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【第43話】疑問・後編(スキア・談)

last update Date de publication: 2026-05-26 17:20:09

「いいよ!何も訊いて」

 カップを落としそうになった時の様子とは一転して、随分と張り切った声だ。ルスの中でどんな思考の流れがあったのかまでは不明だが、訊けと言うのなら遠慮なく訊いていこうかと思う。

「確か二人は、大体一年と一ヶ月くらい前にこっちへ来たんだったよな?」

「うん、大体そのくらいかな。“ルートラ”っていう魔法使いに勧誘されてこっちへ移住して来たの」

「へぇ」

 契約が完全に完了し、自在にルスの“記憶”と“知識”を彼女から引き出せる様になった。例え彼女がきちんと覚えていない事柄でも、脳に記録さえされていれば覗き見れる。だけどその時の細かな感情の動きまではわからない。余程インパクトのあった件ならその時の感情も“記憶”の中から汲み取れたりもするが、今はルスがどのくらいまで自分の“記憶”を認識しているかを知りたかった。

「リアンは元々獣人だったのか?」

 違うと知ってはいるが、そうである事を打ち明けるわけにもいかないのであえて訊いた。勝手に記憶を盗み見られているなんていくらルスでも気

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  • 異世界に逃げたら仮初の夫に取り憑かれた!   【第43話】疑問・後編(スキア・談)

    「いいよ!何も訊いて」 カップを落としそうになった時の様子とは一転して、随分と張り切った声だ。ルスの中でどんな思考の流れがあったのかまでは不明だが、訊けと言うのなら遠慮なく訊いていこうかと思う。「確か二人は、大体一年と一ヶ月くらい前にこっちへ来たんだったよな?」 「うん、大体そのくらいかな。“ルートラ”っていう魔法使いに勧誘されてこっちへ移住して来たの」「へぇ」 契約が完全に完了し、自在にルスの“記憶”と“知識”を彼女から引き出せる様になった。例え彼女がきちんと覚えていない事柄でも、脳に記録さえされていれば覗き見れる。だけどその時の細かな感情の動きまではわからない。余程インパクトのあった件ならその時の感情も“記憶”の中から汲み取れたりもするが、今はルスがどのくらいまで自分の“記憶”を認識しているかを知りたかった。「リアンは元々獣人だったのか?」 違うと知ってはいるが、そうである事を打ち明けるわけにもいかないのであえて訊いた。勝手に記憶を盗み見られているなんていくらルスでも気味が悪いだろうから、既に色々知っているとは言わないつもりだ。「違うよ。リアンはまだ赤ん坊で、このままじゃ面倒を見るのは厳しいって判断されてね、フェンリルの子供の姿にしてもらったの」 返答を聞くたびに頭の中にその時の様子が浮かび、今の彼女の表情からその時の感情を察していく。「ルスが、フェンリルにと指定したのか?」 あんな生活をしていたルスが『巨狼・フェンリル』なんて生き物を知っていたとは思えない。しかも血を分けた弟を、自分から天災級の化け物にする事を希望するタイプでもないので不思議でならなかった。「いいや。獣人にする事を了承はしたけど、種族は彼らに任せたの。ルートラは『代償の問題で仕方なくそうするしかなかった』って言ってたけど……それ以上詳しくは聞かせて貰えなかったんだよね」 ルスが苦笑いを浮かべている。代償が何かも知らず、追求出来るだけの知能も持っていなかったのだから、知らないままでも当然か。 僕が思うに、リアンがフェンリルと化したのは、ルス達の代償に『あの母親』が含まれたせ

  • 異世界に逃げたら仮初の夫に取り憑かれた!   【第42話】疑問・前編(ルス・談)

