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第26章:崩壊の告白*百合子

last update Huling Na-update: 2025-10-25 21:15:47

ベッドルームの空気はまだ熱を帯びていた。シーツは乱れ、汗と香水が混じった匂いが漂う。

悠真は私の肩に顔を埋め、荒い息を吐いている。

「やっぱり……俺には百合子が必要だ。お前がそばにいてくれなきゃ、おかしくなってしまう」

ポツリと独り言のように、彼はつぶやいた。

「探偵なんか雇って悪かった。お前が何を企んでいようと許す。俺を利用したければ利用すればいい……お前になら何でも差し出してやる」

さっきまでの鋭い視線も、疑念の棘も、すべて溶けてしまったかのように。彼の指が私の背中を這う。熱くて、甘い。私の目的は達成された。彼を、私がいなきゃ生きられないようにしてやること。それが叶った。

でも、胸の奥に冷たい穴が開く。隆一の声が蘇る。

“余計な個人的感情を持ち出すな”

やはり、私は常人だ。目的のためなら何でもできる隆一のような狂人じゃない。こんなに悠真を偽り、それで得られたものを糧にして幸せを得られるはずがない。

このままでは悠真があまりに哀れで、可哀そうにすら思えてきた。

そして、そう感じられるほどに私は、悠真を愛し始めていることに気づく。不意に涙がポロポロとこぼれる。止められない。

「百合子、どうしたんだ?」

悠真が慌てて体を起こす。私は首を振った。

「ごめんなさい。私……あなたの愛を受け取る資格がない。だって……ぜんぶ嘘だったもの」

「嘘……ぜんぶっていうのは……」

「ぜんぶよ。あなたを利用していたことだけじゃない。隆一との関係も、ただのビジネスパートナーじゃない。私は彼からダスク再起の件を持ち掛けられて、彼に従って行動してただけなの……」

悠真は黙っている。呆然としているのか、何を言われているのか理解するのに時間がかかっているのかもしれない。先を続けるべきか一瞬迷ったが、黙っている方がかえって耐えられなかった。これから私は、彼が到底受け入れられないような話を、しっかり伝えなければならない。

「社員に登用されたのも、彼の工作のお陰。私、社員研修であなたに会ったときからずっと、あなたを利用するために動いていたの。私とあなたの出会いは運命なんかじゃない。最初から仕組まれていたの」

悠真の瞳が揺れる。彼はようやく、絞り出すように言葉を出した。

「でも……君のその手首の傷は……それも嘘だったって言うのか……」

「そう。この手首の傷は、単に学生の頃、金持ちの彼氏にフラれてヤケ起こ
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