Short
無断で式を消した浮気男。後悔してももう遅い

無断で式を消した浮気男。後悔してももう遅い

By:  年華Completed
Language: Japanese
goodnovel4goodnovel
14Chapters
42views
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
SCAN CODE TO READ ON APP

結婚式1週間前、会場のホテルから予約がキャンセルされたとの連絡が突然入った。 私・葉山美月(はやま みつき)は急いでサイトの予約状況を確認すると、確かに3日前にキャンセルの手続きが済んだことになっている。 この式のために、私は婚約者の吉沢駿(よしざわ しゅん)と何日も徹夜で、プランを練り、あちこちのホテルを見比べては、料理の試食にも通い詰めた。 キャンセルなんて納得できない。ホテル側で何か手違いがあったはず。 そう思った私は、すぐにホテルへと電話をかけた。 「もしもし。5月20日に結婚式の予約をしている者なのですが。 こちらはキャンセルしていないのに、先ほどキャンセル通知が届いたので、もしかしたらシステムの不具合じゃないかと思ってご連絡させていただきました」 電話の向こうで、担当者が少し沈黙する。 「システム上ですと、3日前に吉沢様が直接お越しになって、キャンセルの署名をされています。 一度、吉沢様に確認していただけますか?」

View More

Chapter 1

第1話

結婚式1週間前、会場のホテルから予約がキャンセルされたとの連絡が突然入った。

私・葉山美月(はやま みつき)は急いでサイトの予約状況を確認すると、確かに3日前にキャンセルの手続きが済んだことになっている。

この式のために、私は婚約者の吉沢駿(よしざわ しゅん)と何日も徹夜で、プランを練り、あちこちのホテルを見比べては、料理の試食にも通い詰めた。

キャンセルなんて納得できない。ホテル側で何か手違いがあったはず。

そう思った私は、すぐにホテルへと電話をかけた。

「もしもし。5月20日に結婚式の予約をしている者なのですが。

こちらはキャンセルしていないのに、先ほどキャンセル通知が届いたので、もしかしたらシステムの不具合じゃないかと思ってご連絡させていただきました」

電話の向こうで、担当者が少し沈黙する。

「システム上ですと、3日前に吉沢様が直接お越しになって、キャンセルの署名をされています。

一度、吉沢様に確認していただけますか?」

電話を切った後も担当者に言われた言葉が、頭の中でずっと繰り返されていた。携帯を握る手も次第に冷たくなってくる。

3日前にキャンセル?

3日前といえば、私と駿は一緒に招待状のデザインを選んでいたはず。

それに、引き出物はどうするかとか、週末にもう一度メイクの打ち合わせに行こうかなどとも相談していたのに。

電話を切った後の私はリビングで立ち尽くし、テーブルに広げていた結婚式の打ち合わせ資料を眺めた。

その時、ドアの鍵が開く音がした。

駿が靴を脱いでいる音も聞こえる。

「美月が好きな栗大福買ってきたよ」

玄関の方から駿が話しかけてきた。

「30分並んで、最後の一つをなんとか買えたんだ」

私はまだ立ったまま動けないでいた。

袋を提げてリビングに入ってきた駿が、笑顔で私を見て不思議そうに首を傾げる。

「どうしたの?ぼーっとそんな所に立って」

駿がテーブルに袋を置き、中の箱を取り出す様子を私は見ていた。そして、彼はいつものように栗大福の箱を開け、私にひとつ渡す。

「食べてみて。作りたてだから、すごく柔らかいと思うよ」

私はそれを受け取らなかった。

「駿。私に話すべきことがあるんじゃないの?」

駿の動きがぴたりと止まった。

だがすぐに、彼は栗大福を箱の中に戻し、顔を上げると私を見つめ、いつもの優しい笑みを浮かべた。

「何のこと?俺の母さんが今週末来る話?さっきラインで……」

「結婚式場のこと」

駿が黙り込み、リビングの中が静まり返る。

打ち合わせ資料で埋め尽くされたテーブルを挟んで、私と駿は対面で立ち、見つめ合った。

「今日ホテルの担当者の人から聞いたの。3日前、あなたは直接フロントに行って、キャンセル手続きをしたんでしょ?」

駿が視線を落とし、机の上の資料を見つめた。

「美月」と彼が静かに私の名前を呼ぶ。「ちょうど相談しようと思っていたんだ」

「相談って何を?」

「結婚式のことだよ」

駿が顔を上げた。

「結局のところ、結婚式を挙げる必要がないと思うんだ。お金ももったいないしね。コース料理だって10テーブルも用意したら、たった数時間で100万くらい消えるだろ?

