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第2話

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戸籍を抹消する手続きが終わるまで2週間かかると聞き、絢香は両親と話し合った結果、まずは谷口家に戻ることにした。

この2週間は、健吾の傍にいなければならないし、絶対に怪しまれるわけにはいかなかった。

もしバレたら、あの人のことだから、きっとただでは済まさないだろう。

家に戻ると、絢香は身の回りのものを整理し始めた。

宝物だった二人で撮った写真や、健吾がくれたラブレター、それに旅行先で買ったお土産も……全部暖炉の中に放り込んだ。

炎が思い出を飲み込んでいく。まるで、馬鹿馬鹿しい夢を燃やしているようだった。

次の日、絢香は裏庭に向かった。

そこには健吾が絢香のために植えてくれたプラタナスの並木がある。「プラタナスは忠実さの象徴なんだ。俺のお前への愛みたいに、永遠に枯れないんだよ」と、彼は言っていた。

だから、絢香は斧を手に取ると、その木を一本また一本と切り倒していった。

遠巻きに見ていた使用人たちは、近寄ることも止めることもできなかった。木の幹が折れる鈍い音が響き渡る。それはまるで、しがみついていた想いを無理やり断ち切る音のようだった。

三日目、絢香は山の頂上にある恋人岬へと行った。

そこには、二人の名前が刻まれた南京錠がかけてあった。昔、健吾が絢香を抱きしめながら鍵を崖の下へ投げ捨て、「これで俺たちは一生離れられないな」と言ったのだった。

今、絢香はその南京錠をペンチで無理やり断ち切った。

南京錠が地面に落ち、カランと乾いた音を立てる。

そして、絢香はくるりと翻すと、一度も振り返ることなく立ち去った。

家に戻ると、リビングには二人の男女がいた。

ソファに座る健吾と、その腕の中に寄りかかる莉子。莉子はなんだか顔色が悪く、風が吹けば倒れてしまいそうなほど病弱そうに見えた。

絢香はそんな二人の横を無表情で通り過ぎ、そのまま階段を上がろうとした。

「待て」と、健吾の冷たい声が響く。

絢香は足を止めたが、振り返りはしなかった。

「俺がなぜ莉子を連れて帰ってきたか分かるか?」と、健吾が言った。

「興味ない」

「莉子は、お前に外国へ追い出されてから、環境が合わずに体調を崩したんだ。だから、何日も眠れていない」健吾の声には責めるような響きがあった。「だから、絢香。莉子に謝れ」

絢香はようやく振り返り、二人の方を見る。

莉子はおびえたように健吾の袖をつかんでいたが、その目には一瞬、勝ち誇ったような光が宿った。

「もし謝らなかったら、どうする?」絢香は静かに尋ねた。

「もう、大丈夫だから……」莉子がか細い声で言う。「私が我慢すればいいの。だって、この家は絢香さんと健吾さんのものなんだから……」

すると、健吾がすぐに莉子を抱きしめた。「そんな気ばっかり使わなくていいって言っただろ?」

さらに、莉子の髪にキスを落とす。「これからは俺が甘やかしてやるから、思う存分好きにしていいんだよ」

あまりの茶番に呆れ、絢香は口の端を歪めた。

使用人が気持ちを落ち着かせるためのハーブティーを一杯運んできた。莉子のために特別に用意したものだそうだ。

その時、健吾のスマホが鳴った。

健吾は相手を確認すると、莉子を見つめた。「仕事の話を聞くと頭が痛くなるだろ?だから、俺は外で電話してくるから、そのハーブティーでも飲んでて」

そう言うと、健吾は立ち上がって部屋を出ていった。

心臓を斧で殴られたような衝撃で、絢香はその場に立ち尽くした。

健吾は昔、仕事の機密が漏れるといけないからと、決して家の外で仕事の話はしなかった。しかし今、莉子のためなら、そんな習慣さえも変えてしまえるのだ。

リビングには絢香と莉子だけが残された。

すると途端に、莉子の顔から病弱さが消え、代わりに勝者の傲慢さのようなものが浮かび上がる。

「見た?」莉子がくすりと笑った。「本妻のあなたは、その立場を利用して私を追い出したみたいだけど、健吾さんの体も心も、今は私のものなの」

しかし、絢香は冷ややかな視線を莉子に向けるだけだった。「あの人が欲しいなら、あげるわ」

莉子は一瞬きょとんとしたが、すぐに怒りを露わにする。「あなたからもらう必要なんかない!健吾さんは遅かれ早かれ私のものになるんだから!あなたのその座も、いずれは私のもの!」

絢香が平然としているのを見て、莉子はさらに逆上した。

その時、外から健吾の足音が聞こえてきた。

すると莉子は突然、熱々のハーブティーを手に取ると、自分自身の体めがけてぶちまけた。

「きゃあっ!」莉子は悲鳴をあげ、みるみるうちに目に涙を浮かべる。

健吾が駆け込んできた時、目に飛び込んできた光景は悲惨だった。

ハーブティーでずぶ濡れになった莉子の服からは、液体が滴り落ちていて、目を真っ赤にして泣いていた。

「絢香!」健吾の眉間に怒りが浮かぶ。「謝らないだけならまだしも、こんなことまでするなんて!」

「私じゃないから」絢香は冷静に言った。「防犯カメラを確認すれば分かるよ」

「いいだろう、調べてやる!」健吾は鼻で笑った。

しかし、莉子がすぐに健吾へ縋りつき、声を詰まらせた。「健吾さん。絢香さんのせいじゃないの……私が健吾さんの傍にいたいなんて、我が儘を言ったから。私、今すぐ出ていく……」

莉子が一歩踏み出した途端、健吾がその腕をぐいと引き戻す。

「せっかくお前を探し出したのに、また俺の前からいなくなるのか?お前は俺を殺す気なのか?」

失った宝物を取り戻したかのように、健吾が莉子を強く抱きしめた。

そして絢香に向けるその眼差しは、恐ろしいほど冷え切っている。

「こいつには、俺が罰を与えてやる」

その後、絢香は冷凍倉庫に閉じ込められた。

ボディーガードに引きずられ、中に押し込まれる時、綾香は必死にもがいた。「健吾!防犯カメラを調べて!私じゃないってば!」

しかし、健吾は絢香をちらりとも見ずに、ただ冷たく言い放つ。「調べる必要なんかない。俺は莉子だけを信じるから」

冷凍倉庫の重い扉が閉ざされた。

暗闇と冷気が一瞬で絢香を飲み込む。

隅で体を丸め震える綾香の心は、冷凍倉庫よりもずっと冷え切っていた。

これが、絢香を一番愛していると言った男のすることなのだろうか。

絢香の目からは涙がとめどなくあふれ出た。

絢香はもともと冷え性で、寒さがとても苦手だった。

だから結婚後、健吾は家を全館空調にしてくれ、庭でさえも一年中春のように暖かかった。

冬になると、健吾は冷たくなった絢香の手足を自分の手で温めながら、笑ってこう言ったものだ。「一生、こうしてお前を温めてあげるよ」

それが今では……

誓いの言葉なんて、口にしたその瞬間だけが真実なのかもしれない。
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