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【第2章・第5話】《回想》冒険者ギルド①

last update Última atualização: 2026-01-29 11:55:20

 レオノーラを膝の上に乗せ、ご満悦の顔になったカラミタの話は三年前の出来事にまで遡った所から始まった。

        ◇

 ——カラミタが成人を迎え、レオノーラの元から旅立った日の同日夕刻頃。

 シルト王国の国史に残る一大事が王都北東部にある冒険者ギルドの総本部で起こった。

 『魔族』の襲来である。

 各国の主要都市の地中深くには、世界樹の根の中でも際立ってかなり太い根が張っている。そのおかげで長い歴史をどんなに遡っても『魔族』からの襲撃は一度も無く、外界から近づいて来る危険な魔物の出没確率もかなり低く済んでいる。それに加え、世界樹そのものからも比較的近い、もしくは細いながらも根が地中深くに張っている場所は安全地帯だとされ、首都以外の都市や各貴族の領地などがその上に点在している。根の上部では『魔力溜まり』も現れやすいため、魔力資源確保の観点から見ても昔から都市が出来やすいのだ。

 王都などのように重要な都市であればある程、その分当然守りはどこよりも堅いが、あくまでも他国との戦争や魔物を対象とした物であり、『天災』にも等しい『魔族』の襲来までは想定していない。頑丈な壁、屈強な騎士や兵
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     この二年間で、冒険者ですらないカラミタまでもがすっかり通い慣れてしまったギルドマスターの部屋の扉をアイシャがノックすると、すぐに「——どうぞ」と声が返ってきた。 扉を開け、アイシャ、カラミタ、リトスの三人が室内に入る。すると、彼の定位置でもある執務用の席に腰掛けているライゼの他にも、手前側にある応接スペースに一人の男性がいた。冒険者ギルドが総本部を構えている此処・シルト王国の王太子であるアリスター・クラウ・シルト殿下だ。魔王討伐に向けての国際会議などといった席で既に兄弟達と面識があり、彼自身Aランクの冒険者でもあるため、討伐に向けてシルト王国の代表として橋渡し役を担ってくれている。「——三人は、テオドールの件で来たんだね?」 簡単な挨拶もそこそこに全員が席に座り、アリスターはすぐ本題に入った。「共に育った兄弟だもんなぁ、安否が気になるのはわかるが、そう心配すんな。今は王宮の一室で待機中だ」 「牢にはぶっ込まれていないんだな」 『待機中だ』と言うライゼの言葉を聞き、リトスが安堵した。軽いノリでアイシャ達に知らせてはいたが、あれはどうやら弟達を不安にさせないためにとの考えからとった態度だったようだ。「経緯を聞かせてもらってもいい?あのテオが、意味も無く貴族を斬り殺すとは思えないんだよね」 アイシャの問いかけに対し、「それなら儂からよりも、アリスター王太子殿下からの方が良さそうだねぇ」と言ってライゼはアリスターに視線をやった。「あぁ、そうだね。私も丁度その話をしにギルドに来ていたんだ。ライゼは二度目になるけど、このまま此処でまた同じ話をしてもいいかな?」 「他の部屋じゃ、残念ながら誰が聞き耳を立てているかも知れんしな。此処でがベストだろうさ」 「重要な話なら防音魔法の二重掛けでもしておく?」とアイシャが訊いたが、「あ、いや。現状レベルの防音で充分だ」とアリスターは断った。「まず先に結論から言っておくと、テオドールは今回の件で罪には問われないよ。アイデル・ロゼ・モルジャーヌ公爵の斬首は王命だった扱いにするからね。これはもう父と——国王陛下と早急に協議した『結論』だ」 カラミタを筆頭に、三人がほっと息を吐いた。だが今度はそこに至った経緯が気になる。そうであると既に察しているアリスターは三人にテオドールの一件について語り始めた。       ◇

