Mag-log in谷口絢香(たにぐち あやか)は、夫の谷口健吾(たにぐち けんご)に内緒で、彼の愛人を海外へ追いやった。 するとその夜、健吾は絢香の両親を拉致し、愛人の居場所を教えなければ両親の命はないと絢香を脅す。 健吾が絢香の目の前に突きつけたスマホの画面に映し出されているのは、椅子に縛りつけられた絢香の両親。二人の胸には時限爆弾が取り付けられ、タイマーの数字が刻一刻と減っていた。
view moreドアの外で、莉子は一人孤独に佇んでいた。冷たい風が吹き付け、まるで莉子の滑稽さを嘲笑っているかのようだった。莉子はあてもなく歩いた。噴水の傍を通りかかったとき、何気なく水面にを覗くと、自分の姿が映り心底驚いた。「えっ!」莉子は顔を覆った。水面に映ったあの恐ろしい女は本当に自分なのか?刑務所にいた間、身なりを整える時間も気力もなかった。古傷が癒える間もなく、新しい傷が増えていくばかりの日々。傷の手当てもろくにしてもらえず、ただ腐って化膿していったのだった。昔はあんなにおしゃれが好きだったのに。いったいどうして、こんなことになってしまったのだろう。莉子には、分からなかった。そして、苦しんでいるのは自分自身だけではなく、両親までもが苦しみの中にいる。刑務所にいるとき、訪問者の誰かが両親の様子を写した写真を見せてくれたことがあった。もう若くない両親だったので、体も昔のようにはいかず、可愛い娘も傍にいない。心労がたたっているのか、二人とも数十歳は老け込んで見えた。まだ50歳を過ぎたばかりなのに、髪は真っ白で、顔はしわだらけ。そして今、自分までこんな姿になってしまった。莉子は、心の底から後悔した。もしあの時、お金に目がくらんで、わざと健吾の前で転ばなければ……もし、彼の愛人になることを承諾しなければ……もし、何度も絢香を陥れたりしなければ、こんなことにはならなかったかもしれないのに。しかし、もう全てが手遅れで、取り返しがつかなかった。なんて滑稽なのだろう。さっき、こんな姿でまた男を誘惑しようとしていたなんて。でも、他にどうしようもなかったのだ。莉子は絶望した。もし他に生きていく術があれば、男を誘惑する必要なんてなかったのに。もうこんなにボロボロになってしまった。これからどうすればいいのだろう?莉子は自分の人生の結末が、もう見えてしまった気がした。……B市刑務所。達也のボディーガードが臨時の看守として、健吾から少し離れた場所に立っていた。そして、健吾が痛めつけられるのを冷ややかに見つめている。ドンという鈍い音。金髪で青い目をした男が憂さ晴らしのように、健吾に拳を叩き込みながら、暴言を吐き続けている。しかし、健吾はもがいたり抵抗したりする素振りを全く見せず、ただ黙ってその暴力
「そんなつもりじゃ……違うんだ。俺はただ、こいつにお前に謝ってほしかっただけで……もし俺が償うべきだって言うなら、俺が代わりに罰を受ける」健吾は狼狽えながらも、なんとか絢香に近づこうとした。しかし、絢香の怯えた眼差しを見ると、一歩が踏み出せなかった。達也は眉を顰め、絢香の背中を優しく摩りながら落ち着かせる。「大丈夫。もうこいつに君を傷つけさせたりなんかしないから」そして厳しい表情を健吾に向ける。「健吾。お前、本気で言ってるのか?本当に罪を償うつもりなら、絢香さんの許可なんかいらないんじゃないか?それとも、本当は行くのが怖いだけなのか?」健吾が反論する間もなく、達也は続けた。「お前が行く気があろうとなかろうと、どうでもいい。今すぐ、お前を罪を償うべき場所へ送ってやる!」その言葉が終わるや否や、数人のボディーガードが現れ、健吾をぐるぐる巻きに縛り上げ、車へと引きずっていった。健吾は抵抗せず、ただ絢香をじっと見つめていた。「絢香。俺がずっと償いに行かなかったのは、ただ1秒でも早くお前を見つけて、謝って、傍にいたかったからなんだ。でも、もしこれがお前の望みだというのなら、俺は喜んで受け入れるよ」健吾は車に押し込まれ、ドアが閉められた。車はどんどん遠ざかり、やがて完全に見えなくなった。絢香は思わず達也に尋ねた。「どこへ連れて行ったの?」「こっちの刑務所だ。手はずは整えてある。あいつが償うべき罪から、何一つ逃れさせはしないよ」と達也は静かに言った。絢香は頷いた。健吾がどうなろうと、もう彼女には関係のないことだったから。これは元々、健吾が自分にしたことの報いなのだから、受けて当然だろう。ただ、健吾がいなくなり、そこにいた莉子は少しうろたえていた。しかし次の瞬間には、瞳に希望の光を宿らせ、再び生き生きとした表情を取り戻した。絢香の隣に立つ、背が高く整った顔立ちの達也を見て、莉子は昔何度もしたように、自分が一番美しく見える角度を探し、か細い声で話しかける。「あの……私と両親を助けていただけませんか?両親はまだあの人たちに病院に閉じ込められていて、定期的に血を抜かれているんです。二人とももう歳なので、このままでは体が持ちません。お願いです、助けてください。あなたがお望みのものなら、私、何でも差し上げますから