それに、結婚式の演出も、司会もカメラマンも、ぜんぶが高すぎる。このお金があったら、もっと他の有意義なことに使えると思わない?」

私は駿を見つめ続ける。

「でも、私たちが相談して決めたことでしょ?

それに、一生に一度のことだから、多少お金をかけてもいいってあなたが言ったんじゃない。

後で後悔したくないから、ちゃんとしたカメラマンをお願いしようって言ったのも、あなただよね?」

「考え直したら、やっぱり必要ないなって思ったんだよ。

それに、今は式を挙げないカップルも多いだろ?節約にもなるし、代わりに旅行なんかはどう?ほら、美月が前に行きたがっていた雲嶺市へ新婚旅行に行こうよ」

Expand
Next Chapter
Download

Latest chapter

More Chapters
No Comments
14 Chapters
第1話
結婚式1週間前、会場のホテルから予約がキャンセルされたとの連絡が突然入った。私・葉山美月(はやま みつき)は急いでサイトの予約状況を確認すると、確かに3日前にキャンセルの手続きが済んだことになっている。この式のために、私は婚約者の吉沢駿(よしざわ しゅん)と何日も徹夜で、プランを練り、あちこちのホテルを見比べては、料理の試食にも通い詰めた。キャンセルなんて納得できない。ホテル側で何か手違いがあったはず。そう思った私は、すぐにホテルへと電話をかけた。「もしもし。5月20日に結婚式の予約をしている者なのですが。こちらはキャンセルしていないのに、先ほどキャンセル通知が届いたので、もしかしたらシステムの不具合じゃないかと思ってご連絡させていただきました」電話の向こうで、担当者が少し沈黙する。「システム上ですと、3日前に吉沢様が直接お越しになって、キャンセルの署名をされています。一度、吉沢様に確認していただけますか?」電話を切った後も担当者に言われた言葉が、頭の中でずっと繰り返されていた。携帯を握る手も次第に冷たくなってくる。3日前にキャンセル?3日前といえば、私と駿は一緒に招待状のデザインを選んでいたはず。それに、引き出物はどうするかとか、週末にもう一度メイクの打ち合わせに行こうかなどとも相談していたのに。電話を切った後の私はリビングで立ち尽くし、テーブルに広げていた結婚式の打ち合わせ資料を眺めた。その時、ドアの鍵が開く音がした。駿が靴を脱いでいる音も聞こえる。「美月が好きな栗大福買ってきたよ」玄関の方から駿が話しかけてきた。「30分並んで、最後の一つをなんとか買えたんだ」私はまだ立ったまま動けないでいた。袋を提げてリビングに入ってきた駿が、笑顔で私を見て不思議そうに首を傾げる。「どうしたの?ぼーっとそんな所に立って」駿がテーブルに袋を置き、中の箱を取り出す様子を私は見ていた。そして、彼はいつものように栗大福の箱を開け、私にひとつ渡す。「食べてみて。作りたてだから、すごく柔らかいと思うよ」私はそれを受け取らなかった。「駿。私に話すべきことがあるんじゃないの?」駿の動きがぴたりと止まった。だがすぐに、彼は栗大福を箱の中に戻し、顔を上げると私を見つめ、いつもの優しい笑
Read more
第2話
「駿」「ん?」「私の目を見て」駿が私の目を見つめた。「本当は、別の理由があるんじゃないの?」「別の理由って?」「もう、結婚したくなくなった?」駿の眉間に皺がよる。「何言ってるんだよ?俺が結婚したくないなんて、いつ言った?」「じゃあ、なんで式をキャンセルしたの?どうして黙ってたの?」「お金がもったいないって思ったって言っただろ?」「駿」私は駿の言葉を遮った。「付き合って3年になるんだよ?あなたのことは、理解してるつもり。先月は昇給したし、ボーナスも出たでしょ。なのに、あなたのお父さんが準備してくれた結婚資金にも一切手をつけてない。いつからそんなにお金に厳しくなったの?」駿は何も言わない。