LOGIN「絵里香にはもう罰を受けさせた」目を赤くした智也が、私を見た。「これで少しは気が晴れたか?」私は裸の写真を引き裂き、智也の顔に投げつけた。「悪いのは絵里香だけだと思ってるの?」智也は戸惑ったように私を見つめた。私は一歩ずつ智也に近づいた。「絵里香1人で、私をここまで追い詰められたと思ってる?本当に分からないの?それとも、分からないふりをしてるだけ?あなたがいなかったら、絵里香にこんなことができたわけないでしょ!」次の瞬間、私は智也の頬を思いきり叩いた。誰よりもプライドの高い智也が、こんなふうに頬を叩かれたことなど一度もなかった。智也は目を見開き、呆然と私を見つめた。私はその場を離れようと、智也に背を向けた。「千尋!」背後から低い声が響いた。振り返ると、智也がその場に膝をついていた。「どうすれば、俺を許してくれる?江坂と結婚しないなら、何だってする」私は足を止めた。そのとき、反対側のドアが開き、翔が姿を現した。翔は黙ったまま、私たちを見つめていた。私はテーブルの上のナイフをつかみ、智也の足元へ投げた。ナイフは乾いた音を立て、床を転がった。「自分の腹を3回刺す覚悟、ある?」智也は顔を上げ、驚いたように私を見た。「それくらいの覚悟もないなら、何だってするなんて言わないで」私は冷たく笑い、智也の横を通り過ぎた。「千尋!」背後から声が上がった。振り返ると、智也は自分の腹にナイフを深く突き刺していた。「1回目だ……」智也の口元から血が一筋流れ、声も少しかすれていた。「ごほっ!」ナイフを引き抜いた途端、智也は床に血を吐いた。「千尋……あと2回だ……終わったら、あいつとは結婚するな……」ズブッ!智也は再び、ナイフを腹に深く突き立てた。翔が息をのんだ。智也が再びナイフを腹に突き立てようとした瞬間、翔はたまらず怒鳴った。「やめろ!」ズブッ!智也は柄を握り締めたまま、口元から血を流しながら笑った。そしてナイフを引き抜くと、私に差し出した。「これで3回だ……千尋、終わったぞ」「お前……」翔の握り締めた拳には、青筋が浮かんでいた。私はその腕を押さえ、智也を冷たく見た。「それで私が翔さんとの結婚をやめるな
警察署を出ると、智也の友人たちが大勢待っていて、拍手と歓声で出迎えた。智也が近づくと、みんなが一斉に声をかけた。「智也さん、お帰りなさい!」「智也さん、こんなに早く出てこられるなんて、さすがですね!今夜は俺がおごりますよ!」「絵里香さんに会えてうれしいでしょ?今日のために、朝からめかし込んで待ってたんですよ!」智也は振り返った。きれいに着飾った絵里香が、恥ずかしそうに笑いながら、髪を耳にかけた。けれど智也はすぐに絵里香から目をそらし、友人たちをかき分けながら、誰かを捜すように辺りを見回した。どこを見ても、千尋の姿はなかった。智也は震える息を吐き、ようやく口を開いた。「千尋は?」友人たちは一瞬、ぽかんとした。「千尋はどこだって聞いてるんだ!」慌てた友人たちは、絵里香を智也の前へ連れてきた。「智也さん、絵里香さんならここにいますよ」「千尋は……」智也の声が低く沈んだ。「千尋はどこにいる?」……海外での毎日は、息をつく暇もないほど忙しかった。仕事に追われ、自由な時間は以前より減った。それでも、頑張った分だけ成果が数字に表れ、口座の残高も少しずつ増えていった。そんな日々に、私はこれまでにないほど安心していた。そんな中、智也が突然私の前に現れたときは、さすがに驚いた。かつてあれほど思い悩み、何度も泣かされた相手なのに、今こうして目の前に立っていても、遠い昔の人を見ているような気がした。「そいつと、どういう関係なんだ?」智也は、私の隣にいる翔を見た。翔が口を開くより先に、私は彼の腕を引き、かばうように一歩前へ出た。「智也、私たち、もうすぐ婚約するの。祝ってくれるならありがとう。でも、用がそれだけじゃないなら帰って」「今、何て言った?」智也は目を見開いた。次の瞬間、乾いた笑いを漏らした。「千尋、この前は知らない男とおそろいのアイコンにして、今度は婚約か。そこまでして俺の気を引きたいのか?」翔が眉をひそめた。智也の目は、うっすらと赤くなっていた。「分かったよ。認める。お前がほかの男とそんなふうにしてるのを見たら、俺だって平気じゃいられない。これで満足か?もういいから俺と帰れ。帰ったら、すぐ結婚しよう」「人の話が分からないのか?」翔は冷や