    (——い、いいいっ、言ってしまった!我儘じゃ無かったかな、面倒だとか思われなかったかなっ) 平然と、朝ご飯を食べる事で頭が一杯になっているフリをして着替えを済ませ、リアンの部屋に急いで向かう。 失敗した……かもしれない。  過去を再体験するみたいな悪い夢を見て気持ちが凹んでいたとはいえ、そんなタイミングで、機嫌直しの為のプレゼントを受け取りやすい口実として『記念日に欲しい物が何かないか?』と気遣うみたいに訊かれたとはいえ、だ。『ワタシはスキアが傍に居てくれるだけで、寂しくないってだけで充分嬉しいよ』だなんて言ったのは、やっぱりマズかったのだろうか。別段嬉しそうでもなく、何となくスルーされた気さえするせいか、段々不安になってくる。(やっぱり、高望みだったのかな……) 森の奥深くで命を救われて以降。ほぼずっと傍に寄り添ってくれ、同じ布団で眠ってまでくれていたから、つい調子に乗ってしまった。毎晩の様に体に触れてくるから、より一層ワタシ達は『夫婦』なんだって実感して、心が勘違いをし始めているみたいだ。奥深くまで触れてくるアレはただ契約印に魔力を馴染ませているだけなのだと、何度自分に言い聞かせて窘めても、ふとした瞬間に見せてくれる熱の籠った眼差しと流れ落ちる汗を前にすると、『好きって感情をぶつけられるのって、こういう感じなのかな』だなんて勝手な妄想が頭に浮かび、いつも過度な反応を返してしまう。事が済んで冷静になる度に猛省してはいるが、あんな目と視線が絡んでは、むしろ『増長するな』という方が無理なのでは?と、そんな言葉は言われてもいないのに逆ギレしそうになってきた。…… 気持ちを宥めつつリアンの部屋の扉をノックし、反応がない事を確認してから部屋に入って大きなペットベッドで眠っているリアンに声をかける。「……起きて、リアン。朝だぞー。用意しないと、遅刻しちゃうよー」 「くぅぅんっ」 瞼が閉じたまま、でも返事だけは返してくれた。寝る子は育つと言うけれど、リアンはよく眠る割に、そこまで成長していない気がする。栄養が足りていないのか、ワタシの管理が悪いのか。今のこの子は長寿種であるそうだから、ただ単にフェンリルという種の成長ペースが遅

  • 異世界に逃げたら仮初の夫に取り憑かれた!   【第41話】簡単に揺らぐ決意(スキア・談)

    「——っ!」 突如視界に真っ白な天井が広がった事に驚き、勢いよく体を起こした。今いるのが“記憶の夢”の中なのか現実なのかもわからず、慌てて周囲を見渡す。「……くぅ……」 外から聞こえてくる小鳥の囀り、カーテンの隙間から差し込んできた優しい朝の日差し。すぐ隣で、幸せそうに寝息をたてつつ口の端から涎をこぼして眠っているルスの顔を見てやっと、自分が“記憶の夢”から覚めたのだと自覚した。ちょっと大きなシャツを着て、穿いているショートパンツから伸びた細い脚を、捲れた掛布が無防備に晒している。 ほっと息を吐き、ぐっすり眠っているルスを見ていると、夢で見た過去の姿と、今の彼女の姿が重なって瞳に映った。あんなにも見窄らしかった、当時まだ九歳だった少女が、此処では立派なアイスブルー色の尻尾を持ち、胸元こそ控えめだが、ちゃんと健康的な体つきになっている。不健康でくすんでいた肌も、今では白くてとても艶やかだ。 幸せそうに寝入っている姿がとても眩しい。とてもじゃないが、あんな過去を経験してきた者には到底見えない。「……昨日は、ちょっと弄り過ぎたか?」 ふっと笑い、顔の方に落ちてきている髪を指でそっとよけてやる。ちょっとだけくすぐったそうに眉を寄せたが、ルスはまたすぐに眠りの中へ戻って行った。「もう……離れないと、手放さないと……なんだよな」 ルスとの契約を切れば、彼女の想像力に頼って構成されたこの体を僕は失う事になる。肉体が無ければ、こうやってもうルスに触れることは叶わない。ただ近くに居るだけで伝わってくる心地いい体温、触れると手に馴染む柔らかな肌、微かに香る甘い匂い。その全てを……もう感じられなくなるのかと思うと、即座に顔を顰めてしまった。 悔しいが、腹が立つが、だけどもう……僕には騙し討ちみたいな真似は無理そうだ。 肉体を持たない性質の僕が、“善性”という猛毒には勝てない事が、この契約で痛い程にわかった。欲に溺れさせるどころか、まずは心を開かせる事で精一杯になり、真っ白な魂をドロドロとした欲望で黒く染め上げてやろうとした思惑の一切が叶わなかった。何も手にする事なく育ったせいか、幸せに感じる物事の基準があまり