「本当に式が無駄だと思っているなら、相談しようよ」そう言って私は一歩前に出た。「なんで私に内緒でキャンセルなんかしたの?なんで相談してくれなかったの?」「今、こうして相談してるじゃないか?」「これが相談?」私はテーブルの上の資料を指す。「もうキャンセルしてるのに、それが相談だって言うの?これは相談じゃなくて、報告なの!」深呼吸をした駿は、私から顔をそらした。「母さんにはもう話してある。だから、美月のお母さんにも、もう式は挙げないって伝えて」頭を殴られたような衝撃を感じた。「あなた、お母さんに言ったの?」「ああ、言ったよ」「なんて言ってた?」「向こうは……」駿は言葉を切った。「俺たち二人で決めたことならそれでいいって言われた」私は駿の横顔をじっと見つめる。「駿。携帯を見せて」「何て?」「私にあなたの携帯を見せて」駿の手が僅かだが、さっと後ろに引かれた。ほんの一瞬の、本当に小さな動きだった。けれど、私は見逃さなかった。「何を見るつもり?」駿の声が少し強張っている。「俺の携帯に面白いものなんて何にもないから」「前はいつでも見せてくれたじゃん」「だからといって、毎日見るもんじゃないだろ?」私は駿に近づき、手を伸ばした。「貸して」駿が一歩後ずさる。「美月、こんなことはやめよう」「こんなことって?」「こんなふうに……」駿は私の手を避けた。「こんなふうに、俺を信じないのはやめてくれ」私は笑ってしまった。
Read more
第3話
「ない」「なら、携帯を見せて」「駄目だ」「どうして駄目なの?」「駄目なものは駄目なんだ」私は前へ進み、テーブルを回って駿の目の前に立った。しかし、彼は後ろに下がり、玄関まで行くと背中でシューズボックスを押さえた。「美月」私は駿のポケットへ手を伸ばす。しかしその瞬間、彼に強く手首を掴まれ、あまりの痛さに、私は思わず息を呑んだ。「離して」「こんなことはするな」「駿、離して!」駿は関節が白くなるほどの力で、私の腕を掴んでいる。どうやら携帯の中身を見られることをひどく恐れているらしい。こうされればされるほど、私は中身が気になってしょうがない。「美月!」声を荒らげた駿が、勢いよく私を押した。よろめいた私は背中を壁に打ちつけ、あまりの痛さに声すら出ない。玄関に立つ駿は怒りで胸を上下させ、携帯を握りしめている。私たちは互いを見つめたまま、どちらも口を開かなかった。長い時間が過ぎ、駿が視線をそらした。「ちょっと出てくる」小さくそう呟いた駿。「お互いに少し頭を冷やそう」駿はドアを開けて外へと出ていった。玄関が閉まる音が響く。私は壁に背を預けたまま、ずるずると床にへたり込んだ。長い間そこに座っていたらしく、顔を上げれば外はすっかり暗くなっていた。私は体を起こし、携帯を探す。電話帳から母に呼び出しをかけた。すぐに電話はつながった。「美月?どうしたの、こんな時間に」母の声を聞いた瞬間、目頭が熱くなった。「お母さん」私は声を絞り出した。「結婚式キャンセルになった」「え?」「駿が私には内緒で、ホテルで手続きしてきたみたい。今日やっとわかったの」電話の向こうで数秒の沈黙が流れた、次の瞬間……母の叫ぶような声が響いた。「どういう意味?なんで勝手にそんなことするの?喧嘩でもしたの?」「してない」「じゃあどうして?」「お金がもったいないからって」私はソファに寄りかかり、天井を見上げる。「もう駿の両親には伝えてあるから、お母さんたちにも言っておけって言われたの」「冗談じゃない!」母が声を荒らげた。「お金がもったいない?そもそも式を挙げるって誰が決めたのよ!ちゃんとした式を挙げるって言ったのは向こうなのに、今更お金がもったいないって
Read more
第4話
