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3-1:誤変換と魔法の契約

Author: 琉斗六
last update publish date: 2026-08-10 19:59:25

 〝手足拘束で荷台に転がされていた男〟だった俺は、〝奴隷の男〟に昇格することになった。

 と言っても、それは未だ、アップルグリーンが宣言しただけの話……なのだが。

 改めて隣に立つと、実は俺よりずっとでかい。

 俺は180センチと、平均より身長はある方だ。

 だが、向かいに立ったアップルグリーンの顔は、見上げないと視線が合わない。

 軽く見積もっても2メートル以上はありそうだ。

「ん〜、じゃあ、まずは名前教えて」

「風車虎七郎」

「ウィンドミル・タイガー・セブン? なんだよ〜、野蛮人なのに貴族みたいじゃん」

「か・ざ・ぐ・る・ま・と・ら・し・ち・ろ・うっ!」

「だからぁ、ウィンドミル・タイガー・セブンでしょ。ちゃんと聞き取れてるよ」

「聞き取れてねーしっ!」

 ここまで、明らかに日本語以外の言語で喋るアップルグリーンと、絶対に日本語以外は喋ってない俺が、なぜか言葉通じていたのも変なのだが。

 いままでなんのストレスもなく通訳されていたはずなのに、なぜか名前だけは誤変換されるらしい。

 とはいえ、俺は自分のシワシワネームがさほど好きだった訳でもない。

 拘る必要もないな……と思ったら、我を張るのも莫迦莫迦しくなった。

「じゃあもう、タイガでいーよ!」

「ええ〜、せっかくお貴族様みたいな名前なのに、そこまで短くする〜?」

「そんなお貴族様みたいな名前で、呼ばれたくないし! 名乗りたくないし!」

「わかった〜。そんじゃあ、ここに手を置いて」

「なにこれ?」

 アップルグリーンが出してきたのは、紙のようだが手触りが明らかに紙とは違う〝紙状のナニカ〟だ。

 ベージュ色をしていて、表面には変な柄が描かれている。

「契約用の魔法陣。ほら、手を置いて」

 俺は、ちょっとだけ尻込みをした。

 魔法陣ってことは、この世界には魔法が存在するってことだ。

 もっとも、既に正体不明な光のコビトさんとコロブチカを踊り狂い、明らかに折れていた車軸が直った時点で、魔法は存在している。

 ということは、冷静に考えると〝魔法の契約〟のなんたるかを知らないのに、契約を交わして大丈夫なのか? と考えてしまったからだ。

 とはいえ、土地勘も状況も分からない俺は、アップルグリーンを振り払って逃げる……という選択肢は、存在しない。

 結局、数秒の逡巡の末に、俺は仕方がなく〝契約の魔法陣〟の上に手を置いた。

「え〜と……、汝タイガは、我ポム=ヴェールの商売の助け手となる。はい、復唱」

「えっ? はっ? てか、オマエの名前、ポム=ヴェール《青りんご》なのかよっ!」

「あれ? 言ってなかったっけ? 僕は行商人のポム=ヴェール。ポムって呼んでね」

「そのまんまかよ!」

「仕方ないじゃん。孤児なんて、容姿でテキトーに名付けされるの、あるあるでしょ〜?」

「えっ……、そいつぁ、失礼……」

 ちょっと後ろめたくなって、俺は小さな声で謝罪した。

 が、言われたポムはさほど気にした風もない。

「それはどーでもいいから、復唱!」

「あ、えーと……なんだっけ?」

「だ〜からぁ! 汝タイガは、我ポム=ヴェールの商売の助け手となる! 名前の部分は、入れ替えて!」

「汝、ポム=ヴェールは、我、タイガの商売の助け手となる」

「ちょっと! 入れ替える位置が間違ってるよ!」

「あ、そっか。我タイガは、汝ポム=ヴェールの、商売の助け手となる」

「商売の神よ、ここに誓われし清廉なる契約を見守れたし。金貨は巡り、銀貨は流れ、小銭は鳴る……」

 契約の魔法陣がふわっと一瞬だけ光り、耳元で〝チャリチャリン〟ってな、小銭が入った袋を振ったみたいな音がした。

 てか、なんなんだその某SFドラマにでてきた、耳の大きな宇宙人的な呪文は……?

「はい、完了〜!」

 ポムは、二人の手の形が浮き上がっている用紙をくるくるっと巻くと、荷台に置かれている箱の中に収めた。

 いやにギタギタした装飾が施された箱は、チラと見えた中身から、どうやら魔法の契約書を保管する専用の容れ物らしい。

「なあ、これってちなみに、俺が契約を破ったらどうなるの?」

「ん〜? 秘密〜」

 ポムは、細い糸目を三日月型にして、意味深に笑う。

「なんだよそれ! 気になるだろ!」

「別に命までは取らないから」

「いや、むしろこええよ! 教えろって」

「足の裏がちょっと痒くなるだけだよ」

「はい……?」

「だってほら、僕が買える魔法の契約書なんて、そんなスゴイの無理だし。ずっと足の裏が痒くなるとか、鼻がモジモジするとか……、その程度だよ。……じゃあ、行こうか!」

「いや、むしろそれ、拷問だろ!」

「安くたって、縛れなきゃ、契約書の意味がないじゃんか」

 御者台で叫んだ俺の悲鳴を、ポムは鼻で笑った。

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