Share

第2話

Author: 年華
「駿」

「ん?」

「私の目を見て」

駿が私の目を見つめた。

「本当は、別の理由があるんじゃないの?」

「別の理由って?」

「もう、結婚したくなくなった?」

駿の眉間に皺がよる。「何言ってるんだよ?俺が結婚したくないなんて、いつ言った?」

「じゃあ、なんで式をキャンセルしたの?どうして黙ってたの?」

「お金がもったいないって思ったって言っただろ?」

「駿」

私は駿の言葉を遮った。

「付き合って3年になるんだよ?あなたのことは、理解してるつもり。先月は昇給したし、ボーナスも出たでしょ。なのに、あなたのお父さんが準備してくれた結婚資金にも一切手をつけてない。

いつからそんなにお金に厳しくなったの?」

駿は何も言わない。

「本当に式が無駄だと思っているなら、相談しようよ」

そう言って私は一歩前に出た。

「なんで私に内緒でキャンセルなんかしたの?なんで相談してくれなかったの?」

「今、こうして相談してるじゃないか?」

「これが相談?」

私はテーブルの上の資料を指す。

「もうキャンセルしてるのに、それが相談だって言うの?これは相談じゃなくて、報告なの!」

深呼吸をした駿は、私から顔をそらした。

「母さんにはもう話してある。

だから、美月のお母さんにも、もう式は挙げないって伝えて」

頭を殴られたような衝撃を感じた。

「あなた、お母さんに言ったの?」

「ああ、言ったよ」

「なんて言ってた?」

「向こうは……」

駿は言葉を切った。

「俺たち二人で決めたことならそれでいいって言われた」

私は駿の横顔をじっと見つめる。

「駿。携帯を見せて」

「何て?」

「私にあなたの携帯を見せて」

駿の手が僅かだが、さっと後ろに引かれた。ほんの一瞬の、本当に小さな動きだった。

けれど、私は見逃さなかった。

「何を見るつもり?」

駿の声が少し強張っている。

「俺の携帯に面白いものなんて何にもないから」

「前はいつでも見せてくれたじゃん」

「だからといって、毎日見るもんじゃないだろ?」

私は駿に近づき、手を伸ばした。「貸して」

駿が一歩後ずさる。

「美月、こんなことはやめよう」

「こんなことって?」

「こんなふうに……」

駿は私の手を避けた。

「こんなふうに、俺を信じないのはやめてくれ」

私は笑ってしまった。

「私があなたを信じていないって?私に内緒で式をキャンセルしたのは、駿だよね?あなたが先に、隠し事をしたの。なのに、今さら私に『信じないのか』なんて言うわけ?」

駿は何も言わずに、ポケットへと手を突っ込んだ。その中に携帯があるのだろう。

「出して」

「出さない」

「駿」

「出さないって言ったら、出さないから」

駿の口調が厳しくなる。

「携帯は俺のプライバシーだ。どうして君に見せなきゃいけないんだよ?」

「前はそんなこと言ってなかったじゃない。

前だったら、俺たち二人の間にプライバシーなんかない、見たい時はいつでも見ていいって言ってたよね?」

「それは過去の話だ」

「じゃあ、今は?」

駿が再び黙り込んだ。

私は3年間一緒にいたこの男をじっと見つめる。

テーブルを挟んだ向こう側に立っているが、駿がもうずっと遠いところにいるような気がした。

「隠していることがあるの?」

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 無断で式を消した浮気男。後悔してももう遅い   第14話

