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last update 최신 업데이트: 2025-12-26 11:09:31

「クルーズ船、というのはどうだろう。船が僕たちのホテルの代わりになるんだ。一度荷物を降ろせば、あとは船が次の街まで運んでくれる。帆波ちゃんは移動中も船の中で自由に遊べるし、僕たちも毎晩違うホテルの寝心地を気にする必要がなくなる」

 彼は悪戯っぽく笑みを深めた。

「それに君と僕が、しばらく仕事のことを完全に忘れられる」

「……いいわね!」

 船ならば移動の心配がなくなる。

 ずっと仕事漬けだったから、たまにはホテルのことを忘れるのもいいだろう。私は心からの笑顔で頷いた。

 こうして私たちの初めての家族海外旅行は、ヨーロッパ――地中海を巡るクルーズに決まった。

 数週間後、私たちはローマへ向かう飛行機の中にいた。

 空港の喧騒とは無縁の、静かで広々としたファーストクラスラウンジ。帆波はガラスの向こうに見える巨大な飛行機に、「ひこーき、おっきいねぇ!」と、大はしゃぎだった。

 搭乗の時間になると、私たちは専属のスタッフに導かれて、他の乗客とは違うルートで機内へと進む。

 案内されたのは、ドアで仕切られた完全な個室空間だった。柔らかな革張りのシートが二つと、小さなソファ。まるで空に浮かぶホテの一室のようだ。

 湊さんと結婚してから、セレブな世界に触れる機会は増えた。

 とはいえ、私は根が庶民である。

 今回も初めての国際路線ファーストクラスで、豪華さにちょっと気後れしている。私の知るエコノミークラスは、前のシートに膝がくっつきそうなくらい狭いものなのに。

 湊さんと帆波は堂々としたもので、出迎える客室乗務員に笑顔を返していた。

「黒瀬様、奥様、帆波お嬢様、ようこそお越しくださいました」

 担当の客室乗務員が、にこやかな笑みで私たちを迎える。帆波には、可愛らしいクマのぬいぐるみが手渡された。

「くまちゃん!」

 帆波はぬいぐるみが気に入ったようで、ご満悦だ。

 出発のアナウンスが入り、機体が静かに動き始めた。離陸の時。

「パパ、うごいた!」

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  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   195:潮風と休息

     バルセロナを出港した翌日は、一日かけてフランスのマルセイユへと向かう、航海日だった。 朝、目を覚ますと、窓の外には360度、見渡す限りの青い地中海が広がっている。船は白い航跡を長く引きながら、フランスへと進んでいた。 私たちは、船尾にあるオープンデッキのレストランで朝食をとることにした。 白いパラソルの下、テーブルにはパリッとしたリネンのクロスがかけられている。目の前には船が描いてきた白い波と、どこまでも続く青い地中海が広がっていた。頬を撫でる秋風が気持ちいい。 朝食は豪華なビュッフェ形式だった。焼きたてのパンの香ばしい匂い、色とりどりの新鮮なフルーツ、目の前でシェフが作ってくれるオムレツ。その全てが、私たちの旅が特別なものであることと物語っている。「パパ、いちご! あっちの、パンも!」 帆波は目をキラキラさせながら、小さな指で次々と食べ物を指差す。「帆波ちゃん、そんなに取ったら、お腹がびっくりしちゃうよ。まずは、このヨーグルトからにしようか」 湊さんが娘の目線に合わせて屈み込み、優しく言い聞かせている。 私は焼きたてのクロワッサンと、カフェラテを自分の皿に乗せた。 テーブルに戻ると、湊さんは帆波が自分でスプーンを使えるように、小さな手を彼の大きな手で包み込むようにして、手伝ってやっていた。「あなたは何にしたの?」 私が尋ねると、彼は少し困ったように笑った。「帆波ちゃんがパンケーキがいいって言うから、僕もつい、同じものにしてしまったんだ」 彼の皿の上には、メープルシロップがたっぷりかかったパンケーキが三枚も乗っている。「あなたはいつも、朝はフルーツとシリアルじゃない。帆波に付き合って甘いパンばかり食べていると、太るわよ」 私が笑うと、彼も心から幸せそうに目を細めた。「ママ、きょうはね、とかげしゃんのおともだち、つくるの!」 帆波は昨日バルセロナで買ってもらった、カラフルなトカゲのぬいぐるみを抱きしめている。船内のキッズルームへ行くのを、今から心待ちにしているようだ。 朝食のパ

