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第273話

Author: 一匹の金魚
真衣は、第五一一研究所のプロジェクトと論文に集中して取り組む必要があった。

そしてまもなく――国際宇宙設計大会の第二ラウンドが始まろうとしている。

真衣はそれに向けて準備を始めなければならない。

前回の地区予選を終え、今回は決勝戦になる。ここで勝ち進めば、アジア大会の準決勝または決勝戦の切符を手に入れることができる。

最近、真衣はエンジニア集団のノースアイと頻繁に連絡を取り合い、決勝戦に向けてずっと準備を進めている。

翌日。

真衣は第五一一研究所で、研究者たちと一緒にプロジェクトを進めていた。

昼頃になると、真衣は富子から電話を受けた。

「真衣、お医者さんが言うには、あなたはちょっと低血糖と貧血があるかもしれないって。だから、私は礼央に伝えておいたの。毎日、実家のお手伝いさんに栄養たっぷりのスープを新婚生活用の家まで届けさせるから、夜帰ったらちゃんと飲むのよ」

真衣は電話を取ったが、ちょっとうんざりした様子だった。

ただ――食事を届けるようなことは、以前にも富子はしたことがある。真衣のことを心配して、真衣が実家に戻る時間がない時には、よく実家のお手伝いさんに届けさせていた。

今になっては、真衣と礼央はもう離婚しているから、真衣にとってはありがた迷惑だ。

真衣は断らなかった。「わかりました」

断れば、また富子おばあさんの長々とした説教が始まる。

その時は、礼央に直接スープを飲ませればいいね。

「うん」富子は優しい声で、「仕事で無理しすぎないでね。私は今礼央のお見舞いで病院にいるけど、礼央と少し話さない?」

富子は二人を仲直りさせることに喜びを見出している。

以前は真衣も協力的で、富子が仲を取り持つのを喜んでいた。

「……」真衣は黙り込んでしまった。

「富子おばあさん、今仕事で忙しくて手が離せないのです――」

「そうなのね……」

富子もそれ以上は詮索せず、体に気をつけるようにと言って電話を切った。

一方、病院では。

電話を切った後、富子は病床に座っている礼央の方を見た。

礼央は落ち着いた表情でパソコンの画面を見つめており、仕事をしている。

富子が口を開いた。「聞くところによると、あなたは昨夜実家に戻ったそうね。入院中なのにまともに治療もせずに、何しに行ったの?」

「着替えを持ってくるためと、ついでに子供の様子を見るため
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