    私は何も答えなかった。「美月はまだ若いんだから、先は長い。あんな男のために時間を無駄にしないで」私は母の目を見つめる。白髪が増え、目尻のしわも深くなった母。でもその瞳には、強い光が宿っていた。「お母さん」「ん?」「分かった」母が私の髪を優しく撫でた。「分かればいいのよ。さあ、食べて」その日の夜、食事を終えた私は母を見送った。家に戻ると、知らない番号から通知が届いていた。【美月、駿だ。着信拒否されているのは分かっているし、信じてもらえなくてもいい。でも、本当に後悔しているって伝えたくて。許してほしいわけじゃないんだ。ただ、君に謝りたい。本当にごめん】それから長い月日が過ぎた。片付けをしていた私は、古い箱を見つけた。開けてみると、懐かしい物がいろいろと入っていた。昔の友達との写真や、旅行の半券。そして、一枚の色あせた紙切れ。紙切れを手に取ってみると、そこには下手な字でこう書いてあった。【美月と永遠に一緒】私はしばらく考えて、ようやくそれが誰の字か思い出す。駿だ。昔一緒に旅行へ行ったとき、彼が写真の裏に書いたものだった。その紙切れをしばらくじっと眺めていたが、私はそれを破りゴミ箱へと捨てた。窓からは陽光が差し込み、テーブルを照らす。枯れたユリの花を片付け、それもゴミ箱へ放り込むと、私は片付けを再開した。すると、母からラインが送られてきた。【週末はうちに帰ってくる?美月の好きなものを作るよ】【帰るよ】すぐに返信が来る。【一人?】私は少し戸惑ったが、【一人】と返した。母から笑顔のスタンプが届いた。【分かった。待ってるね】携帯を置き、私は窓の外を見る。青い空に、白い雲、そして穏やかな陽光。街路樹からも鳥の鳴き声が聞こえる。私は立ち上がり、窓辺まで歩いて外を眺めた。遠くの建物、近くの木々、道行く人びと。何もかも、昔と変わらない。けれど、何かが違う。これから先、どうなるかは分からないし、誰と出会い、何が起きるのかも分からない。でもちゃんと生きていけることだけは、確かだ。一人でも、二人になっても、私は前を向いて歩いていく。外の鳥が鳴き声を残し、翼を広げて大空へと羽ばたいた。遠くへ消えていく鳥を見送る。私は体を翻すと、再び部

  • 無断で式を消した浮気男。後悔してももう遅い   第13話

    「それで?」駿が俯く。「わからない。ただ、会いたかったんだ」私は駿を見つめるだけで、何も言わなかった。「母さんが言ってた。君が復縁を断ったって」「うん」「分かってる。でも俺は……」駿が顔を上げた。「ただ、ごめんって言いたくて……」「もう聞いたよ」「ああ。でもあの時言ったことと、今言いたいことは違うんだ」「どこが違うの?」駿は私を見た。「前は謝れば許されると思ってたけど、今は本当に自分が何をしたのか、本当に後悔してるんだ」少しして、駿が再び顔を上げた。「俺のことを滑稽だと思うか?」「少しね」駿は苦笑いを浮かべた。「自分でもそう思う。莉子のせいで、君を失ってしまったなんて」私は黙っていた。駿が一歩前に歩み寄ってくる。「美月、本当にやり直すことはできないのかな?」私は駿を見た。彼の瞳に期待なのか、あるいは哀れなすがりつきのようなものが浮かんでいる。けれど、私の脳裏に別のことが蘇ってきた。結婚式を取りやめた理由を彼に聞いた時の、あの冷たい言葉の数々。駿に突き飛ばされた時のあの手の感触。私に「金遣いが荒い」、「文句ばかりだ」、「うんざりだ」と言い捨てたこと。待ち受け画面を莉子の写真に変えていたこと。私よりも莉子のほうが何倍もいいと言い放ったこと。「駿」「ん?」「いくつか質問させて」「ああ」「椎名さんといる時、私のことを考えた?」駿が少し戸惑った。「考えたよ」「何を?」「それは……」駿は言葉を区切る。「俺が今していることは正しいのか、って」「それで?」「『一回だけだ、もう二度としない』って自分に言い聞かせてた」私はじっと駿を見た。「一回だけ?」駿は黙った。「それから?」「それから、今回だけ、この一回だけって……歯止めが利かなくなった」私は小さく頷く。「じゃあ、2つ目の質問ね。椎名さんと一緒にいる時、私たちの結婚式のこと、少しでも考えた?招待状を出して、式場を決めて、ウェディングドレスの試着まで済ませていた私たちの結婚式のことを、ね」駿は顔を上げ、私を見ながら何かを言おうとしていたけれど、結局何も言わなかった。私は淡々と彼を見つめた。「駿、あなたが愛しているのは私じゃ

