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第0001話
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目黒様に囚われた新婚妻 第0518話
隼人がただじっと彼女を見つめ、手を放そうとしなかった。瑠璃は不満げに眉を寄せ、力いっぱい彼を押し返そうとした。だが、彼の腕に手が触れた瞬間、隼人は突然うめくように低く呻いた。その眉がきりりと吊り上がる。――そうだった、彼の腕にはまだ傷があったのだ。どうすべきか迷っていたその時、君秋が部屋にやって来た。ぱちぱちと瞬く大きな瞳で、目の前の二人を見上げ、小さな眉をひそめて首をかしげた。「パパ、ママ……何してるの？」「……」瑠璃は呆れて隼人を見やり、すぐに笑みを浮かべて言った。「君ちゃん、ママと一緒に寝に行こうか？」だが、君秋は小さく首を振った。「今日は、パパのほうがママと一緒に寝なきゃダメだと思うよ。君ちゃんはひとりで寝られるもん！」「……」瑠璃は返す言葉もなかった。隼人はかがんで、可愛らしい子の頭を優しく撫でた。「君ちゃんは優しいね。安心して、ママはちゃんとパパのそばにいてくれるよ。これからずっと一緒だ」「隼人……」瑠璃は彼を睨みつけた。だが隼人は、どこかいたずらっぽい笑顔を浮かべて返した。「ねえ、瑠璃、お風呂入って早く寝ようよ。うちの息子が心配しないようにさ」「……」結局、君秋の手前、瑠璃はそのまま泊まることにした。隼人は潔くベッドを譲り、自分はソファへと身を横たえた。深夜――瑠璃は眠れず、ただ静かにベッドに横たわっていた。目を閉じても、隼人と結婚していた頃の記憶が脳裏に浮かぶ。とりわけ、このベッドの上で彼に無理やり抱かれた夜の記憶は、いまだに鮮明だった。何事もなく一夜が明け、朝早く、瑠璃は起きて君秋の朝食を作りにキッチンへ向かった。ふと目に入ったテレビでは、昨夜の事件がニュースで報じられていた。華と弥助が誘拐を企てたものの、自ら火の中へ飛び込む形となり、結果――全身の70％を超える重度の火傷を負った。もはや元の姿には戻れず、これからの人生は獄中で終えるしかない。瑠璃がそのニュースを見ていると、階段から足音が聞こえた。振り向くと、隼人がアイボリーのニットを着て階下へ降りてくるところだった。朝日を受けた彼の横顔はとても穏やかで、眩しいほどだった。目が合った瞬間、彼は口元に微笑を浮かべた。「千璃ちゃん、あの時のことを覚えてる？お前がどうし
目黒様に囚われた新婚妻 第0517話
瑠璃は不満そうに目を上げたが、思いがけず隼人がすぐ目の前に迫っていた。彼の息がほんのりと彼女の頬を撫で、整った顔立ちが穏やかに視界に映り込んできた。心臓が、一拍だけ速く跳ねた。彼の顔色が本当に悪く、力もない様子に見えたため、瑠璃は熱を帯びた頬をそっとそらしつつも、彼を拒まなかった。彼女は君秋の小さな手を取り、柔らかく語りかけた。「君ちゃん、ママと一緒に帰りましょう」「うん！帰る！パパとママと一緒におうちに帰る！」君秋は大きな目を輝かせ、元気にうなずいた。隼人は瑠璃の温もりを感じながら、白い唇の端にほっとした微笑みを浮かべた。邸宅に戻ると、瑠璃は隼人を支えながら部屋へと連れて行った。ベッドに彼を座らせると、彼女はすぐさま踵を返した。「千璃ちゃん……」彼の低く静かな声が、窓の外の夜風のように彼女の耳に届いた。「行かないでくれ」瑠璃は足を止め、振り返って彼の目を見た。そこには、切実な願いが込められていた。だが彼女の表情は淡々としていた。