私はラインのトークリストを開いて、下にスクロールした。怪しいものは何もない。仕事のグループばかりで、友人との会話も数日前のものだけ。それでも私は諦めきれず、写真フォルダやネットの閲覧履歴もチェックした。だが、何も見当たらない。私の勘違いだったのか?本当にお金の無駄だと思っただけなのだろうか?でも、駿のあの目、あの避け方、そして……私を押したあの時の動作。私はもう一度、駿が使うネットショッピングアプリを開いてみた。注文履歴には「配送待ち」の商品が3つ。配送先は、私たちの家ではない。どこの区か分からないけれど、知らないマンションの一室だった。私はその住所を頭に刻み込む。そこは私たちのマンションでもないし、私には縁もゆかりもない場所。注文の詳細を開いてみる。1件目は、1週間前。ワンピースが一着。サイズはSで、値段は4万6000円。私のサイズじゃない。2件目は、5日前。スキンケアセットで、3万6000円。私が使っているブランドじゃない。3件目は、3日前。香水が一瓶。1万8000円ほどだった。私が好きな香りとは違う。タブレットを置こうとしたが、指の震えが止まらない。さらに過去の注文履歴を遡って見ていく。2ヶ月前、チョコレートが1箱。1ヶ月前、イヤリングを1組。半月前には花束。どれも、先ほどの住所へと届けられていた。受取人の名前は、椎名莉子(しいな りこ)。私はその名前を何度も見直したが、やはり知らない人だ。今度は支払履歴、デリバリーの記録、移動の履歴まで全部調べてみることにした。確認するたびに、指の震えが激しくなる。先週の木曜日には、ペアコースでレストランの予約がされていた。その日、駿は「残業だ」と言って夜の9時過ぎに帰ってきた。夕食は、会社で適当に弁当を食べたと言っていたのに。その前の週の日曜日には、映画のチケットが2枚。その時も、駿は「会社で会議がある」と言って、午後に出かけて夜に戻ってきた。私はずっと家でドラマを見ながら、駿が帰ってくるのを待っていた気がする。タクシーの記録を見ると、そのマンションには週に少なくとも2回は通っていた。一番最近は、3日前。私はタブレットを閉じた。すると、母からメッセージが送られてきた。【お父
Read more
第5話
父は何も言わず、私をじっと見つめていた。「美月はどうしたい?」私はどうしたいのだろう?あの注文履歴を思い出す。届け先の住所に相手の名前……残業だと言っていた駿、会議があると言っていた駿、疲れたから早く寝るという言葉。「お父さん、一つだけ確かめたいことがあるの」「何だ?」私は立ち上がって書斎に行き、タブレットを持ってきた。注文履歴を開いて、父に差し出す。父はそれを見て、眉間に皺を寄せた。母も覗き込んで、画面を見終えると、目に涙を溜めて私を見つめた。「その住所、私の家じゃないの。それらの品物だって、私宛てのものじゃない」リビングに静寂が広がる。母は涙を拭い、父は長いこと黙り込んでいた。「どうするつもりだ?」と父が聞いた。私は両親を交互に見る。「とりあえず、駿が帰ってくるのを待つよ。本人から理由を聞きたいから」「今さら何を聞くことがあるの!」と母が言った。「もう証拠は揃ってるじゃない?これ以上何があるの?」「お母さん、私は本人から直接聞きたいの」すると、父が母の肩をポンと叩いた。「美月に任せよう」母は何か言いたげだったが、父がそれを制し、私に向き直って言った。「何かあったら、いつでも電話してこい。夜中でも構わないからな」「わかった」「それじゃ、俺たちは帰るぞ」「うん」玄関まで送ると、母が戻ってきて私を抱きしめた。それは、苦しくなるほど強い抱擁だった。「美月、お母さんが一緒にいてあげる」「大丈夫だよ、お母さん。二人とも帰って。ちょっと一人になりたいから」母は私を離し、じっと顔を見つめたあと、溜息をついて父の後を追った。ドアが閉まり、再び部屋に静けさが戻る。駿はまだ帰ってきていない。私は彼にメッセージを送った。【帰ってきて。話し合いたいことがあるの】返信は来なかった。私はその場に座り込み、結婚式関連の資料、栗大福、この家にある二人のものを、ぼんやりと見つめた。夜が明けたころ、玄関の鍵が開く音がした。顔を上げると、駿が入ってきた。ソファに座る私に気づいて彼は少し戸惑ったようだが、駿はすぐに視線を逸らし、寝室へ向かって歩き出した。私は立ち上がってその後を追った。駿はスーツケースを取り出し、次々と服を詰め込み始める。Tシャツ