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     冒険者ギルドのギルドマスターであるライゼだけじゃなく、セリン達も予想はしていた事だが、残念な事に『魔王討伐』までは、なかなかそう上手く話は進まなかった。『魔族』への恐怖はかなり根深く、各国の王族や皇族なども冒険者ギルドの伝手を駆使して巻き込みはしたが、世界的な連携を取るに至るまでだけでも二年近くかかってしまった。 他にも、『恩賞として、外界の土地や資源の採掘権を与える』とは誰も宣言していないのにもかかわらず、勝手に『利権の配分』ばかりを今から心配している者や、少しでも多くの利益を得ようと『魔王』となる予定のカラミタに対して媚を売る者なども多く現れ始め、毎日その姿を裸眼で見ようともレオノーラ不足に陥っているカラミタのストレスが日に日に溜まっていっている。「レラ成分が足りない!」「いや、今だってずっと見てんじゃん。満足しておきなよ」 冒険者ギルド総本部内に用意された自室で、机を叩きながら叫ぶカラミタにすかさずアイシャがツッコミを入れた。育ての親であるレオノーラに七年間会えていない身だからか、激しく同意しつつも、少しだけ不機嫌顔だ。自分が置いていった羊皮紙の魔導具のおかげで他の兄達が独立した時よりかはかなり頻繁にやり取りを出来てはいるが、育ての親を恋しく思う気持ちは二十二歳になった今でも隠しきれないみたいだ。それだけ十五歳になるまでの生活が幸せだった証拠だろうと当人は思っている。「目の前に居るのにこの手で触れないんだぞ?逆に拷問だと思わないか?」 「……自分でやっておいて、何言ってんだよ」 十七歳になり、随分と素晴らしい体躯に育ったカラミタの頭を容赦なく叩く。「痛いよ、兄さん!」と『弟』らしく口を尖らせながら、カラミタは斜め後ろに立つアイシャの方に振り返った。 『エルフ族』であり、その為成長の遅いアイシャの方は今も変わらず160センチ程度と男性としては小柄なままだが、『魔族』であるカラミタはこの二年間で随分と成長した。再会した当初はアイシャよりは少し大きい程度だったのに、今ではもう195センチにまで背が伸び、テオドールやリトスよりも大きくなった。流石に250センチもあり、『竜人族』のセリンと並ぶと『弟』感が残ってはいるが、もう彼を『末弟である』とは誰も思わないだろう。 肩まである紺色の髪をハーフアップにしてまとめ、左目側の空洞を隠す為にしている眼

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    「まぁ、わかった。先ほどまでの話から察するに、『魔王』の『性質の支配』の影響下に無いおかげで、カラミタは『特別な個体』って事だな?」 「そう思ってくれて構わない」とライゼの問い掛けにカラミタは答えた。 「そうか……。——なあ、セリン達よぉ」 セリンを筆頭とした兄弟達の視線がライゼに集まった。窓を背にして執務用の席に座るライゼに背後から太陽の光が強く差し込み、彼の表情を分かりにくくさせている。「現・魔王は随分と『好戦的』らしいが、カラミタの『性質』は、我々にとっても、次世代の『魔王』になるに相応しいもんなのかい?」「正直な話、少なくとも『王の器』ではないですね。ですが、統治力を求められる立場でもない様ですから問題はなさそうですけど」 「『相応しいか』と訊かれると『微妙』としか。ただ理由も無く拳を振り上げる様なタイプではないな」 「コイツの重度のマザコンっぷりが、他の魔族達にどう反映されるかが不安だってくらいだな、俺としては」 セリン、テオドール、リトスが順にそう言うと、ライゼはリトスにだけ「お前が言うなや」とつっこみを入れた。どうやらライゼの中では、リトスのマザコンっぷりも十分重度のものの様だ。「ちょっと待て、オレはマザコンじゃない。レラを一度も『母親』だとは思った事がないんだからな」「うん、知ってるよぉ。でも一応はまだ『母親』だから、ね」と言い、アイシャが不機嫌そうにしているカラミタの肩を軽く叩く。 「悪かったって。お前を『弟』だと思ってるから出た発言なんだから、このくらいは許せって」 リトスの謝罪を聞き、ライゼが首を傾げた。『レラ』という女性が『母親』である事は間違いなさそうだが、『そうは思っていない』となると、じゃあ『どう思っているのか』が気になる所だ。「でもまぁ、母さんの次に一番長くカラと暮らしていたウチとしては、『カラミタ』は次の『魔王』になる素質を充分備えていると思うよ」 魔族の生態に関してのメモを取り続けていたアイシャが手を止め、ニッと笑う。「ぶっちゃけ、現・魔王を殺すつもりでいるんなら、こんな場所に立ち寄ってないでそのまま真っ直ぐ魔王の所に行けばいいのに、わざわざウチらに話をしに来たのってさ——」「魔族同士の『内戦』や『内輪揉め』で終わらせるんじゃなく、『魔族との和平』のきっかけにするつもりだからでしょ」 一度話を切