「隼人。あなたを病院に連れて行って、また家まで送ったのは……あなたに未練があるからじゃない。ただ……もうあなたと何の因縁も残したくなかったからよ」隼人の目から、瞬時に光が消えた。これが、かつて自分が瑠璃に与えた痛みだったのか。その一言は、彼の心を容赦なく打ち砕いた。言葉にならない後悔と苦しみが、胸を焼いた。彼は静かに目を伏せ、唇に自嘲の笑みを浮かべた。瑠璃はもう一度背を向け、ちょうどそのときスマートフォンが震えた。今回は――瞬からだった。通話を繋ぐと、先ほどまでの冷たい声色とは違い、彼女の顔にはわずかな笑みが浮かんだ。「瞬、大丈夫よ。心配しないで。君ちゃんが寝たら、すぐ戻るわ」その会話を聞いていた隼人の胸の奥に、燃え上がるような独占欲が湧き上がった。彼女が部屋を出ようとしたとき――隼人はついに動いた。背後から足音が迫り、瑠璃が振り返った瞬間、目の前に彼の険しい表情が急に迫ってきた。一瞬の驚きで動けず、後ろへ下がった彼女の背が壁にぶつかった。「ドンッ」隼人の手が壁につき、彼女を閉じ込めるように囲い込んだ。「行かせない」その声は低く、命令のようだった。深く鋭い目からの独占欲が、彼女の瞳をまっすぐに見据えていた。瑠璃は反発す
目黒様に囚われた新婚妻 第0516話
しかし、隼人が動き出そうとしたその瞬間――華が彼の腕をがっちりと掴んだ。「誰も逃がさない！みんな一緒に死んでもらうわよ！！私と一緒に地獄に行きなさいよおおおっ！！」窓の外では、君秋がその様子を見ていて、怒りに顔を真っ赤にした。「悪い人！パパを離して！」彼は手にしていたリンゴを思い切り投げた。リンゴは正確に華の顔面に命中し、「いったっ！」と叫びながら、彼女は反射的に手を離して顔を押さえた。「隼人、今よ！」瑠璃が彼の手を強く引きながら叫んだ。華が再び動こうとするのを見て、瑠璃はわざと声を上げ、注意を逸らした。「スーツケースの暗証番号は六つの6よ！でも残念ね、もうすぐその10億も燃えて灰になるわ！」「……な、なに！？」華は一瞬動きを止めた。床に座り込んでいた弥助が目を輝かせたようにスーツケースに駆け寄り、急いで「666666」と入力。「カチッ」という音と共に、スーツケースは開いた。しかし――「こ、これは……10億って？」中身を見た弥助は、唖然としてその場に凍りついた。華も急いで駆け寄ってスーツケースを覗き込んだが、目に映ったのは、ただの白紙――大量のA4用紙だった。「瑠璃！！このアマ、よくも……」怒りに震えながら華が叫んだその時、彼女は窓の向こうに、隼人が無事外へ脱出したのを見た。すでに部屋は炎に包まれ、華と弥助の周囲は火の海となっていた。熱風と有毒な煙に包まれながら、華はようやく恐怖を感じ始めた。逃げようと窓に向かうが、すでに炎は窓枠にまで及んでいた。二人の身体は完全に炎の中に閉じ込められた――その頃、隼人が外に出た瞬間、瑠璃はすぐさま救急車と消防車を呼んでいた。華と弥助は確かに極悪非道で、罪に問われて当然だったが、瑠璃は彼らを本当に焼き殺すつもりではなかった。ただ、法律の裁きを受けてほしかっただけだった。やがて消防車が到着し、炎が鎮火される頃、華と弥助は焼けただれた状態で担架に運ばれてきた。彼らの服も髪も焼き尽くされ、誰もが目を背けたくなるような姿だった。隼人はとっさに手を伸ばして、瑠璃と君秋の視界を遮った。医療スタッフが彼の負傷した手に気づき、駆け寄った。「手からかなり出血しています。すぐに手当てを受けたほうが……」隼人は苦笑して、さらりと答え
目黒様に囚われた新婚妻 第0515話
