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俺様な彼氏

Author: 紅城真琴
last update Last Updated: 2025-05-03 23:00:38

自宅に帰り、そのまま寝室のベットに直行。

倒れ込むと同時にすぐに眠ってしまったお陰で、夕方には頭痛も発熱も治まった。

午後8時。

真っ暗な部屋で、ゴソゴソと起き出して夕食を作る。

とは言っても、魚を焼いたり、味噌汁を作ったり。時間があればサラダも作ろうかなと冷蔵庫を覗いていると、

ガチャン。

玄関が開いた。

「ただいま」

それは、とても不機嫌そうな声。

「お帰りなさい」

無理して明るく言ってみたのに、

「ちょっと座って」

私に視線を送ることもなく、キッチンを通り過ぎてリビングのソファーに座る。

「でも今、夕食を作ってるし・・・」

「いいから、座って」

再び言われ、私は火を止めてリビングへ向かった。

「体調は?」

えっ、

「う、うん。大丈夫」

「熱は?」

「37度だったかな。本当に大丈夫だから。心配かけてごめんね」

素直に謝ったのに、ジーッと私を見つめる視線。

「昨日はどこに泊まったの?」

「・・・」

シーンと静まりかえった部屋。

「樹里?」

「・・・ごめん」

それしか言えない。

「樹里っ」

低い声で、強い口調。

うわー、怒ってる。

「樹里、言えよ」

そう言われても・・・

しばらく、無言が続いた。

いくら何でも、公園のベンチで寝てしまったなんて言えない。

言えるわけがない。

「もういい」

彼が携帯を手に立ち上がる。

「誰にかけるの?」

「脳外の竹浦先生」

えええー、大樹?

「馬鹿な事しないで。そんな事したら、あなたが困るのよ」

私は叫んでしまった。

大樹に同棲がバレたら私はすぐに実家に連れ戻されるし、大樹の逆鱗に触れたあなただってどんな目なわされるか、考えただけでも恐ろしい。

「あなたは、私との生活が終わっての平気なの?」

逆ギレとは知りながら、詰め寄ってしまった。

フー。

溜息をつく音が聞こえた。

「いいから、昨日どこにいたのか言え」

上から目線にかなりムカつくけれど、大樹に告げ口されてはたまらない。

仕方ない。白状しよう。

「昨日は、少しだけ、ほんの少しだけお酒を飲んでしまって・・・」

「うん」

「マンションに向かう途中で、気分が悪くなって・・・」

「それで?」

「少し公園で休んでいこうと思って・・・」

さすがに最後まで言えなかった。

「バカヤロウッ」

やっぱり叱られた。

いつも冷静な彼だけに、どれだけ怒っているのかが私には分かる。

だから、思わず震えてしまった。

「何考えているんだよ」

「・・・」

「何かあってからでは取り返しがつかないんだぞ」

「・・・」

「女子としての自覚と言うか、危機感がなさ過ぎだろう」

「・・・」

ひたすら俯いていることしか出来ない。

「いいか、これからは飲み会禁止」

ええ?

「無理だよ。付き合いだってあるし」

「お前が言えないなら、俺が断わるから」

そんな・・・

私達の関係は病院内でも秘密なのに、バレたら騒ぎになるのは目に見えているのに。

「それがイヤなら、俺に黙って飲み会には行くな」

いいなと念を押され、

「はぁい」

渋々、私は頷いた。

目の前のアイスマンはやっと笑顔になり、キッチンへ夕食を取りに行く。

俺様で、自己中で、振り回されてばかりの彼、高橋渚。

私が彼と一緒に暮らし始めて、もう3年目になる。

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