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第3話

Autor: ゆい
このまるで絵に描いたような「本物の家族」の光景を見せつけられ、澪はただただ滑稽に感じた。

本来なら自分の家族であり婚約者であるはずなのに、赤の他人である柚奈が彼らを宥め、自分を許すよう説得しなければならないだなんて。

4人は甘やかすように笑い合い、百合子は柚奈の頭を撫でて、仕方なさそうに言った。

「分かったわ。柚奈に免じて、一度だけ許してあげる」

柚奈は満面の笑みを浮かべ、わざとらしく澪に視線を送った。

「今回はお姉ちゃんが帰ってきて最初のパーティーだもん、盛大にやらなくちゃね!」

翔が即座に同調した。

「そうだな。澪はバラが一番好きだったよな。今すぐ3万本のバラを空輸で取り寄せて、パーティー会場を埋め尽くそう」

百合子も目を細めて笑った。

「澪は抹茶ケーキが一番好きよね。お母さんが腕によりをかけて手作りしてあげるわ」

「最近のオークションに、素晴らしい純白のドレスが出品されたんだ。澪は白が好きだから、落札させよう」

湊はそう言いながら、タブレットでドレスの写真と詳細を呼び出し、澪の前に置いた。

4人が口々に意見を出し合い、パーティーのプランをすっかり決めてしまった後で、ようやく澪が終始沈黙していることに気がついた。

「澪、パーティーのことで何か要望はあるかい?」

湊が心配そうに澪を見た。

澪はたまらず冷笑を漏らし、氷のように冷めた瞳で皆を見渡した。

「要望?」

「私はバラじゃなくてチューリップが好き。抹茶はアレルギーで食べられないし、服は白じゃなくて青が好きなの。

バラ、抹茶ケーキ、白。これって全部、柚奈の好物よね?そんなパーティーに、私から何の意見が出ると思ってるの?」

その淡々とした言葉は、見えない平手打ちとなって結城家の3人と湊の頬を容赦なく張り飛ばした。

両親は気まずそうに顔を見合わせ、慌てて取り繕った。

「ごめんなさいね、澪。うっかり柚奈とごっちゃになっちゃったみたい。悪気はなかったのよ」

しかし翔は顔を曇らせ、苛立たしげに声を荒らげた。

「澪、なんだその態度は!俺たちはわざと間違えたわけじゃない。そんな重箱の隅をつつくような真似をして何が楽しいんだ!」

湊は困ったように眉をひそめ、子供をあやすような穏やかな声でなだめた。

「澪、俺たちが悪かった。このプランが気に入らないなら、全部君の好きなものに変更しよう。それでいいかい?」

「必要ないわ」

澪は氷のような言葉を投げ捨て、一切振り返ることなく2階の自室へと引き上げた。

冷然と立ち去る彼女の後ろ姿を見送りながら、結城家の3人と湊の脳裏に、不意に同じ疑念がよぎった。

――澪は……刑務所に入って、すっかり人が変わってしまった。

翌日、パーティー会場へ向かうため、玄関先に数台の送迎車が横付けされた。

しかし柚奈が一足先に澪の腕に絡みついてきた。

「お姉ちゃん、久しぶりなんだから、一緒の車で会場に行こうよ!お姉ちゃんと仲良くしたいし、車の中で姉妹のナイショ話もしたいな」

澪が拒絶する間もなく、両親はこの「微笑ましい姉妹の情景」に満足そうに目を細めた。

「仲良くするのが一番だ。よし、私たちは別の車で行くから、2人でゆっくり積もる話をするといい」

彼らは澪と柚奈を同じ車に押し込むと、朗らかな笑顔で別の車に乗り込んでいった。

澪は車のドアに寄りかかり、隣で猫撫で声を出している人間を徹底的に無視した。

だが、しばらく走っていると、窓の外の景色がどんどん人気のない寂れた風景に変わっていく。

異変に気付いた澪は、険しい顔で柚奈を睨みつけた。

「ここは会場へ向かう道じゃない。私をどこへ連れて行く気!」

柚奈は答えず、相変わらず無邪気な笑みを浮かべたまま、パンッと手を叩いた。

すると前の運転席にいた男が突然車を急停車させ、怪しげなスプレー缶を取り出すと、後部座席の澪に向かって中身を噴射した。

奇妙に甘ったるい化学薬品の匂いが鼻腔を突き抜け、澪は急速に視界がぼやけていくのを感じた。そして、そのまま深い泥のような暗闇へと引きずり込まれ、意識を手放した。

――再び意識を取り戻した時、澪は手足を太いロープで縛られ、柚奈と背中合わせの状態で拘束されていることに気付いた。

カウントダウンを続ける時限爆弾が、それぞれの体に巻き付けられていた。

周囲は埃っぽく、がらんとして人気のない廃工場だった。

「柚奈お嬢様、結城家の3人と御堂さんには連絡を入れました。もうすぐ到着するはずです。他に何かご命令はありますか?」

覆面を被った拉致実行犯が携帯電話を弄りながら、柚奈に媚びへつらうように尋ねた。

推測するまでもなく、すべては柚奈が仕組んだ意図的な拉致だと理解した。

澪はロープから抜け出そうと力一杯もがきながら、氷のような声で尋ねた。

「柚奈!一体何のつもり!」

柚奈はクスクスと喉の奥で笑った。

「何のつもりかって?決まってるじゃない、お姉ちゃんをいたぶるのよ。タツ、この女を殴って。いい?服で隠れて見えないところを狙うのよ」

タツと呼ばれた男の拳が澪の腹部にめり込み、鈍い音が響く。その音を聞きながら、柚奈はひどく悦に入った様子で笑った。

「澪、刑務所から帰ってきたくらいで、自分の居場所が取り戻せるなんて勘違いしないでね。お父さんもお母さんも、お兄ちゃんも、湊も……みんなの心の中には、もう私しかいないんだから!

信じられないっていうなら、今からここで検証してみる?」

澪は歯を食いしばって激痛に耐え、顔色は死人のように蒼白だったが、その心の奥底には、まだ抱くべきではない僅かな期待が残っていた。

次の瞬間、複数の慌ただしい足音が遠くから近づいてくるのが聞こえ、男は頃合いを見計らって、足早に裏口から逃げ出した。

結城家の3人と湊が血相を変えて駆け込んできた。全員、髪や衣服がひどく乱れており、肩で大きく息を切らしている。

澪と柚奈が爆弾を巻き付けられた無惨な姿を見るなり、4人は胸を締めつけられたような表情を浮かべ、その瞳は心配そうな色に染まった。

「澪!柚奈!大丈夫か!」

湊は悲痛な面持ちで叫んだが、2人の体にそれぞれ巻き付けられた爆弾を前に、どう手をつければいいのか分からず、その場に立ち尽くした。

無慈悲な電子音を響かせてカウントダウンを続けるタイマーに、全員が息を呑んで凍りついた。

柚奈は大粒の涙をぽろぽろとこぼしながら、いじらしく自己犠牲を装って叫んだ。「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、湊!爆弾のタイマーがもうすぐゼロになっちゃう。一人しか助けられないよ!私は死んでもいいから、どうかお姉ちゃんを先に助けてあげて!」

4人は蒼白な顔を見合わせ、互いの瞳に浮かぶ強烈な葛藤と焦燥に苛まれた。

この瞬間、澪と柚奈は同時に、生を渇望し、縋るような眼差しを彼らに向けた。

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