無数の写真が悪夢のように、健吾の頭に焼き付いては離れない。目を閉じても、その光景が目の前に浮かんでくるのだった。長い沈黙の後、健吾は罪悪感に苛まれながら、何度も何度も謝り続けた。「すまない、絢香……」しかし、健吾がどれだけ謝罪を繰り返しても、この苦しみは終わらなかった。健吾は汗で服を濡らしながら、無我夢中で建物の中を歩き回る。やっとの思いで辿り着いたところは、バスルームだった。しかし、中に入った途端、健吾はなんだか自分のことが心底気持ち悪く思えた。健吾はシャワーの温度を最高まで上げると、まるで皮膚を一枚剥がすかのように、何度も何度も体をこすり続けた。「絢香、俺は汚くない。これからはお前以外の誰にも触らない!本当に、汚くないんだ……」健吾は虚ろな様子でそう呟く。この苦しみからいつ解放されるのか、健吾には分からなかった。それから、しばらくして健吾はこの達也の拷問から解放された。しかし健吾の目は虚ろで、全身からは寂寞とした雰囲気が漂っていた。道行く人々は、奇妙なものを見るような目で健吾を見る。しかし、健吾はそんな視線なんかどうでもよかった。数日間休んだ後、翔平から山積みになった仕事の連絡が次々と入り、健吾は目が回るほど忙しく、絢香に会いに行く時間すら取れなかった。ようやく仕事が一段落し、健吾は一息ついた。健吾は翔平に電話をかけ、淡々と命じる。「莉子を刑務所から出して、俺のところへ連れてこい」指示を受けると、翔平はすぐに行動を開始した。翌日、拷問のせいで骨と皮ばかりに痩せ細り、もはや人間の姿とは思えないほどの莉子が、健吾の前に現れた。莉子の体には無数の傷跡があり、元の滑らかな肌は見る影もない。顔は幽霊のように真っ白で、その目は虚ろで何も映していなかった。健吾を見ても、言葉を発する気力すら残っていないようだった。刑務所での日々は、人間が送るような生活ではなく、普通の囚人としての生活すら、莉子にとっては贅沢だったようだ。なぜなら彼女を手厚く「もてなす」ようにと、特別な指示が出されていたからだ。そんな莉子の姿を見ても、健吾は少しも心を痛めることなく、ただ満足そうに頷いただけだった。「俺と一緒に絢香の所へ行って謝罪しろ」「はい」莉子は躊躇うことなく答え、健吾の後を大人しくついて行った。
「ごめん、絢香。でも、俺は本当にお前を愛してるんだ。莉子のことは説明させてくれ。俺は誤解してたんだ。あいつに騙されてた。もう莉子には思い知らせてやった。だから、そんなに残酷なことしないでくれ、頼むよ。もう一度チャンスをくれ。絶対にお前を傷つけたりしないから!もし破ったら、全財産を失っても構わない!いや、今すぐ全財産をお前の名義に変えてもいい!」健吾は低姿勢で懇願し、さらに割れた陶器の破片を拾い上げ、自分の首に突きつけた。そして絢香の手を無理やり握ると、自分の命を彼女に委ねた。健吾は狂気に満ちた笑みを浮かべ、苦痛の表情で言う。「絢香。俺を憎んでいるなら、殺してくれてもいい。けど、拒絶だけはしないでくれよ。お前のいない未来なんて、耐えられないんだ。俺は何もいらない。お前さえいればいいんだ。どんな罰だって受ける。お前が望むなら冷凍庫に閉じ込めてくれてもいいし、刑務所に入ったっていい。殴ったって罵ったっていいんだ。だから、どうか俺を捨てないでくれよ!」その言葉を聞いた絢香は、ぞっとして思わず手を振り払った。健吾の首が傷つくのも構わず、さらに怒りを込めて平手打ちを食らわす。「嫌、絶対に嫌だから。もうあなたの顔すら見たくないの。健吾、あなたなんか大嫌いなの。私に恨まれたくないんだったら、今すぐ目の前から消えて!」そう言い、絢香は健吾を鋭く睨みつけた。健吾の傷が深いかどうかも気にせず、絢香は急いで両親と達也の手を引いて、その場を後にした。「早く行こう。こんな狂った人とは、もう一秒も一緒にいたくないから」両親と達也は、必死に絢香を落ち着かせる。彼らの姿は見えなくなり、個室には健吾だけが残された。健吾は血が流れる首を押さえながら、ふっと笑う。「絢香。どうしてこんなもんで済ませちまったんだよ?いっそ殺して償わせてくれればよかったのにさ。なんで殺してくれなかったんだ?お前も俺を捨てきれなかったのか?まあ、そういうことにしておくよ」そんな嘘を繰り返しているうちに、健吾は本当にそうだったのではないかと思えてきた。しかし健吾の心は、絢香がもう本当に自分を愛していないことを、はっきりと理解していた。なら、自分はどうすればいいのだろう?まだこんなにも、彼女を愛しているというのに……健吾の心は、どうしようもない苦さでいっ