「誰か!」私は淡々と言った。「何するつもりなの!?」絵里香は、私の後ろから次々と現れたボディーガードを見て、顔をこわばらせた。私は絵里香に目を向け、薄く笑った。「あの女の服を全部脱がせて、外に放り出して」「ちょ、ちょっと……!」絵里香は青ざめ、さらに後ろへ下がった。「近づかないで!私に触らないで!私にこんなことして、智也が黙ってると思ってるの?あんたたち、ただじゃ済まないわよ!」「うるせえ!」ボディーガードの一人が、絵里香の頬を平手で打った。「黒田なんか、うちの社長の足元にも及ばねえよ」口元に血をにじませた絵里香が、信じられないものを見るように私を見た。「……何ですって?」「やめろ!」怒鳴り声とともに、慌ただしい足音が近づいてきた。智也は絵里香の襟元をつかんでいた男に駆け寄ると、胸元を思いきり蹴り飛ばした。男はその場に倒れ込み、血を吐いた。「絵里香に触るんじゃない!」「智也!」絵里香は泣きながら智也に飛びついた。「絵里香……」智也はかすかに震える手で絵里香の乱れた襟元を整え、外れていたボタンを留め直した。その背後には、こちらをはるかに上回る数のボディーガードが並び、逃げ道を塞ぐように私たちを取り囲んでいた。「千尋……」智也は、今にも私を殺しそうな目でこちらを見た。「この前あれだけの目に遭っても、まだ分からないのか?」私は眉をひそめた。「何をするつもり?」「こいつの服を全部脱がせて、そのまま人通りの多いところに放り出せ」智也は冷たく言い放った。智也の部下に取り押さえられた私のボディーガードたちが、声を上げた。「黒田、やりすぎだ!人を裸にして晒すなんて、そんな卑劣な真似をするな!」「卑劣?」智也は押さえ込まれた彼らを冷たく見渡した。「お前らも絵里香に同じことをしようとしただろ。それでよく、俺を卑劣だなんて言えるな」「こいつらも全員、裸にしろ!」服が次々と裂かれ、怒鳴り声と罵声が廊下に飛び交った。床に押さえつけられながら、私は智也を睨みつけた。「智也!こんなことして、ただで済むと思わないで!」智也は絵里香を背後にかばい、冷え切った目で私を見下ろした。「身につけてるものは全部脱がせろ」「やめて!」私の
「千尋?」翔は心配そうに、私の顔をのぞき込んだ。私はソファで膝を抱え、声もなく涙を流していた。「泣かないで。君が映っていた動画も写真も、もう全部消させた。ネットにも残ってないから」翔は少し慌てたように、私の頬を伝う涙を拭った。「ありがとうございます、翔さん」私は手首につけていたブレスレットを外し、翔の手にそっと載せた。「助けていただいたことは、絶対に忘れません。これは母の形見です。今の私には、これくらいしかできませんが、きちんと恩返しできるようになるまで、預かっていてください」「千尋!」部屋を出ようとしたところで、翔に呼び止められた。翔はしばらく言葉を詰まらせてから、口を開いた。「俺が助けたのは、ただ放っておけなかったからだ。何か返してほしいなんて思ってない」私は振り返らなかった。「千尋……」少し間を置いて、翔は続けた。「分かってほしい。俺は、何かを返してもらうために千尋を好きになったんじゃない。ただ、千尋の力になりたいんだ」私は涙で濡れた顔のまま振り返った。「それなら、智也を社会的に潰せますか?」「もちろん」翔はゆっくりと私の前まで歩み寄った。「任せてくれ、千尋」そして、そっと私を抱きしめた。「最初から、そのつもりだ」……パーティー会場では、絵里香が友人たちとダンスフロアではしゃいでいた。友人の一人が智也の席までやってきた。「智也さん、今日は絵里香さんと踊らないんですか?前は、ほかの男とは絶対に踊らせなかったじゃないですか」「服は届けたか?」智也はグラスを握ったまま、まだ一口も飲んでいなかった。「ああ、千尋さんの服ですか?とっくに届けましたよ。ほら」差し出されたスマホには、カメラに背を向けた男が、スーツの上着で千尋の体を包んでいる写真が映っていた。その男は、服を届けに行かせた男と背格好がよく似ていた。写真を見た智也は、グラスを握る手からふっと力を抜いた。ようやくグラスに口をつけ、ゆっくりと酒を味わった。「もうこれくらいでいい。誰かに様子を見に行かせろ。あいつは冷え性だから、いつまでも外に放っておくな」「分かりました!」智也はグラスの酒を一気にあおると立ち上がり、笑みを浮かべたままダンスフロアにいる絵里香のもとへ向かった。