  • 無断で式を消した浮気男。後悔してももう遅い   第12話

    雲嶺市から戻り、いつもの日常が戻ってきた。仕事へ行き、帰ってきて、ご飯を食べて、眠る。たまには友人と食事に出かけ、時々実家に帰っては両親と過ごす。駿から連絡は来なかったし、私も莉子のことは、誰にも話さなかった。母に雲嶺市はどうだったか聞かれた私は、景色がきれいで良かったと答えた。母はそんな私を見ていたが、深くは追及してこなかった。1週間後の午後、会議中に携帯が震えた。母からの着信。私は電話に出ず、ラインを送る。【会議中だからあとで電話する】返事が来た。【早く帰ってきなさい。話があるの】そのメッセージを見て、胸がどきりとした。母がこうやって連絡してくることは、めったにない。退勤後、私は急いで家に帰った。扉を開けると、顔色の優れない母がソファに座っていた。父も横に座っていて、その表情はどこか険しい。「どうしたの?」バッグを置いて、私は二人の向かいに座る。母が一度父を見てから、私の方を見た。「美月。今日ね、駿さんのご両親がうちに来たの」私は動きを止めた。「何しに来たの?」母は大きくため息をついた。「駿さんの件、もう知っているんでしょ?」「何のこと?」「あの浮気相手と別れたってこと」私は何も言えなかった。「相手に騙されて大金を失った上、別の男に走られたらしいわ」母の口調には、なんとも言えない感情が混ざっていた。「今日駿さんのご両親が来たのは、その相談だった」「なんて言ってたの?」母が私を見つめる。「あなたと復縁させてほしいって」私は絶句した。「復縁?」「ええ」「向こうはどういうつもりなんだろう?」母が深くため息をつく。「駿さんも自分の過ちに気づいたみたいで、今は酷く後悔してるそうよ。仕事にも行かずに寝込んで、ご飯も喉を通らないんですって。だから、駿さんのお母さんも相当焦っている様子だったわ」「それで私に?」「駿さんとやり直してほしいって、言いに来たみたい」私はしばらく座ったまま、言葉を失っていた。母が心配そうに私を見る。「美月、どうしたい?」私は顔を上げて母を見る。「お母さんは、どう思う?」母は一瞬、黙り込んだ。「お母さんは、駄目だと思う。浮気してるときはあなたのことなんて頭にもなかったく

  • 無断で式を消した浮気男。後悔してももう遅い   第11話

    道端に立ち、私に背を向けて電話をしている男。見覚えのある後ろ姿だ。私は足を止めた。男がこちらを向き、顔が見える。駿。駿も私に気づいたらしい。私たちは数メートルの距離をあけて、そのままお互いを見つめた。駿が先に口を開く。「美月?」「うん」「なんでここにいるんだ?」「出張」「そうか」駿は電話を切り、何を話すべきか迷っている様子だった。だから、私もそのまま、駿が道を空けてくれるのを待った。だが、駿はいつまでたってもどかない。「ひとりか?」と駿が聞く。「うん」「何日いるんだ?」「あさって帰るよ」「そうか」また静寂が流れる。「あのさ……」と何かを言いかけた駿だったが、結局は言葉を飲み込んだ。私は彼の顔をじっと見た。1ヶ月ぶりの駿は少し痩せていて、目の下には隈があり、無精髭まで生えている。それに、服まで皺だらけ。前よりもずっと、ひどい状態だった。「何か用?」と、私は尋ねる。「いや、なんでもない」駿はようやく道を開けてくれた。私は振り返らずに彼のそばを通り過ぎる。「美月!」駿が背後で私を呼び止めた。私は歩みを止めたけれど、振り返りはしない。「莉子のこと知ってるか?」私は駿の方を向いた。街灯の下に立つ駿の顔は、オレンジ色の灯りに照らされ、光と影に半分ずつ分かれていて、その表情はよく読み取れない。「何?」「あいつ……」駿が一呼吸置いた。「他の男と付き合ってるみたいなんだ」私は何も答えなかった。「つい数日前に知ったんだ」その声は沈んでいく。「莉子がいるっていうから、会いに来たのに……」「会えたの?」「ああ」「それから?」駿は何も言わない。あの日のカフェの入口で見た光景を、ふと思い出す。莉子の肩を抱く男と、拒まない彼女の姿。駿が顔を上げて言った。「男と仲良さそうにしていてさ。誰かって聞いたら『ただの友達だ』って平然と言うんだよ」「で?」「『俺たち付き合ってるんだよな?』って聞いたら、『いつ付き合ったの?何回か食事をしただけで、恋人関係じゃないでしょ』ってさ」駿の声は、どんどんと小さくなっていく。なんと言ったらいいか分からない私は、ただその場に立ったまま。「プレゼントも