  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   194

     帆波は私が一人で話し続けているので、飽きてしまったらしい。 光の斑点を追いかけてどこかへ行ってしまいそうな帆波を、湊さんがひょいと抱き上げた。「帆波ちゃん。ママは今、お仕事と同じくらい、大事なものを見ているんだよ」 彼は娘に優しく言い聞かせる。そのおかげで私は心置きなく、この偉大な建築と向き合うことができた。 ◇  サグラダ・ファミリアの強烈な体験の後。「少し休憩しようか」 湊さんが言って、グエル公園に連れてきてくれた。  ここには公園のシンボルである、カラフルなモザイクでできたトカゲの噴水がある。「あっ! とかげしゃん!」 帆波が声を上げて、嬉しそうに駆け寄った。  私たちは波打つように続く、美しいモザイクタイルのベンチに三人で座った。「あそこで軽食が売っているね。買ってこよう。夏帆さんは、帆波ちゃんを見ていてあげて」「ええ、ありがとう」 湊さんが、売店でチュロスとホットチョコレートを買ってきてくれた。「おいしー! あまーい」 帆波はチョコレートを口の周りにつけながら、夢中でチュロスを頬張っている。  湊さんは帆波の口をハンカチでぬぐってあげた。帆波は楽しそうに笑っている。 私たちの頭上には、バルセロナの青い空。あの素晴らしいサグラダ・ファミリアの余韻を残している。(夢が叶った。素晴らしい日だわ……) 私は心からそう思った。 ◇  その夜、船に戻ると、遊び疲れた帆波はすぐに眠ってしまった。今日買ったばかりのカラフルなトカゲのぬいぐるみが、添い寝している。  私は一人、プライベートバルコニーで、今日見た建築の感動をスケッチブックに描き留めていた。  ふと、後ろから抱きしめられる。湊さんだった。「満足できたかい?」 私は満面の笑みを浮かべて、頷いた。「ありがとう、湊さん。最高の一日だったわ。ずっと夢だったの」

  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   193

     専用車が角を曲がり、前方にサグラダ・ファミリアが見えた、その時。  私は思わず息をのんだ。「湊さん、停めて!」 私の切羽詰まったような声に、湊さんは驚いた顔をしながらも、すぐに運転手に指示を出してくれた。  車から降りる。私は目の前にそびえ立つ光景を見上げていた。「……嘘」 写真やテレビで見ていたものとは、全く違う。そこにあったのは、もはや建築物ではなかった。大地から直接、有機的に生えてきたかのような巨大な生命体。トウモロコシのようにも洞窟の鍾乳石のようにも見える塔が、空に向かってうねるように伸びている。「パパ、ママ、みて! おかしのおうちみたい!」 湊さんの腕の中で、帆波が楽しそうな声を上げる。「そうだね、帆波ちゃん。お菓子の家みたいだね」 湊さんは言いながら、視線は隣に立つ私の顔に注がれていた。「どうかな、夏帆さん。本物は」「……すごい。すごいとしか、言えない」 私はデザイナーとして、この建築を分析しようとする思考を、完全に放棄した。  存在に呑まれる。  ガウディという一人の天才が生み出した、圧倒的な狂気と神聖さの塊を前に立ち尽くすことしかできなかった。 私は半ば呆然としたまま、もう一度車に乗り込んで、今度こそそのサグラダ・ファミリアに近づいた。  聖堂の内部に、一歩、足を踏み入れる。  石でできた巨大な樹木のような柱が、枝を広げるようにして高い天井へと伸びている。枝と枝が複雑に絡み合い、頭上には巨大な木漏れ日のような天蓋が広がっていた。「すごい」 感嘆のため息が漏れる。「どうして、こんな構造を思いつくの? 直線が一つもない……」「みて! にじいろ、きらきら!」 帆波がきゃっきゃと歓声を上げた。彼女が指差す先、聖堂の床には、色とりどりの光の斑点が宝石のように散らばっている。東側のステンドグラスを通した朝の光が、青や緑の光のシャワーとなって、私たちの足元に降り注いでいた。 私は隣に立つ湊さんに、この建

  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   192:バルセロナの魔法

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  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   191

