เข้าสู่ระบบ最終討伐地点から二十分程歩いて来たが、まだ彼らが拠点としている町までは遠い。討伐ギルドに登録している者としてはまだまだ駆け出しの彼らでは、パーティー全員分の馬や馬車を借りる余裕はなく、移動手段は徒歩一択である。幸いにして此処ガイストの大半は広大な森な為少々薄暗くて視界に多少の難はあるが、割と平坦な土地が続く地域なので足場は悪くないのが救いだ。
途中途中で湧水を水袋に汲んだり、木々に実る果実などを摘みながら歩いていると、暇つぶしで始めた雑談の中でそれぞれの名前の話題になっていった。自慢気に、いかに自分がその名に相応しいかを語っていく。三人共とても気に入っている名前みたいだったので、少女が「皆さん素敵な名前ですもんね」と素直な気持ちで褒めると、スカルとキングが少女の首回りに腕を回して豪快な笑い声をあげた。素面のはずなのにまるで酔っ払いのような絡み方である。
「わかってんじゃねぇか!」
「新天地での名前ってぇのは、大事なもんだもんなぁ」 「あぁ、もちろんお前も良い名前だぞ」あははは!と再び三人は笑ったが、少女は今までに一度も名前を訊かれておらず、『お前』や『アイツ』『コイツ』以外では呼ばれてもいない。だがその事にすら気が付いていない三人に対しても、少女はただただ優しく笑顔を返すだけだった。
◇ 更に五分程帰路を進んだ頃。 何かが唸っているような、変な音が遠くから聞こえ始めた。風の音にも似ており、始めは四人共『気のせいだろう』と考えていた。町まで随分と近づいて来たし、この辺はもう魔物の生息地域からは外れ始めているからだ。目を凝らせば拠点にしている町の外輪が見え、周囲に広がる農地や農民達だって確認出来るような場所だ、何も危険は無い。……無い、はずだと思いながらも、彼らの歩く速度は次第に上がっていく。 そんな三人に追いつこうと少女も必死に歩いてはいるが、小柄な彼女では走っているに近い状態だ。修道女にも似た白い服は裾に向かう程細くなっていくテーパードスカートに近いシルエットになっている為、これ以上早く移動するのは厳しいかもしれない。『グルルルル…… ッ』
斜め後ろ方向にある木々の隙間で、二つ並びに何かがギラリと光った。獣めいた唸り声は既にもうかなり近く、ロイヤルが慌てて大きな盾を構える。彼の背後に隠れたスカルは弓を、キングは剣を手に取ったが、二人ともガタガタと震えていた。
「お、おいおい!いづ、いつの間に近くまで来たんだ?」 どうやらまだ側に居るのは一体だけのようだが、いつ後続の者達が追いついてもおかしくはなく、遠くから迫って来る気配も多い。「コ、コボルトじゃねぇか!何だってこんな場所まで⁉︎」
二足歩行の出来る大型犬の様な姿を目視で確認し、ロイヤルが叫び声を上げた。小型のコボルトであれば危険はなく、彼らを町から迎えに来た仲間である可能性もあったのだが、どう見てもコレは違う。大きな牙を剥き出しにし、飢えた獣のような瞳をギラつかせている大型のコボルトは四人を完全に敵と見做している。
『奴隷共ヲ、ヨクモ…… 』
四人の耳に埋め込んである翻訳石が淡く光り、コボルトの小さな呟きを勝手に翻訳する。最初は、何の話だ?と彼らが首を傾げたが、すぐに先程討伐してきたゴブリンの事だと思い至った。
「おぉ、おおい、なんてミスしやがったんだよ、お前ら!」 「いやいや!その辺を普通に歩いていた奴らを倒したんだぞ?奴隷かどうかなんて、わかるはずないだろ!」 「奴隷だ言うなら、首輪か焼印でもしとけって!」 小声で文句を言い、お互いに小突き合う。そんな彼らの側で、少女はこの状況をどうするつもりなのだろうかと困惑するばかりだ。「に、逃げよう…… 」
ぽつりと誰かが言った。三人のうちの誰かはわからなかったが、「そうだ、他の奴らが来る前に…… 」とロイヤルが賛同する。
近くに居るコボルトは幸いまだ一匹だ。町は目視出来ているから全力で走れば助かるかもしれない。だが、ただ四人で走っただけではいずれは追いつかれて、下手をすれば全員おしまいだ。此処から町まで走り続けるには盾役であるキングと前衛職であるロイヤルでは装備が重い。アーチャーであるスカルは比較的身軽だとはいえ、コボルトの走る速度と比べると、人間である彼では高が知れている。だが、誰かがコボルトの気を引き続けたのなら…… ?
