と勘違いされて、学校でいじめを受ける羽目になった。

悠真が初めて心筋梗塞で倒れた時、何度電話をかけても莉乃のスマホは話し中だった。

やっとの思いで病院に駆けつけると、医師たちは皆、美優の「擦り傷」の治療に駆り出されていたと知らされた。

悠真の心肺は3度も停止して、俺が土下座をして額から血を流して懇願した。ようやく一人の医師を引き留めて、かろうじて命を繋ぎ止めたのだ。

深く息を吸い込んで、荷物をまとめた。

熟睡する息子を抱きかかえながら、すっかり変わり果てたこの家から未練もなく出て行った。

新しい住まいに落ち着いて1週間経っても、莉乃からは何のメッセージも来ない。

逆に、拓海からの連絡は絶えなかった。俺が見逃すのを恐れているかのように、彼らがお出かけしたというネットニュースのリンクばかりを転送してくる。

無表情のままリンクを開くと、彼らが行った場所はどれも、かつて俺と息子が行きたいと話していた場所ばかりだ。

しかも、それを報じているマスコミは、俺と莉乃の盛大な結婚式を取り上げたのと同じ会社だ。

【奏多さん、ごめんなさい。俺も莉乃に、お金を払って記事を消してもらおうって言ったんだけど、彼女がそんなこと必要ないって言うから……】

【全部俺のせいです。莉乃が買ってくれた腕時計を売って、記事を消す費用に当てましょうか?】

拓海は、莉乃が贈ったというその時計の写真をわざわざ送りつけてきて、俺を挑発しようとしている。

かつての俺なら、これを見た瞬間拓海のところへ乗り込んで、すべてをぶち壊していただろう。

だが今の俺は、ただ淡々と「なら、よろしく頼む」とだけ返信した。

トーク画面には【入力中】の文字が長らく表示されていたが、結局それ以上メッセージが来ることはなかった。

ようやく少し静かになるかと思った矢先、俺の口座に突然2億円が振り込まれた。

その振込の備考欄の文字を見た瞬間、全身の血が逆流するのを感じた。

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