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     ギルドマスターの部屋の応接スペースに置かれたソファーに五人が腰掛ける。体が大きく、筋肉や種族特性の関係で分厚いセリンとリトスの二人が並んで座り、残りの三人はその対面にあるソファーに座った。「——んで、だ。カラミタ、お前さんの事をちょっと教えてもらってもいいかい?出来ればギルド本部への訪問の理由よりも先に、『特別な個体』である理由の方を聞かせてもらえんかねぇ。警戒心をどうにも捨てきれない儂を安心させて欲しいんだ」 ライゼにそう言われ「あぁ」とカラミタが素直にうなずく。その様子からすると、その点に関しても元々話すつもりで来ていた様だ。「かなり長くなるとは思うんだが、まずは、『魔族』の特性から話してもいいか?」 そう問われ、アイシャの目が輝く。長年『魔族』である末弟・カラミタと暮らしてはきたが、その特性や性質に関して語り合う様な機会などなかった。好奇心旺盛な彼は興味津々といった様子で、早速大量の紙と羽ペンを、腰に身に付けている収納魔法が付与された小さな鞄の中から引っ張り出した。「まず、『魔族』も『樹界』に住む者達となんら——」まで言ったカラミタの言葉を最速でアイシャが「待ったぁ!『樹界』って何?」と大声で遮った。 「『樹界』は、此処の様に、世界樹の影響下にある土地に対しての呼称だ。多分、魔族のみでの言い方なんだろうな、他では聞かないから」 「そっかそっか。おっけー話を続けて」 「『樹界』に住む者達と、『外界』に住む『魔族』の生態に大きな差はない。両親から生まれ、寿命があり、老いて、いずれは死ぬ。そして全ての個体が『天災』レベルの脅威でもなく、そういった個体はせいぜい上位一割程度だ」 この話には流石に納得がいかなかったのか、驚く声が他からあがった。「いやいや、よく考えてもみろ。じゃないと、今頃樹界はとっくに壊滅していてもおかしくないだろう?でも実際にはそうじゃないのが何よりの証明だ」「……確かに、そうだな。いくら世界樹の影響下にある地域には……君は別の様だが、何らかの理由で通常は来られないとしても、魔族全員で遠距離から大量の魔法をぶっ放すって手もあるんだしな」とライゼが口にし、うなずいた。 「能力的に上位に当たる魔族達は、他種族からは『天災』扱いされてはいるが、奴らには最大の欠点がある」 「欠点、ですか?」とセリンがこぼし、家族達を魔族に殺され