その事に気が付いた途端、三人の視線が少女の方へ集まった。血走った瞳を大きく見開き、それを一身に受けて少女がごくりと息を呑む。彼らのうちの誰かが発した『逃げよう』の一言が聞こえていなかった少女は『今から戦闘が始まるのか』と思い、杖を掴んで身構えた。だが、彼らに体をドンッと強く押されたせいで、次の瞬間、彼女の小さな体はコボルトの居る方へ勢いよく倒れ込んでしまった。
「俺達が助けを連れて来るから、お前はコイツの相手をしてろ!」
慌てて体を起こし、「——で、でも」と震える声で少女は呟いたが、三人の叫び声に消されていく。
「獣人だろ?俺達よりは頑丈だし、何よりもヒーラーだ。回復をし続ければ勝算はある!」 「町は近い。助けを呼んで来るまでの辛抱だ。もしどっかを食われても、すぐに治療し続ければ死にはしない!」 ロイヤル、スカルの順にそう叫び、彼女の言葉の続きを聞こうとする者は誰もいない。 「こうしてやりゃぁ、もっと早く走れるだろ⁉︎」と言い、キングは腰に装備していた短剣を手に取ると、少女が着ている服のスカート部分をざっくりと切り裂いた。編み上げブーツを履いた脚が丸見えになり、その様子を伺っていたコボルトが笑い声をあげる。魔物と敵対している人間達が仲間割れする様子は、下手な芝居を見ているよりも楽しいみたいだ。「せ、せめて盾役のキングさんだけでも…… 」
『残って欲しい』と続けようとした言葉は、「——んだと⁉︎お前は、俺に犠牲になれって言うのか!」と怒りに満ちた目を向けられ、かき消された。『三人の為に犠牲になれ』と少女に言っておきながら、『盾役の役目を果たしてくれ』という真っ当な懇願は聞けないらしい。
「助けを呼びに行く人数は多い方が良い、わかるだろう?」 「三人の誰かが町まで行ければ生存率も上がる!——な?」 ロイヤルに続き、スカルもふざけた言い分を口にする。彼らの意志は固いと悟った少女は口元をきゅっと食いしばり、地面の小石を一個握って、その場ですくっと立ち上がった。「……わかりました」
真っ青な顔に笑みを浮かべ、力無く頷く。声は震えているし強がるみたいに握った拳には上手く力が入らない。背中や額は冷や汗で冷たく、頭の中は無計画のまま引き受けたせいで真っ白な状態だ。
「無事に…… 逃げ切って、下さいね」 三人に向かってそう言うと、少女は握っていた小石をコボルトの方へ力一杯投げた。異世界から「……」
四人が黙ったまま様子を伺っていると、ゆっくりと体勢を持ち直したコボルトがキッと悪意に満ちた瞳を少女に向けた。小石の当たった額からはダバダバと血が流れ出ていて相当深い傷であると遠目でも見て取れる。
『テェメェェェェッ!』
凄まじい咆哮を上げ、コボルトが少女の居た場所に顔を向ける。だが、自分の方へ気を引く事に成功したと悟った少女はとっくに町とは反対の方向へと走り出しており、その姿はもう遥か遠く、随分と小さくなっていた。そのせいでコボルトの怒りが最高潮に達する。絶対にアレを殺す!と躍起になり、キング、ロイヤル、スカルの三人にも抱いていた怒りはすっかり薄れていた。
地を蹴り、怒りに満ちた叫び声をあげながらコボルトが少女を追って走り出した。それを合図にするみたいに、三人も町の方へ一目散に駆けて行く。
だが、三人が倒れ込むみたいになりながら走り出してから数秒後。彼らの姿は、足元に出来ていた彼ら自身の影の中に音も無く吸い込まれるように消えていった。まるで突然闇夜の中にごくんっと呑み込まれたみたいに。…… それ以降、彼ら三人の姿を見た者は、一人もいない。
