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第2話

Auteur: 吹く風
翌朝、朝美は自然に目を覚ました。

結婚して七年、初めて暁景のために朝食を作らなかった。

そのことに、自分でも驚いた。愛が冷めると、相手に対するすべての関心も一緒に消えてしまうのだと、初めて実感した。

暁景はもう出勤しているだろうと思いながら、階下に降りると、意外にも彼はキッチンで朝食を準備していた。

クリーム色のルームウェアを身に着けていて、彼女の花柄のエプロンをつけているその姿は、いつも冷徹で端正な彼とは違って、どこか滑稽で思わず笑ってしまった。

朝美が裸足でいるのを見て、暁景は眉をひそめて、すぐに歩み寄って彼女を軽々と抱きかかえた。

「どうして靴下も履いてないんだ?またお腹痛くなるぞ」

彼女を優しく椅子に座らせると、膝をついて靴下とスリッパを丁寧にはかせてくれた。

「ちょっと待ってて、朝ごはん持ってくるから」

彼女は「いらない」と言いたかった。食欲なんて、全くなかったから。

けれど、暁景はその言葉を待たずに、すぐに湯気を立てた朝食を運んできた。

「君の好みに合わせたんだよ。牛乳は無脂肪にハチミツを少し加えて、トーストは砂糖なしの柔らかいやつ。目玉焼きの縁はわざと焦がしたし、ソーセージはイギリス風じゃなくてドイツ風で、焼いたやつだからね」

彼は嬉しそうにひとつひとつ説明している。細かすぎるほどのこだわりを、誇らしげに話していた。彼女の好みを、全部覚えていた。

そばで見ていた家政婦が感心して言った。

「奥様、本当にお幸せですね。旦那様、奥様が珍しく寝坊していたからって、今朝は五時から起きて準備なさってたんですよ」

朝美は淡々と「ありがとう」とだけ答えた。

暁景は少し驚いて、不満そうに彼女の鼻先を指でつんつんした。

「もう、冷たいなぁ。夫に『ありがとう』なんて言わなくていいのに」

朝美は無言で、牛乳を手に取って静かに飲んだ。

暁景は彼女が驚いているのだと思い込んだ。朝食を作ってあげるのは初めてだから。

彼は彼女のそばに立って、まるで子犬のようにしっぽを振りながら、期待に満ちた顔をしていた。

「驚かないで、好きならこれから毎日作るよ。一生ずっと、君のために」

......一生か。

もうそんなもの、残っていない。

朝美は俯いた。暁景、あなたが浮気したその日から、私たちの「一生」は、あなた自身の手で壊されたんだ。

食事が終わると、暁景はふいに母校の江川大学に行くように提案した。

「久しぶりに江大に行こうか?最近忙しくて、君にちゃんと時間を割けなかったからさ。ちょうど今、海棠の花が咲いてるって聞いたし、今日は時間あるから、一緒に見に行こう」

返事を待つ暇もなく、彼は当然のように彼女を鏡台の前に連れていって、新しく買ったイヤリングを手際よく耳にかけてあげていた。

「やっぱり、うちの嫁はセンスがいいな。美女と宝石の組み合わせ、まるで天女みたいだよ」

朝美は何も言わなかった。ただ、機械のようにすべてを受け入れた。

車に乗ると、彼がすでにあらゆる準備を整えていることに気づいた。保温ボトル、日傘、虫よけパッチまで。

実は、江大には元々海棠の花なんてなかった。その花は、結婚の記念に暁景が寄贈したものだった。「棠」の字にちなんで。

江大に到着しても、すぐに海棠を見に行くわけではなく、彼はまず朝美を歩行者天国へと誘った。

燦燦と降り注ぐ陽の下、暁景は額に汗をにじませながら、日傘で彼女を守って、もう片方の手で風を送っていた。

「俺の可愛い奥さんと、恋人時代をもう一度、だね」

朝美が三秒以上視線を止めたものは、すべて彼が買い揃えた。胃潰瘍がひどいくせに、彼女のために辛い料理まで一緒に食べてあげていた。

歩行者天国を出るころ、彼の左手にはアイスクリーム、右手にはミルクティー、首からはぬいぐるみがぶら下がっていた。高級オーダースーツを着た大企業の社長としては、まるで想像もつかない光景だった。

通りすがりの女の子たちが彼を見て、信じられないという顔をしていた。

「え、目が悪くなったの?あれって、紀行テクノロジーの社長、雨宮暁景じゃない?噂では冷徹で禁欲的なオラオラ系CEOだって聞いてたけど、今の格好は何よ?すごく滑稽だね」

暁景は全く気にしていなかった。朝美が楽しければ、自分のイメージなんて少し犠牲にしても構わないと思っていた。

別の女の子が皮肉っぽく言った。

「何も分かってないな。あれ、絶対雨宮奥さんが買ったものだよ。雨宮社長、奥さんのためにバッグを持ってるんだよ。あれって、まさにラブそのものでしょ!写真を撮って、SNSにアップしよう」

朝美は人に注目されるのが苦手で、暁景の袖を引っ張りながら言った。「早く行こう」

暁景は全く気にせず、朝美を腕に抱き寄せて言った。

「撮ってもいいよ、でもちゃんと俺の奥さんを美しく撮ってね。彼女は俺の中で、一番美しい女性だから」

朝美は少し目を伏せて、顔には一切表情を浮かべなかった。

向こうの女の子たちは、暁景がこんなに気さくだとは知らなかったから、喜んで二枚写真を撮った。そして去る時に興奮しながら叫んだ。

「雨宮社長、雨宮奥さん、幸せな結婚生活を!」

暁景はにっこりと微笑み、祝福を受け入れた。

「安心して、必ず幸せになるよ!」

二人の女の子たちを見送った後、暁景は朝美の手を取って、花園に向かった。

「さっきの二人に写真をもらうのを忘れちゃったな。絶対にいい写真だったのに」

朝美は言葉を発せず、心の中で静かに思った。どうでもいい。

すぐに、彼女に関するすべてが跡形もなく消えるのだから。

海棠の花を見ながら、暁景の携帯が突然鳴った。番号には名前が表示されていなかった。

彼は何も考えずに、すぐに受話器を取った。

「雨宮暁景!」

怒った声が朝美の耳に届いた。

暁景は本能的に朝美を一瞥して、音量を下げて、何事もなかったかのように少し離れた。

その声が、暁景の浮気相手である桑田甘菜からだと、朝美はすぐに気づいた。

朝美は海棠の木に手をついて、手足が冷たくなり、少しふらついていた。

その間、暁景は甘菜に詰問されていた。

「SNSであなたが江大に来てるの見たけど、なんで私に会いに来ないの?どうしてあのババアと一緒にいるの?」

暁景は落ち着いて彼女をなだめた。

「そんなに簡単に怒るなよ。朝美は俺の妻だから、ただ義務を果たしていただけだ」

甘菜は「義務を果たす」この言葉で少し怒りが収まった。

「分かったわ。でも、今すぐ私のところに来て、一緒にいて」

暁景は冷静に言った。

「無理だ。それに言っただろう、知らない番号から連絡してこないで、俺が妻と一緒にいる時に邪魔しないでくれ」

甘菜は鼻でふんと笑って、明らかに暁景を掌握しているようだった。

「そんなことないわ。電話をかけたのは、暁景を朝美さんから奪おうと思ったからじゃない。ただ、デザインがすごく良い下着を買ったの。見てほしいだけ」

彼女の声はまるで心を引き寄せるフックのようだった。

「今夜だけよ、暁影」
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