智也は絵里香に目を向けた。さっきまで私に向けていた冷たさは消え、絵里香を見る目には優しさがにじんでいた。「ふん!」絵里香は唇を尖らせた。「もう、智也ったら。わざと私を焦らすなんて、そんな駆け引きまで覚えたの?本当に言うことを聞かなくなったのかと思ったじゃない」「そんなわけないだろ?」智也は絵里香の鼻先を軽くつついた。「シャワールームにはカメラがないからな。やっぱり絵里香の言うとおりにしてよかったよ」「ふん、当たり前でしょ!今回は許してあげる。でも……」絵里香はちらりと私を見た。「千尋さんには、まだ謝ってもらってないんだけど」「千尋」智也は冷たい目で私を見下ろした。「謝れ」私は奥歯を強く噛みしめた。その拍子に頬の内側を噛み、口の中に血の味が広がった。「何?聞こえなかった」絵里香が私の前にしゃがみ込んだ。次の瞬間、私は血の混じった唾をその顔に吐きつけた。「きゃあ!」絵里香の真っ白なドレスに血が飛び散り、赤い染みが広がった。「汚い!気持ち悪い!」「千尋!」智也は私の顎を乱暴につかんだ。「俺は謝れって言ったんだ!絵里香を余計に怒らせてどうする!どうして少しは言うことを聞けないんだ!」「言うことを聞けって?」私は歯を食いしばったまま、唇を歪めた。「私は何も悪くない!どうして私が言うことを聞かなきゃいけないの!」智也は怒りで顔を歪めた。けれど、やがてその表情はすっと消え、冷たい目で私を見下ろした。「そこまで意地を張るなら、もういい」突然、腕を乱暴につかまれ、そのまま引き起こされた。智也は私の腕をつかんだまま、驚いて足を止める人々の間を、私を引きずるように進んでいった。周囲からは、好き勝手な声が飛んできた。「何あれ?裸のまま出てきたの?」「よくあんな格好で人前に出られるよな」「女なら、もう少し恥じらいを持ちなよ。うちの娘があんな真似したら、家から叩き出すわ!」「おい、いいケツしてるぞ。もっとちゃんと撮れよ。ブレブレじゃねえか!」「智也!」私は必死に腕を振りほどこうとしたが、智也の手にはさらに力がこもり、手首にくっきりと赤い痕が残った。「放して!何するつもりなの!」ホテルの中には宿泊客しかおらず、人もそれほど多くなかった。けれど
「本当に別れたって言ってるでしょ!何度言えば分かるの?そんなに信じられないなら、みんなの前でもう一度言う。私と智也は、もう別れたの!」智也の笑顔が固まった。そのとき、誰かがぷっと吹き出した。「なあ、これ、今度こそ本気だと思う? それとも、またすぐ元に戻ると思う?」「どうせまた元に戻るだろ。俺はそっちに1000円賭ける」「じゃあ俺は2000円!」「俺、20万円!」「おいおい、正気か?」「何だよ。まさか本当に別れると思ってんの?」「……それもそうだな。じゃあ俺も、元に戻るほうに200万円」「ちょっと待てよ。全員そっちに賭けたら、賭けにならないだろ!誰か本当に別れるほうに賭けろよ!」絵里香が手を挙げた。「じゃあ私が、本当に別れるほうに2000万円賭ける」「はははははっ!」嘲るような視線が一斉に私へ向けられ、耳障りな笑い声が辺りに響いた。私は黙って拳を握った。再びエレベーターの扉が開き、私はそのまま乗り込んだ。「あっ、千尋さん、待って!」扉が閉まる寸前、絵里香が駆け寄ってきて、私の腕をつかんで外へ引っ張った。そのせいで半身を扉に挟まれ、直後、エレベーターが轟音とともにガクンと下がった。私は数歩よろめき、その場に尻もちをついた。エレベーターは、階と階の間で止まっていた。あと少しでも反応が遅れていたら――そう考えただけで、背筋が凍った。パンッ!私は絵里香の腕をつかみ、その勢いのまま頬を思いきり叩いた。「自分が何をしたか分かってるの!」「絵里香!」智也は顔色を変えて駆け寄り、絵里香を抱き止めた。「絵里香……」震える声で名前を呼びながら、智也は指の腹で絵里香の頬をそっとなぞった。やがて顔を上げた智也の目には、見たこともない冷たさと、押し殺した憎しみが滲んでいた。こんな智也を見るのは初めてだった。絵里香は、智也にとってそこまで大切な存在だったの?あんな危険なことをしたのは絵里香なのに、たった一度頬を叩かれただけで、私をここまで憎むほどに?「千尋……」智也の声は、低く冷え切っていた。その声を合図にしたように、周りにいた共通の友人たちがじりじりと距離を詰め、私を取り囲んだ。見回すと、ほとんどが男で、中には肩幅だけでも私の倍はありそうな大男