  • 異世界に逃げたら仮初の夫に取り憑かれた!   【第40話】異世界への移住④(スキア・談)

    『……ぁ、ぇ……』 何が起きたのか理解が追いつかず、呆然と固まっているルスに向かい、いかにもな魔法使いっぽいローブに身を包んだ、吊り目が特徴的な少年は構う事なく話を続ける。『初めまして。ボクの名前は“ルートラ”。“輪廻の輪”に引き込まれた貴女を探し出し、やっと悲願のお迎えに……ゴホッ!——し、失礼、失礼。知らん事を口にして警戒されたらマズイから「勧誘に来た」って言えって言われていたんだったな……。勧誘に!勧誘に来たんだ!』 大声になったり小声になったり、また大声で叫んだりと。一人芝居みたいな事をしながら、ルートラと名乗った少年は空中に浮いたままルスに話した。『かん、ゆー……』 そんな言葉をルスが知るはずがなく、何それ?と思っていそうな声色で小さく呟くと、ルートラは何度もうんうんと頷き返した。『そうだよ。貴女が、こんな世界から逃げたい、消えたい、全てを捨てたいと願うのをずっと待っていたんだ』 『……』 爽やかな笑顔をルスへ向けたが、彼女は処理落ちしたみたいにリアンの手を握ったまま黙ってしまった。『いやー。この世界に産まれていた事まではすぐに突き止めていたんだけどね、初代魔塔主の不祥事のせいで異世界への転移魔法陣は禁忌魔法として封印されていたし、仕方なくそれを引っ張り起こしたり、各国の王族供から魔法の使用許可をもぎ取ったりするのとかで苦労しっぱなしでさぁ。いざ使ってみようとしたら“害悪にしかならない不要な存在”しか召喚対象に出来ないっていう制約が魔法陣に根強く紐付けされていたから、それをどうにか“不要な存在の周囲の者も召喚対象者として含む”ってとこまで条件を緩めたり、発動の為にはアホみたいに莫大な量の魔力が必要だったものを異世界のモノを代償として捧げる事で補える様に術式を書き換えたりするので、これまためちゃくちゃ時間かかっちゃって。それ以外にも受け入れ準備をしたり、だけど貴女だけでは目立つから他の移住者も大量に用意したり——ってあぁ!混乱するから言うなって言われてるのにっ!』 己の口の軽さに気が付いて慌てて両手で口を塞ぐが時遅く。だが、ルートラがちらりとルスを見たものの、彼女はやっぱり固まったままで、全く話を理解

  • 異世界に逃げたら仮初の夫に取り憑かれた!   【第39話】異世界への移住③(スキア・談)