  • 無断で式を消した浮気男。後悔してももう遅い   第10話

    私は部屋まで上がり、扉を閉めて、外の音を遮断した。その後の数日間は休暇をもらい、仕事を休み、家から出ることもせずに、食べては寝るのを繰り返し、何もせずに過ごした。1ヶ月後、会社で雲嶺市へ出張する機会があったため、私は自らその出張に志願した。それからすぐに上司の許可が出て、1週間出張へ行くことになった。母が出張の行き先を、私に聞いてくる。「プロジェクトの打ち合わせで、雲嶺市へ行くの」「一人で行くの?」「そうだよ」母は少し沈黙してから言った。「気を付けて、毎日連絡を入れてね」「わかった」雲嶺市に着いたのは午後のことだったが、青い空に白い雲、とても空気が美味しい。私はホテルにチェックインし、荷物を置いて街へ繰り出す。そこは観光客で賑わっていた。私はあてもなく歩きながら、店先に並ぶさまざまな商品に目を向けた。角を曲がるとカフェがあり、テラス席に何人か客が座っていた。そこを通り過ぎようとした時、不意にある人の姿を見つけた。端の席に座っている、花柄のワンピースを着た女性が携帯を見ている。私は足を止めた。そして彼女が誰なのか思い出した。莉子だ。その名前が、突然記憶の中から飛び出してきた。直接会ったことはないけれど、駿の携帯の待受画面は見たことがあり、今、その顔が私の目の前にあった。髪を下ろし、綺麗なワンピースを着ている莉子は、写真よりも少しだけ痩せて見える。その横には一人の男が座っていたが、駿ではなかった。私はその場に3秒ほど立ち尽くした。しかし、すぐに見なかったことにして前へ進む。私が通り過ぎた瞬間、男が口を開いた。「莉子、もうちょっと座ってようよ。急ぐことはないだろ?」ただならぬ関係みたい。私は足を止めずに先へ進む。「駄目。もうすぐ雨が降るから」莉子の声も聞こえた。「雨なんて平気だよ。俺が送っていくよ」「大丈夫、私は一人で帰るから」「じゃあ明日また会えるか?」「好きにすれば?」少し歩いてから、私は振り返ってみた。男が立ち上がって莉子に歩み寄り、耳元で何か囁いている。莉子は笑って、男を軽く押した。男も笑いながら、莉子の肩を抱き寄せる。莉子は拒まなかった。私は向き直り、先へ進んだ。ずっと遠くまで歩いて、ようやくその足を

  • 無断で式を消した浮気男。後悔してももう遅い   第9話

    目を赤く充血させ、ぼさぼさの髪で、昨日よりもずっと疲れ果てた様子の駿。その時、ふと駿の手元に握られていた携帯の待ち受け画面が目に入った。知らない女性の写真になっている。きっと、莉子なのだろう。だが、それを見ても私の心は静かなままだった。「うん」「これで君は満足か?」私は駿を見上げた。その言葉がおかしくて、思わず笑いそうになる。「あなたのお母さんが怒ったのは、あなたが浮気したからでしょ?別に、私が頼んだわけじゃないから」「じゃあ、なんで母さんに話したんだよ?」「向こうが電話で聞いてきたから、事実を伝えただけ。それの何が問題なの?」言葉を詰まらせた駿は、その場に立ち尽くし、何か言おうとしているようで、口を開いては閉じるということを繰り返していた。しばらくして、彼が話し始めた。「美月、俺たち付き合って3年の仲だろ?なのに、よくそこまで冷たくなれるな」「私が冷たい?」「ラインもブロックして、電話も着信拒否。さらには、俺の母さんにまでバラしてさ。俺が追い込まれる姿を見て、そんなに楽しいのかよ?」私は3年もの間、毎日見てきたその駿の顔を、じっと見つめた。そこには怒りや不満、納得がいかないという表情が浮かんでいるが、反省の色だけは見当たらない。「駿、そんなことを言いに来たの?」「君がひどすぎるって、それを伝えたかったんだ」「私がひどい?」「ああ、俺たちの問題なのに、なんで親まで巻き込んだんだよ?母さんたちは高齢なんだから、もしショックで倒れたらどうするつもりだ?」私は笑ってしまった。「あなたのお母さんは歳だから、刺激しちゃいけない?じゃあ、うちの母は?真夜中に駆けつけて、地べたに座り込んで泣いている娘を見ることが、当然だとでも言うの?」駿が黙り込む。「駿。自分の心に聞いてみて?結局、最初にひどいことをしたのはどっち?」駿は顔をそらし、横にある木を見つめた。「俺が悪かったのは認める。じゃあ君は?自分には何も問題がなかったとでも言うのか?」「私に何の落ち度があるの?」「君は……」駿は私に、これまで向けたことのないような視線を向けた。「頑固すぎるんだよ。何でも自分の思い通りにしないと気が済まない。結婚式もカメラマンも、高いものばかり要求して。そこで、俺が少しで

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status