最終討伐地点から二十分程歩いて来たが、まだ彼らが拠点としている町までは遠い。討伐ギルドに登録している者としてはまだまだ駆け出しの彼らでは、パーティー全員分の馬や馬車を借りる余裕はなく、移動手段は徒歩一択である。幸いにして此処ガイストの大半は広大な森な為少々薄暗くて視界に多少の難はあるが、割と平坦な土地が続く地域なので足場は悪くないのが救いだ。 途中途中で湧水を水袋に汲んだり、木々に実る果実などを摘みながら歩いていると、暇つぶしで始めた雑談の中でそれぞれの名前の話題になっていった。自慢気に、いかに自分がその名に相応しいかを語っていく。三人共とても気に入っている名前みたいだったので、少女が「皆さん素敵な名前ですもんね」と素直な気持ちで褒めると、スカルとキングが少女の首回りに腕を回して豪快な笑い声をあげた。素面のはずなのにまるで酔っ払いのような絡み方である。「わかってんじゃねぇか!」 「新天地での名前ってぇのは、大事なもんだもんなぁ」 「あぁ、もちろんお前も良い名前だぞ」 あははは!と再び三人は笑ったが、少女は今までに一度も名前を訊かれておらず、『お前』や『アイツ』『コイツ』以外では呼ばれてもいない。だがその事にすら気が付いていない三人に対しても、少女はただただ優しく笑顔を返すだけだった。 ◇ 更に五分程帰路を進んだ頃。 何かが唸っているような、変な音が遠くから聞こえ始めた。風の音にも似ており、始めは四人共『気のせいだろう』と考えていた。町まで随分と近づいて来たし、この辺はもう魔物の生息地域からは外れ始めているからだ。目を凝らせば拠点にしている町の外輪が見え、周囲に広がる農地や農民達だって確認出来るような場所だ、何も危険は無い。……無い、はずだと思いながらも、彼らの歩く速度は次第に上がっていく。 そんな三人に追いつこうと少女も必死に歩いてはいるが、小柄な彼女では走っているに近い状態だ。修道女にも似た白い服は裾に向かう程細くなっていくテーパードスカートに近いシルエットになっている為、これ以上早く移動するのは厳しいかもしれない。『グルルルル…… ッ』 斜め後ろ方向にある木々の隙間で、二つ並びに何かがギラリと光った。獣めいた唸り声は既にもうかなり近く、ロイヤルが慌てて大きな盾を構える。彼の背後に隠れたスカルは弓を、キングは剣を手に取
幾千幾万と混在する世界の、とある星の一つに、緑と水に溢れた【オアーゼ】と呼ばれる大陸がある。その大半を広大な海で満たされているこの星では、オアーゼ大陸は砂漠で見付けたオアシスが如く貴重な大地だ。自然豊かなその土地は様々な資源に恵まれ、綺麗な飲み水も多く、栄養価の高い土は数多の命を育んでいった。精霊や神霊、動植物も数多く生きる美しい大地となったが、悲しい事にそれら全てを養うにはオアーゼはあまりに狭く、生き物同士は次第に対立するようになってしまった。 多種との平和と共存を願う人間と獣人、そして一部の獣達。 攻撃的で弱肉強食を掲げる魔物と、ぬるい平和を嫌うならず者。 両者は相見える度に争いを繰り返してきたが、長い年月の間どうにか均衡を保ち続けていた。だけど魔物達の中に『魔王』と呼ばれる存在が出現した途端、絶妙なバランスを保っていた勢力図は壊れた天秤みたいに一気に片側に傾き、平和を願う種族は全て、絶滅危惧種と化す直前にまで追い込まれてしまった。このままいけば魔物側の勝利だ。