     ボロボロのアパートの一室。 二人きりになった部屋の中でリアンの寝息だけが微かに聞こえる。まだ相当小さいから、きっとルスの時と同じく、生まれて間もない状態で此処へ連れて来られたのだろう。 ルスはひとまず絵本を床に置くと、背伸びをしてダイニングテーブルの上に置かれたタオルの塊の状態を確認した。ぐっすりと眠っているリアンの姿が見えたが、こちらもやっぱり顔が真っ黒に塗りつぶされていて、どんな顔をしているのかも全くわからない。覚えていたくなかったのか、そもそも人の顔を上手く認識出来なかったのか。 もしくは、母親の面影があるであろう自分達の顔を忘れ去ってしまいたい気持ちの表れの様な気もする。 手を伸ばし、おっかなびっくりとした仕草で自分の方へ引っ張り、ルスが小さなリアンを細腕に抱えた。赤ん坊なんか触るのはこれが初めてだ。ベビーカーで寝ている赤子や親に抱えられている子なら窓越しに見た事はあっても、この部屋から一度も出た事のないルスでは赤ん坊の抱え方など知るはずもなく、ただテキトウに抱えているせいでリアンの頭が仰け反っている。『……やわい』 ボソッと呟き、ルスはリアンを抱えたまま絵本を置いた場所に戻って行った。 硬い床にリアンを寝かせて、ルスもすぐ隣にぺたんと座る。布団に寝かせた方がいいという発想すらも今の彼女の中には無いみたいだが、小さい弟の側には居てやった方がいいとは考えたのだろう。 母から受け取った絵本を手に取り、ルスが表紙をじっと見つめる。子供の目を引きそうな絵がクレヨンで描かれているが、タイトルはない。日々生きるのだけで精一杯で、この部屋にはボタンを押せば音の鳴る板状の機械一つしかルスくらいの年齢の子供が遊べそうな物はないからか、ただ表紙を見つめたまま開こうともしない。絵本を開いて読むという発想自体無いのかもしれない。 しばらく経ち、やっとルスが絵本を開いた。『——むかしむかし。とある……の、とある……では、ニ、ンゲンとマモ、マモ、ノ?……がいつもケンカをしていまし……た?』 ボソ、ボソッと、今にも消えてしまいそうな声でルスが絵本を読み始めた。 真っ黒なクレヨンで描かれた魔物

  • 異世界に逃げたら仮初の夫に取り憑かれた!   【第38話】異世界への移住②(スキア・談)

     突然、ガチャッという音と共に玄関扉が開き、ルスが慌てて顔を上げた。一瞬、ルスは祖母が帰って来たのかと思ったのだが、『ただいまー』と言う声と共に現れたのはルスの母親である“澤口あかね”の姿だった。腕にはタオルに包まれた物を抱えており、すぐ後ろには派手な格好をした男も立っている。 母親が帰って来た。 だが、その事を喜んでいる様子はルスには無い。今は居ないからいいが、祖母が居る時にあかねが来ると、その後数日間は祖母が泣き崩れて家の中が海底に沈んだみたいにどんよりとするからだろう。『あれ?母さんは?』 キョロキョロと室内を見渡しながら、無遠慮に室内へ上がり込む。腕に抱えていたタオルの塊は近くにあったダイニングテーブルの上にドンっと置いた。『ねぇちょっと!母さんは居ないの?』 ルスの存在に気が付いたあかねが問い掛けると、彼女は首を横に振った。『…… ふーん。まいっかぁ、アンタが居るし、そのうち帰って来るでしょ』 楽観的な言葉を口にして、あかねはいつもの様にすぐさま帰ろうと玄関の方へ足を向けた。『ソイツ、何歳くらいなんだ?』と言って、同行していた男がルスを指差す。自分では正確な年齢を把握していないルスが黙ったままでいると、あかねは『産んでから随分経ったし、多分十五、六くらいじゃないの?』とあまりにもテキトウ過ぎる言葉を返した。『いやいや、流石にねぇって!』 冗談であると受け止めた男は豪快に笑ったが、何が楽しいのかわからないルスの表情は硬いままだ。そんなルスの顔をじっと見て、あかねはニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた。『でもそうねぇ、そろそろこの子にも働いてもらおうかしら』『は?このチビが?』 『産んでやったんだもん、恩義は返すものでしょ。それにさぁ、幼女趣味の奴っていくらでもお金出すじゃん?こう見えても十八歳です、合法ですよって言えばいくらでも喰いついて来るって』 『ばっか!十八は無理あり過ぎだろ!』 腹を抱えて、再び男が笑った。『親が十八って言えば十八なのぉ』 あかねが子供みたいに不貞腐れた顔をしたが、全く可愛くない。むしろ気持ち悪いとさえ思う。『初物なら高く売れそうじゃない?んでぇその後は日に二、三人は客取らせてさ。そうねぇ、口止め料も含めて請求したら、数週間で新作の鞄も余裕で買えそ!ヤダァ、めっちゃいい考えじゃん!』 頬を赤く染め