  • 独立した末っ子が執愛属性持ち『魔王』になって帰って来た   【第2章・第6話】《回想》冒険者ギルド②

     テオドールはカラミタを連れて二階に上がり、冒険者ギルドの最高責任者であるギルドマスターの部屋に彼を案内した。流石に、部屋に入るなり、此処でまで攻撃をされたりはしなかったが、威圧的なオーラを纏ったギルドマスターと目が合った途端、カラミタが顔を顰めた。「……本当に、攻撃の意思は無いようだねぇ」 そう言うと、ギルドマスターの表情から威圧感がスッと消え去り、温和な表情になっていった。 彼は八十代にまで達しているのだが、まだまだ現役にも負けぬ圧と実力を兼ね備えた人物だ。『器用貧乏』と言われがちな『ヒューマ族』でありながら二十年近くギルド長を務めており、ご高齢になった今でもまだ現場に出る事のある行動派でもある。長めの白髪を後で緩く結いまとめ、髭を生やし、彫りの深い顔には年齢を感じさせる皺はあれど、その体躯は若者にも負けぬ程に逞しい。「まぁ、カラミタは、ただ俺達に会いに来ただけだろうからな。——でしょう?」 テオドールにそう問い掛けられ、「あぁ」とカラミタがうなずく。「こっちは、門番に『冒険者であるセリンに会いたい。もしくは、テオドールかリトス、アイシャでもいいんだが』って言っただけなのに、急に攻撃されて、致し方なく防衛しただけだ」 「入口を守る者には訪問者が不審者かどうかを見分けるために、変装などを見破る魔導具を持たせていますからね。いくらアイシャが作った偽装効果のある魔導具を身に付けていたとしても、『魔族』であると看破出来てしまいますから、それこそ事前に『来る』と言ってくれれば、こちらもそれ相応の用意をしたんですが……まぁ、それも今更ですね」 どこの国も主要な都市の門や施設の入り口などを守る警備兵などは、変装、もしくは擬態などの魔法を使っているか否かを判断出来る魔導具を身に付けている。指名手配犯ではないかをチェックする機能も搭載された優れ物だ。冒険者ギルドの門番が装備していた物の製作者がアイシャでなければ、それさえも誤魔化してすり抜けられただろうが、今回は相性が悪かった。「……その発想が、そもそも無かったな。『行けば何とかなるか』程度にしか考えていなかった」 「まぁ、そうですよね。僕らの育ち方では、どこかへ訪問するための礼儀なんかは学べませんでしたし。てっきり、カラは成人後も実家に残ると思っていたので、正直、今カラがここに居る事にすごく驚いています」と

  • 独立した末っ子が執愛属性持ち『魔王』になって帰って来た   【第2章・第5話】《回想》冒険者ギルド①

     レオノーラを膝の上に乗せ、ご満悦の顔になったカラミタの話は三年前の出来事にまで遡った所から始まった。        ◇ ——カラミタが成人を迎え、レオノーラの元から旅立った日の同日夕刻頃。 シルト王国の国史に残る一大事が王都北東部にある冒険者ギルドの総本部で起こった。 『魔族』の襲来である。 各国の主要都市の地中深くには、世界樹の根の中でも際立ってかなり太い根が張っている。そのおかげで長い歴史をどんなに遡っても『魔族』からの襲撃は一度も無く、外界から近づいて来る危険な魔物の出没確率もかなり低く済んでいる。それに加え、世界樹そのものからも比較的近い、もしくは細いながらも根が地中深くに張っている場所は安全地帯だとされ、首都以外の都市や各貴族の領地などがその上に点在している。根の上部では『魔力溜まり』も現れやすいため、魔力資源確保の観点から見ても昔から都市が出来やすいのだ。 王都などのように重要な都市であればある程、その分当然守りはどこよりも堅いが、あくまでも他国との戦争や魔物を対象とした物であり、『天災』にも等しい『魔族』の襲来までは想定していない。頑丈な壁、屈強な騎士や兵士達、冒険者などにも守られている都市とはいえ、人口が多い分統制が取れず、その被害も他の領地とは比べ物にならないだろう。街を守るための壁のせいで逃げ場がなく、一方的に蹂躙されてしまう可能性もあり得る。 だからこそ、この襲来により冒険者ギルドの総本部に走った激震は言葉では例えようがない程のものだったに違いない。「——今すぐ攻撃を中止しろ!止めろと言っていんだ!聞こえないのか⁉︎」 冒険者ギルド・総本部一階。 訓練場がある最奥から正面入り口方向へ移動しながらテオドールが怒号のような声をあげた。十五歳で家を出た時よりも随分良い体躯になった体で全力疾走しようとしているが、慌てふためく者達や建物の内部なせいで速度が制限されて苛立ちを覚えている。思うように先へ進めず、黒く短い髪をグシャリと掻きむしり、眼鏡の奥にある茶色い瞳が不安で揺れた。「とは言っても、相手は『魔族』ですよ⁉︎」 悲鳴のような声が周囲から返ってきた。運悪く今日が警備当番だった冒険者の一人だ。「よく見ろ!向こうに殺意は無い!こちらからの攻撃を、今すぐに、止めろと言ってるんだ!」 どうにか問題の地点にまで辿り着いたはいい

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