     帆波は、こくりと一度頷くと、今度はパイそのものに小さな両手を伸ばした。  よほど気に入ったのだろう。帆波はパイを夢中で頬張って、口の周りも服の胸元も、パイ生地の欠片だらけにしてしまった。「あらあら。帆波、パイだらけよ」「んーっ」 私はハンカチを取り出して、娘の口元をぬぐう。  湊さんはその様子を愛おしそうに目を細めて見つめていた。 カフェを出た後も、私たちは、蜂蜜色の路地をゆっくりと散策した。  湊さんは私の隣を歩きながら、ある建物の前で立ち止まった。「夏帆さん、見てごらん。この出窓」 彼が指差す先には、鮮やかな青色に塗られた美しい木製の出窓があった。「これは、『ガレリア』と呼ばれる、マルタ建築に特有の様式なんだ。一説には、聖ヨハネ騎士団が、故郷のスペインの様式と、アラブの様式を融合させて生み出したものだと言われている。淑女たちが、顔を晒さずに、外の祝祭を眺めるためのものだったそうだ」 私は彼の言葉を聞きながら、青い出窓をじっと見つめた。外からは、中の様子は全くうかがえない。そういう造りなのだ。「美しいけれど、少しだけ寂しいデザインね」 私の呟きに、湊さんが不思議そうに顔を向けた。「寂しい?」「ええ。外の世界を眺めることはできるけれど、祝祭の輪の中に入ることはできない。この鮮やかな色は、中にいる人の『ここから世界を見ている』という、声にならない叫びのようにも見えるわ」 それは私のデザイナーとしての、純粋な感想だった。「……そうか。夏帆さんはやはり、鋭い感性を持っているね」 港さんは微笑んだ。  彼はただ娘を甘やかすだけの父親でも、私を溺愛するだけの夫でもない。私の知らない世界を見せてくれる。知的好奇心を分かち合える最高の旅のパートナーなのだと、私は改めて、実感していた。 ◇  その夜。遊び疲れた帆波は、クルーズ船のベッドでぐっすりと眠っていた。  私と湊さんは二人きりで、部屋のプライベートバルコニーの椅子に座

  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   190

     マルタの道は石畳の敷かれた細い路地。その両側を太陽の光を浴びて輝く蜂蜜色の建物が、どこまでも続いている。街全体が同じ石材で、同じ色調で統一されているのだ。圧倒的なまでの統一感と、歴史の重み。 だが統一感の中に、鮮やかな個性が宝石のように散りばめられていた。建物のファサードに取り付けられた、赤や青や緑の、木製のバルコニー。同じ形は一つとしてない。それぞれがそこに住む人々の暮らしを、物語っている。 街全体という一つの巨大なコンセプト。その中に、無数の小さな物語が息づいている。 私はデザイナーとして、町全体の調和にただただ心を奪われていた。◇ ヴァレッタの街は、どこまでも続く急な坂道でできていた。 石畳の道を帆波は楽しそうに歩いていたが、足取りが少しずつ重くなっていく。「ママ、だっこ……」 私の手を小さな力で、きゅっと引っぱる。私が「もう少しよ」と言い聞かせようとした時のこと。 一歩先を歩いていた湊さんが、立ち止まって振り返った。彼はにこりと笑うと、帆波の前に屈みこむ。「おいで、帆波ちゃん。パパの特等席が空いたよ」 彼は娘を抱き上げた。急に視界が高くなった帆波は、きゃっきゃと嬉しそうな声を上げる。 湊さんの腕の中からなら、街の景色がよく見えるのだろう。帆波はすぐに新しい発見をした。「パパ! あかい、まど!」 彼女が指差す先には、蜂蜜色の建物の壁から突き出た木製の出窓があった。窓は鮮やかな赤色に塗られている。「本当だ。きれいだね。あっちには、緑の窓もあるよ」「ほんとだー!」 私たちの横をカッポ、カッポと軽快な蹄の音を立てて、観光用の馬車が通り過ぎていった。「おうまさん!」 帆波が小さな手を振る。私はその二人の後ろを、少しだけ離れて歩いていた。 夫の広い背中と、その腕の中で揺れる小さな娘。蜂蜜色の壁に落ちる二つで一つの影。その光景が私の胸を満たした。 私たちは広場に面した、赤いパラソルの立つカフェで休憩する

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