  • 異世界に逃げたら仮初の夫に取り憑かれた!   【第30話】『僕らが欲しいのは服であって、新しい“虫”じゃない』①(スキア・談)

     ルスが話していた装備品を売る店は討伐ギルドから程近く、同じ並びにある。近隣には他にも彫金ギルドや武器・防具などを作成するギルドもある為、討伐任務や護衛などを仕事にしている者達でそれなりに賑わってはいるが、夕方から開店する飲み屋も多いので目抜通りよりは人が少なく、すぐに辿り着く事が出来た。「いらっしゃいませー」 扉を開けて二人が店内に入ると、後衛職向け装備を中心とした完成品がずらりと並んでいた。 僕が持っている六年前の知識では、服や装備品はデザイン帳の中から気に入った物を選んでからオーダーメイドで注文するか、金の無い者達は布だけ買って来て自分で縫うのが当たり前だったのだが、今では大雑把

  • 異世界に逃げたら仮初の夫に取り憑かれた!   【第27話】キッチンにて②(ルス・談)

     キッチンは料理をしたり洗い物をしたりする空間だ。それ以外の使い道なんてワタシは知らないのだが、どうやらスキアは違うらしい。彼の口から出てきた『キッチンプレイ』という単語を聞いて、最初はてっきりおままごとに使うキッチンセットとかの話をし始めたのかと思ったのだが、呆れた様な視線を向けられたので流石に間違っている事に何となく気が付いた。それと同時に着ていた服のエプロン以外の一切を瞬時に消されてしまったので、それは確信に変わった。 普段は垂れ目がちなのに妙に色っぽい雰囲気のある瞳が、今は据わっているような気がする。ぎゅっと容赦なく抱き締めてくる腕の力はやけに強くって骨から少し軋む様な音がしたが、

  • 異世界に逃げたら仮初の夫に取り憑かれた!   【第22話】三人目に、是非!・後編(スキア・談)

    「ところで、二人で料理をしたりはしないのか?」 もぐもぐと、一口サイズにちぎったパンを食べつつシュバルツが訊いてくる。「料理は僕の担当だ。ルスに任せると……その、節約メニューになるからな」 調味料の必要性すらピンときていないレベルだ、調理を任せる気になど到底なれない。ルスも一応は“知識”としてちゃんとした料理の手順くらいは知っているみたいだが、知っている『だけ』では作れないので、今後も僕が作る事になるだろう。(久しぶりの食事だ、ちゃんと美味しい物を食べたいしな)「じゃあさ、今度手が空いている時で良いんだ、ボクに料理を教えてはくれないか?嫁達にばかり任せては、夫として失格だからな」

  • 異世界に逃げたら仮初の夫に取り憑かれた!   【第19話】山猫亭③(スキア・談)

    「はぁぁぁぁぁぁ⁉︎」 店内どころか、外にまで聞こえそうな声をマリアンヌがあげた。彼自身がこの店や周辺一体のオーナーでもなければ通報モノの大声だ。“男”丸出しの低い声だったからか、彼を“彼女”だと認識していたルスがかなり驚き、僕の履いているスラックスの太腿部分をぎゅっと掴んでくる。その甘えがちょっと嬉しいなと思っている自分に喝を入れつつ、「その夫です」と宣言して僕は軽く手を挙げてみた。「最初から『誰だ?コイツ』とは思ってはいたけど、ま、ま、まさか、一番有り得ないだろうと思った答えだったなんて…… 」 愛どころか恋すら理解していなさそうな(実際問題、マジで理解していないのだが)くらいに幼

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