『豊かなオアーゼは今以上に混沌の大地と化すだろう』と誰もが思った。 ——だが。 ある日突然、何故か魔王が《自殺》した事で事態は一転したのだ。 理由はわからない。だが彼は何の前触れもなく、城の玉座で、自身の胸に短剣を突き刺して死んでいたのだ。それにより統制を失った下級の魔物達は混乱し、力ある者達は『我こそが次の王だ』と互いに殺し合いを始め、魔物達は急速に自滅していった。 それから五年。 魔物達は未だに衰退の一途を辿り続ける中、人々は勢力を取り戻そうと躍起になっていた。だが圧倒的に人員が足りず、破壊され尽くされた街の復興もままならない。そんな中、《魔塔》と呼ばれる施設で暮らす魔法使い達が『実は、人材を簡単に増やす方法がある』と多くの権力者に打診してきた。そんな都合の良い話はあるはずが無いと半信半疑になりつつも、全てがひっ迫している状況では藁にでも縋りたくなるものだ。『ならば話を聞くだけなら』と、権力者達は魔法使いに『その方法は?』と訊いた。すると彼らはこう答えたそうだ。『他の世界から、人材を連れて来たらいいのだ』と。 これ以降、此処オアーゼには異世界からの移民が増えていく事になる。復興を担う新しい人材を集める為、数多くの魔法使い達が様々な世界へ勧誘しに行った成果だった。
むかしむかし。 とある世界のとある星では、ニンゲンとマモノがいつもケンカをしていました。 ずっとずっと仲が悪く、ケンカばかりしていましたが、ある日マモノ達の中に一人の王様が現れました。 カレはとてもつよく、とてもかしこく、うつくしかったので、マモノ達はみな『マオウサマ』と呼んだそうです。 マオウサマはつよかったので、マモノ達はたくさん勝ちました。 ニンゲン達は負け、星のすみっこでしか生きていけなくなりました。『このままではニンゲンはゼツメツする』 みんながそう考えていましたが、マオウサマが急に死に、王様がいなくなったマモノはゆっくりとジメツしていったのです。 ナゼかはわかりませんでしたが、そのジジツをニンゲン達はスナオによろこびました。 でも、このままではニンゲンもみんな居なくなってしまうでしょう。 多くのモノ達がそう考えてしまうくらい、ニンゲンも減っていましたから。 だけどニンゲン達はふえていきました。 そして、ニンゲン達は住むばしょを広げました。 いつかはマモノに勝とうと、こっそりがんばっていたおかげで。 ——知りたいかな? どんなふうにがんばったのか。 どうしてまた、ふえたのか。 知りたいなら、この本の上にキミの手をのせてみるといいよ。 “いま”をかえたいキミも、手をのせてみるといいよ。 キミを、わたし達がたすけてあげる。 ◇ ——生まれて初めて、母さんから渡された絵本に書いてあったこのお話は、とても不思議な終わり方をしていた。 真っ黒なクレヨンで描かれたマモノ。赤や青といった綺麗な色を使って描かれているニンゲン達。豊かな自然の風景もクレヨンで描いているのにとても綺麗で、心を惹き込む力強さがあった。 正直な所、お話の意味はよくわからなかった。 だから面白いとも思わなかった。だけどワタシは何の気なしに手を置いてみた。 今日、初めて会った弟の小さな小さな手も、一緒に。 最後に書いてあった、『キミを、わたし達がたすけてあげる』という文字が胸にじわりと響いたからだ。 たすけて、たすけて、たすけて…… もう、ここから消えてしまいたい。 そんなお願いが叶うかもしれないと、少しだけ、本当に少しだけだったけど、期待したからだった。