Read more
第6話
駿の動きが止まった。顔を上げて私を見る彼の瞳の中に、今まで見たことのない色が混ざっている。後悔でも、焦りでもない……何か、別のもの。私はそれが何か言葉にできなかった。「どうしてそれを知ってるんだ?」「タブレットでネットショッピングアプリが開かれたままだったから」駿は数秒黙り込んだあと、手元のTシャツを乱暴にスーツケースへ放り込んだ。「君も知ってしまったんだったら、もう隠すのはやめるよ」私は駿が話し始めるのを待った。「そうだよ。俺、浮気してる。学生時代に好きだった女の子で、莉子っていうんだ。最近連絡があってさ、ずっと忘れられなかったって言われたんだ。それから何度か会って、いろいろ話をした。そしたら、昔の俺からの告白を断ったことを後悔してるって、莉子が言ったんだよ。今からやり直したいって」「だから式をキャンセルしたの?」それに、駿は答えなかった。「ねえ、式をキャンセルしたのは、その椎名さんのせいなの?」駿は私を見たまま、やはり何も言わない。図星ということだろう。ベッドの縁に腰を下ろした私は、全身の力が一気に抜けていく気がした。いろいろと考えたのに。駿が借金を抱えているのか?実家でトラブルがあったのか?それとも病気なのか……と。まさか、こんな理由だとは思わなかった。「どれくらいなの?」と私は聞いてみる。「どれくらいって何が?」「椎名さんと付き合って、どれくらい経つの?」駿が視線を逸らした。「2ヶ月と少しかな」2ヶ月と少し、か。2ヶ月と少し前といえば、私たちがまだウエディングドレスの試着を行っていた頃だ。駿はいろんな店を一緒に回ってくれ、私の背中のチャックを上げながら、「どれを着ても似合うね」なんて言ってくれたのに。その頃、私たちは新婚旅行の話もしていた。あれこれ行き先をリストアップして、くじ引きで決めようと笑いあっていた。「2ヶ月も前から関係があったのに、どうして私と結婚するなんて言ったの?夜更かしまでして、私と結婚式の相談までしたのは何のためだったの?」「決心がついていなかったんだ」駿が言った。「君に悪かったとは思ってる。でもさ、君だって責任があると思わないか?君の金遣いは荒すぎる。俺の1ヶ月の給料じゃ足りないほど服を買うだろ?俺たちは3年一緒にいたけ
Read more
第7話
私たちがよく一緒に食事に出かけていたあの日々を思い出す。駿はいつも私に何が食べたいか聞いてくれたが、私は何でもいいと答えていた。だから、駿がお店を選び、私はそれについていった。たとえ好みではない料理が出てきても、私は文句を言わなかった。映画を見る時も同じ。全部駿が作品を決めて、彼の好みに合わせて見ていた。興味のないジャンルでも、私は決して不満を口にしなかった。駿がプレゼントをくれたこともある。いらないと言っても強引に買い、私が喜ぶと駿は満足げに笑った。「駿、今の自分の言葉……本当だって自信を持って言える?」駿は黙り込んだ。「椎名さんと付き合って2ヶ月、あなたはお金を使い、食事や映画を楽しんでいたんでしょ?私と一緒にいた3年、私があなたに機嫌を取らせたり、わがままを言ったことがある?」駿は視線をそらし、もう私のことは見なかった。「まあ、どうでもいいけど。もう行ったら?」駿は呆然とした様子で私に視線を向ける。「責めないのか?」「どうして責めるの?」「君はもっと騒ぎ立てると思ってた。泣いたりわめいたり、俺を罵倒したりするんじゃないのか?」3年見続けてきたその顔が、今はただの他人に見えた。私はスーツケースを指さす。「服は詰め終わったの?終わったんだったら、さっさと行ってくれる?」