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潔癖症の夫が不潔になった
潔癖症の夫が不潔になった
Penulis: カウボーイ・アンディ

第1話

Penulis: カウボーイ・アンディ
夫の瀬川廉(せがわ れん)には重度の潔癖症がある。だから私・瀬川知音(せがわ ともね)とは家では別室で寝て、洗濯物も別々に洗うというルールを作った。

私が触った食器すら、目の前でゴミ箱に捨て、バイ菌がついていると言って嫌がる。

だが結婚記念日のこの日、彼の一点の曇りもないアウディの車内から、破れた黒のストッキングと、口紅の跡がついた吸い殻が出てきた。

問い詰める私に、彼は袖口を整えながら淡々と答えた。目も合わせずに。

「女性社員を送っただけだ。うっかり落としたんだろう」

私は何も言わず、彼の会社でのライバル・神宮寺優也(じんぐうじ ゆうや)に電話をかけた。そこで初めて知った。彼が新しい女性アシスタント・小泉さくら(こいずみ さくら)を雇ったことを。

電話の向こうで、優也は意味深に笑った。

「奥さん、俺は何度も見てますよ。あなたの旦那さん、給湯室で女の子にケーキを食べさせて、手まで服の中に入れてましたからね。

その子、子供まで妊娠して、今まさに正妻の座を奪うことを目論んでいるらしいですよ」

電話を切り、私は結婚記念日のプレゼントをゴミ箱に捨てた。

廉、私たちはもう終わりだ。

……

ゴミ箱の中のカフスボタンが、天井の照明を受けて鈍く光っていた。

廉のために三ヶ月かけてやっと手に入れた限定品だった。

今、それはリンゴの皮と使い捨てのティッシュの山に埋もれている。

私はじっと見つめた。

玄関の鍵が回る音がした。

廉が帰ってきた。

空気が一瞬で消毒液の匂いに変わった。鼻を突く刺激臭が、家に漂っていた柔らかなレモンの香りを覆い尽くす。

私は立ち上がり、迎えに出た。いつもの習慣で手を伸ばし、脱いだスーツの上着を受け取ろうとする。

指先が布地に触れた瞬間。

廉が勢いよく後ろに飛び退いた。背中が玄関の棚にぶつかり、鈍い音を立てる。

廉は私の手を凝視し、眉をきつく寄せ、口角を下げた。極度の嫌悪を示す表情だ。

「手を洗え」

声は冷たかった。

私の手は宙に浮いたまま、指先がかすかに震えていた。

空気中には消毒液以外に、薄くタバコの匂いと、安っぽい化粧品の甘ったるい香りが混じっていた。

廉はタバコを吸わないし、甘ったるい匂いも大嫌いなはずだ。

私は手を引っ込め、服の裾を強く握りしめた。

「今日は結婚記念日よ」

廉は私を見ず、ネクタイを外しながら浴室へ向かった。歩幅が大きく、まるで後ろから何か汚いものが追いかけてくるかのようだった。

「会社が忙しい。これからこういう形式主義はやめてくれ」

浴室のドアが閉まる前、廉は客室を一瞥した。

「空気清浄機はつけたのか?部屋に油の匂いがする」

キッチンは冷え切っていた。

私は料理などしていない。

浴室からすぐにシャワーの音が聞こえてきた。

廉のシャワーはいつも四十分かかる。ボディソープを毎回瓶の半分使い、皮膚が赤くなるまで擦らなければ気が済まない。

私はソファの肘掛けに無造作に置かれたスーツを見た。

ずっと、この服は彼にとって触れてはいけないものだった。

少しでも触れようものなら「バイ菌がついた」と激怒し、服をハサミで切り刻んで捨ててしまう。

だが今は薄い化粧品の匂いがスーツに漂っていた。

私が近づくと同時に、胃の中で酸っぱいものがこみ上げる感覚がした。

ポケットに手を入れると指先に薄い紙が触れ、それを取り出した。

エコー写真だった。

【名前:小泉さくら】

【妊娠期間:6週間】

検査日は今日の午後だった。

6週間。

その頃、私は風邪で咳をしていて、廉は私にウイルスがあると怖がり、客室で一ヶ月も寝させられた。毎朝晩、主寝室にアルコールを噴霧させていた。

私はその紙を握りしめた。指の関節が白くなる。

シャワーの音が止まった。

廉がバスローブを着て出てきた。手にはアルコール綿を持ち、指を一本一本念入りに拭いている。

私の手にあるものを見て、廉の動作が止まった。

慌てた様子はない。

廉はアルコール綿をゴミ箱に捨て、近づいてきた。二本の指でエコー写真の端をつまみ、私の手から抜き取った。

動作は軽く、私の手に触れないよう配慮していた。

「見てしまったなら、説明の手間が省ける」

廉は写真を折りたたみ、テーブルに置いた。また濡れティッシュを取り出し、さっき写真に触れた指先を拭いた。

「さくらはお前とは違う。生き生きとしている。お前みたいな作り物じゃない」

私は廉を見た。

「作り物?」

廉の潔癖症に合わせるため、私は毎日三回もシャワーを浴び、家を塵一つない状態に保ち、呼吸さえ気をつけていた。

廉は濡れティッシュを丸め、正確にゴミ箱に投げ込んだ。

「知音、お前がおとなしくしていれば、瀬川夫人の座はお前のものだ」

廉は私を上から下まで眺めた。目線は、ショーウィンドウに飾られた陶器を評価するかのようだった。

「お前は清潔だからな。家に置いても邪魔にならない。

さくらに関しては、あいつは野生的すぎて家には連れて来られない。だが俺は好きだ」

そう言うと、廉は書斎に入った。

ドアが閉まる。

鍵のかかる音がはっきりと聞こえた。

私はその場に立ち尽くした。足元から冷気が這い上がってくる。

私の清潔さは、廉が体裁を取り繕うための隠れ蓑に過ぎなかったのか。
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