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【第9話】討伐ギルド・前編(スキア・談)

ผู้เขียน: 月咲やまな
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-12-16 14:47:21

 ルスの目的地である討伐ギルドは、ソワレこの町の目抜き通りからは一本逸れた通りにある。煉瓦造りのその建物の周辺には薬を扱う店や防具・武器屋、質屋などが数軒あるが、それよりも酒屋や飲み屋の方が多く並らぶ。そのため昼間は比較的静かな通りなのだが、日の暮れた今では酷い有様だ。討伐依頼などをこなして得た稼ぎの全てを使い倒す勢いで酒を煽る者がいたり、喧嘩になって殴り合う奴らもいて、とても騒がしい。

 初めて来た町なのに、この通りが昼間どんな様子なのかを僕が知っているのは、全てルスと契約したおかげだ。

 “影”を経由して色々な物を入手出来る以外にも、契約対象となった者の“知識”などを読み解く能力を僕は持っている。現状僕が自在に読めるのは“知識”の方であり、“記憶”の方は契約印がもっと彼女の体に馴染んでいかないと多くは望めない。だが此処数日間程度の記憶は既に得ておいたから、この後の行き先くらいは全て把握済みだ。

 魔物側での活動期間が長かったため、残念ながら今の僕には人間側の知識が乏しい。なので町に入ってすぐに彼女の“知識”の方も少しだけこっそり読ませてもらったのだが——

 ルスの“知識”は、何かがおかしい。

 色々な知識をそれなりに得てはいるみたいなのだが、どれもこれもが浅いのだ。例えば『トマト:赤くて丸い野菜。酸味が強い物や甘めの物など、品種によって味の系統が少し違う』などといった具合に、妙に説明文めいた覚え方をしている。それに加えて“知識”に関連付けて思い出せる経験などがほとんど無く、どれも“本”や“聞き齧って得た簡単な知識”でしかないといった印象だった。

 貴重な人材であるはずのヒーラー職に従事している割には着ている装備も貧相だし、弟を預けている保育所の延長代金をやたらと心配する程お金が無い点も不思議でならない。

(人の事をどうこう言える立場ではないが、ルスに関してはどうも疑問点が多いな……)

 そんな事を考えていると、ルスがギルドの入り口前に立ち、「スキアはどうする?外で待つ?」と訊きながらこちらを見上げてきた。

「もちろん一緒に行く。僕達は“夫婦”になったんだからな」

 にっと笑い、ルスの手を取って指を絡めていく。そして少しでも夫婦らしく見える様に恋人繋ぎってやつをやってみた。僕らしくないサービス精神だ。

 相当若くは見えるが所詮はルスも年頃の娘であ
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    『……なま、え……』 「うん。……何て、呼べばいいのかな」(知るか!そんなの。——あぁもういい、勝手にしろ) と、心の奥底でだけ悪態をつく。 『ア、アンタの好きに呼べばいい。別に僕は“お前”でも“アンタ”でも、“おい”って呼ばれようが、反応はするんだし』  そもそも持っていないものを教える事なんか出来やしないんだ、これ以上は訊かないで欲しい。そんな気持ちでいたせいか、随分と投げやりな声色になってしまった。 「好き、に……?」 『あぁ、好きにしていい』  僕がそう言うと、“ルス”と名乗った少女の口角が少しあがった。「……じゃあ、“スキア”って呼ぼうかな」 楽しそうに笑顔を浮かべているみたいだが、何処もかしこも血塗れなせいで少し怖い。これではまるで猟奇殺人鬼みたいだ。 『スキア?』 「そう、“スキア”。意味はねぇ、確か……“影”だったはずだよ。姿は見えないけど、こうやって、“影”みたいに優しく傍に居てくれているから」 僕に心臓があれば、ドキッとしていたに違いない。  まさか僕が、実体を持てぬ時は『影』に溶け込んで生きるしかない存在であると、ルスはわかっていてこの名前を選んだのだろうか?生き物達が負の感情を抱き始め、それらが少しづつ影の中で蓄積されて、ついぞ意思を持ったイキモノが僕であると、彼女は知って……? ……いや、そんなはずは無いか。  誰にも知られず、契約により『真実』と知った契約者達も今まで全て、食い潰して生きてきたんだから。「別の、名前がいい?」  僕が黙っていたせいか、ルスの声は少し不安げだ。 『いや、大丈夫。……“スキア”か、良いんじゃないかな』  その名を口にしていると、じわりと自分に馴染んでいく感じがする。一度も経験の無い、何だかとても……不思議な感覚だ。『じゃ、じゃあ、早速契約を交わそうか』 「あぁ、うん……。そうだね」  返事をし、ルスがゆっくりと頷く。何とかそのくらいは出来るまで回復が進んできたみたいだ。(マズイな、予想よりも回復が早い) 早く契約を結ばないと、気が変わって『やっぱりやめる』と言い始めるかもしれないし、僕と契約する事のデメリットを訊かれたりもするかもしれない。だが、名前と同じく、『そんなものは無い』が答えなので焦る必要はないのだが…

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  • 異世界に逃げたら仮初の夫に取り憑かれた!   【第4話】次の憑依先は——(とあるイキモノ・談)

     “ 魔王・ブリガンテ”が、とうとう狂って死んだ。 “僕”は他者に取り憑く習性を持つ生き物である。——そんな僕に長年憑依先として使われ、宿主特権で力を得た彼が魔物共を統率してきたが、“僕”という存在に精神が耐え切れなくなった事が原因だった。牛の様なツノを持ち、人間にも似た顔立ちが飛び抜けて美しい奴だったが、他者よりも欲深いというだけで本人はたいした力を持っていなかった。だからかアイツは、『僕に見捨てられてしまったら、オレは終わりだ』といつも怯えていたのだ。  配下が増えれば増える程にその恐怖はアイツの精神を蝕み、次第に崩壊させ、自らの手で命を絶つ事を選択するに至ったのだろう。僕が少し目を離した隙に、奴の遺体は短剣を胸に突き刺した状態で発見された。 あーあぁ。  もうちょっとでコイツはこの世界を手に入れられたのに。  ホント、馬鹿な男だ。 戦闘は日々苛烈を極め、人間達の陣営は劣勢続きだった。どう考えたって魔物側が圧倒的優勢だったから、王が死ななければ、この世界は魔物の支配下に堕ちただろうに。アイツには、手に入れてしまった後の世界を治めていく度量も無かったようだ。 そのせいで、結果は人間達の逆転勝利。 魔物達は統率者を失い、一様に絶望し、主人を失って散り散りに。  憑依対象であったブリガンテを失い、去り際の置き土産として僕は、強者達全員に『次の王には君がなるべきでは?』と囁いておいた。そのおかげで彼らは内部で争いを始め、続々自滅していった。 人間達は勝利を収める形にはなったが、両者は長い戦いで痛み、傷付き、人間共がコツコツと築き上げた文明はもう、笑える程に壊れている。このままいけば形だけの勝者となった彼らも、緩やかに滅亡へと進んでいくだろう。 …… ふふっ。ははっ、あはははははは!  あー、何度思い出しても笑えてくる。 “ブリガンテ”は“魔物”だったおかげで体は丈夫だったから、長く楽しめた。だが、相性が良過ぎたせいでとても操り易く、その点では非常に退屈だったなとも思う。 ……よくよく考えてみると、その前も、その前も前も前も前も——  慌てて過去を振り返ってみたが、僕は毎回、身の内に深い闇を抱えた者にばかりに取り憑いてきたなと、永年生きてきたクセに今更気が付いた。属性が僕と同一の者達が操り易い

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