駿は立ち尽くしたまま、何かを言いたそうに私を見ている。だが、結局は何も言わずに、彼は残りの荷物を詰め込むと、黙って部屋から出て行こうとした。ドアの前で、駿がふと立ち止まる。「美月」「ん?」「ごめんな」それに、私は答えなかった。駿は私の答えを数秒待ってから、扉を開けて外へ出て行った。閉まる音は、昨日と全く同じ。しばらくベッドサイドに立ち尽くしていた私だが、リビングを通り抜け、玄関に向かうと、そのまま鍵をかけた。再び寝室に戻る。シーツや枕カバーを剥ぎ取り、駿が触れたものをすべて洗濯機に放り込んだ。しかし、途中で洗濯機が止まってしまった。蓋を開けると、衣服が絡まってひとつの塊になっている。私は必死にそれを解こうとした。でも、何度引っ張っても解けない……気づけばその場にしゃがみ込み、私は声を殺して泣いていた。どれほど泣いたのか分からない。涙が枯れると、ただ力なく
Read more
第8話
私はキーホルダーをゴミ箱に投げ捨てると、ソファに戻って、そのまま座り続けた。すると、窓の外では雨が降り出し、パラパラとガラスを叩いている。部屋の電気は消したままで、中は薄暗い。再び携帯が何度か鳴ったけれど、私は無視をした。日が暮れた頃、母が料理を届けにきてくれた。電気をつけた母は、ソファに座る私を見て、また目を赤くする。「美月、ご飯は食べた?」そう聞かれ、ふと自分が何も食べていないことを思い出した。「やっぱり。食べてないと思ったよ」母はいくつかタッパーを取り出した。「肉じゃがとおひたし。あと、美月の好きな唐揚げも作ってきたよ。早く食べて」箸を受け取った私は、唐揚げを一口齧った。おいしい。母の味がする。食べているうちに、涙が溢れ出してきた。母は何も言わず、ただ横に座って私を見ていた。食べ終えると、母は器を片付け、テーブルを拭き、私の隣に腰を下ろす。「美月、少し話してもいいかしら?」「うん」「悲しいのはわかるわ。だって、この3年の月日は、嘘じゃなかったものね」母が言葉を区切った。「でも覚えておいて。悪いのは美月じゃない。浮気した方が悪いの。あなたが責任を感じることは、何もないから」私は黙って母の話を聞いていた。「これからもっといい人が現れるはずだから。駿さんなんかより、ずっとずっと素敵な人がね」私は母の顔を見た。母の髪には白髪が増え、目尻の皺も深くなっている。いつの間にか老いてしまったんだろう?ここ数年で、急に歳をとった気がする。「お母さん」と私は言った。「ん?」「わかってるから」母は私の頭を軽く撫で、立ち上がった。「お母さんは帰るから、今日は早めに休みなさい。何かあったらすぐ電話して」「うん」母は帰っていった。鍵をしっかりかけ、私はシャワーを浴びてからベッドに入る。大きなベッド。いつもは二人で寝ていた場所だから、今はとても広く感じた。寝返りを打ち、布団にくるまって目を閉じる。眠れない。頭の中は、全部あのことでいっぱいだ。購入履歴、あの住所、莉子の名前。駿が言っていた、莉子がどんな女で、二人で何をしていたのか……私は目を開けて、天井を見つめた。窓の外ではまだ雨が降っていて、しとしとと静かな音が聞こえる。
Read more
第9話
目を赤く充血させ、ぼさぼさの髪で、昨日よりもずっと疲れ果てた様子の駿。その時、ふと駿の手元に握られていた携帯の待ち受け画面が目に入った。知らない女性の写真になっている。きっと、莉子なのだろう。だが、それを見ても私の心は静かなままだった。「うん」「これで君は満足か?」私は駿を見上げた。その言葉がおかしくて、思わず笑いそうになる。「あなたのお母さんが怒ったのは、あなたが浮気したからでしょ?別に、私が頼んだわけじゃないから」「じゃあ、なんで母さんに話したんだよ?」「向こうが電話で聞いてきたから、事実を伝えただけ。それの何が問題なの?」言葉を詰まらせた駿は、その場に立ち尽くし、何か言おうとしているようで、口を開いては閉じるということを繰り返していた。しばらくして、彼が話し始めた。「美月、俺たち付き合って3年の仲だろ?なのに、よくそこまで冷たくなれるな」「私が冷たい?」「ラインもブロックして、電話も着信拒否。さらには、俺の母さんにまでバラしてさ。俺が追い込まれる姿を見て、そんなに楽しいのかよ?」私は3年もの間、毎日見てきたその駿の顔を、じっと見つめた。そこには怒りや不満、納得がいかないという表情が浮かんでいるが、反省の色だけは見当たらない。「駿、そんなことを言いに来たの?」「君がひどすぎるって、それを伝えたかったんだ」「私がひどい?」「ああ、俺たちの問題なのに、なんで親まで巻き込んだんだよ?母さんたちは高齢なんだから、もしショックで倒れたらどうするつもりだ?」私は笑ってしまった。「あなたのお母さんは歳だから、刺激しちゃいけない?じゃあ、うちの母は?真夜中に駆けつけて、地べたに座り込んで泣いている娘を見ることが、当然だとでも言うの?」駿が黙り込む。「駿。自分の心に聞いてみて?結局、最初にひどいことをしたのはどっち?」駿は顔をそらし、横にある木を見つめた。「俺が悪かったのは認める。じゃあ君は?自分には何も問題がなかったとでも言うのか?」「私に何の落ち度があるの?」「君は……」駿は私に、これまで向けたことのないような視線を向けた。「頑固すぎるんだよ。何でも自分の思い通りにしないと気が済まない。結婚式もカメラマンも、高いものばかり要求して。そこで、俺が少しで
Read more
第10話
私は部屋まで上がり、扉を閉めて、外の音を遮断した。その後の数日間は休暇をもらい、仕事を休み、家から出ることもせずに、食べては寝るのを繰り返し、何もせずに過ごした。1ヶ月後、会社で雲嶺市へ出張する機会があったため、私は自らその出張に志願した。それからすぐに上司の許可が出て、1週間出張へ行くことになった。母が出張の行き先を、私に聞いてくる。「プロジェクトの打ち合わせで、雲嶺市へ行くの」「一人で行くの?」「そうだよ」母は少し沈黙してから言った。「気を付けて、毎日連絡を入れてね」「わかった」雲嶺市に着いたのは午後のことだったが、青い空に白い雲、とても空気が美味しい。私はホテルにチェックインし、荷物を置いて街へ繰り出す。そこは観光客で賑わっていた。私はあてもなく歩きながら、店先に並ぶさまざまな商品に目を向けた。角を曲がるとカフェがあり、テラス席に何人か客が座っていた。そこを通り過ぎようとした時、不意にある人の姿を見つけた。端の席に座っている、花柄のワンピースを着た女性が携帯を見ている。私は足を止めた。そして彼女が誰なのか思い出した。莉子だ。その名前が、突然記憶の中から飛び出してきた。直接会ったことはないけれど、駿の携帯の待受画面は見たことがあり、今、その顔が私の目の前にあった。髪を下ろし、綺麗なワンピースを着ている莉子は、写真よりも少しだけ痩せて見える。その横には一人の男が座っていたが、駿ではなかった。私はその場に3秒ほど立ち尽くした。しかし、すぐに見なかったことにして前へ進む。私が通り過ぎた瞬間、男が口を開いた。「莉子、もうちょっと座ってようよ。急ぐことはないだろ?」ただならぬ関係みたい。私は足を止めずに先へ進む。「駄目。もうすぐ雨が降るから」莉子の声も聞こえた。「雨なんて平気だよ。俺が送っていくよ」「大丈夫、私は一人で帰るから」「じゃあ明日また会えるか?」「好きにすれば?」少し歩いてから、私は振り返ってみた。男が立ち上がって莉子に歩み寄り、耳元で何か囁いている。莉子は笑って、男を軽く押した。男も笑いながら、莉子の肩を抱き寄せる。莉子は拒まなかった。私は向き直り、先へ進んだ。ずっと遠くまで歩いて、ようやくその足を
Read more
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status