隼人は華の意図を一瞬で見抜いた。彼はすぐに瑠璃の肩を抱き寄せ、ドアへ向かって叫んだ。「早く行くぞ！」この場に及んで、瑠璃も君秋をとにかく安全な場所へ連れて行きたかった。そのため、隼人の言葉に従ってその場を離れようとした。だが――閉じた木の扉は、何かに引っかかってしまっていた。いくら取っ手を回しても、鍵が開かない。「全員、地獄へ落ちろ！！」華の狂気じみた叫びが響いた。隼人が振り返ると、華がガソリンの入ったポリタンクを持ち上げていた。彼らめがけて思いきりぶちまけてきたのだ。隼人はとっさに瑠璃と君秋をかばい、横へと跳ね退いた。ガソリンは扉一面に降り注ぎ、空気が一気に張り詰めた。「はははははっ……」華の高笑いがこだました。「瑠璃、このアマ……今度こそ燃え尽きろ！」隼人の目には、銀色の怒りが浮かんだ。その瞬間、彼の中では華に対する一切の慈悲が消え去っていた。だが今は、それよりも――瑠璃と君秋を無事にここから出すことが最優先だった。華が狂ったようにガソリンを撒き散らす一方で、弥助は床にうずくまり、何もできずに震えていた。隼人は素早く瑠璃の肩を抱いて、部屋の窓際まで引っ張った。「こんな奴らの相手をしてる暇はない。窓から出るぞ」彼の口調は強く、ためらいがなかった。すぐに窓を開けようとしたが、古びた窓枠は錆びついていて、鍵も固まっていた。隼人は一切迷わず、拳を振り上げ――「ガシャン！」一撃でガラスを砕いた。その拍子に彼の拳は割れたガラス片で切り裂かれ、いくつもの傷口から血が滴り落ちた。だが彼は痛みをまるで感じていないように、割れたガラスをすべて手で払い落とした。瑠璃が安全に通れるように――ただそれだけのために。「千璃ちゃん、お前が先に出て。君ちゃんはあとで俺が渡す」そう言う隼人の顔には、普段にはない焦りの色が浮かんでいた。その言葉が終わるか終わらないかのうちに、華が突然ライターを取り出した。火をつけると、ためらうことなく、ガソリンで濡れたドアに向かって放り投げた。火種はガソリンの筋をたどって一瞬で燃え広がり、あっという間に部屋全体が炎に包まれた。燃え上がる炎は容赦なく空間を舐め回し、ツンとした臭いと、パチパチと弾ける音が充満する。一刻を争う中、隼人は即座に瑠璃の
目黒様に囚われた新婚妻 第0514話
君秋はコクンと頷き、リンゴを片手に小さな足で駆け出した。瑠璃は安堵の笑みを浮かべ、両腕を広げて迎えた。「君ちゃん、ママのところにおいで」「ママ〜！」君秋はかわいらしい声でそう呼びながら、彼女の胸に飛び込もうと走り出した。もうすぐ彼女の元にたどり着く――その瞬間だった。計画がすべて崩れたと悟った華の目に、突如として恐ろしい光が宿った。次の瞬間、華はテーブルの上に置かれていたナイフをつかみ、狂ったような表情で瑠璃に向かって突進した。「瑠璃！このアマが！！死ねぇぇぇぇっ！」悪意に満ちた叫び声とともに、刃を振り上げた――だが、その刃が瑠璃に届く前に。「ドンッ！」隼人の鋭い蹴りが華の体を吹き飛ばした。「ぐはっ！」華は地面に叩きつけられ、ナイフは「カラン」と床に転がった。それでも華は這うようにナイフを取りに行こうとしたが――その手がナイフに届く直前、隼人の足が彼女の手を踏みつけた。「ぎゃあああっ！！」激痛に悲鳴を上げる華。隼人の目は氷のように冷たく、鋭い視線で華と弥助を見下ろしていた。その姿はまるで王のように、場の全てを支配していた。「千璃ちゃんはお前たちに、すでに一度チャンスを与えた。だが、それすら踏みにじった。ならば……牢の中で娘と共に、最後の家族の時間でも楽しむといい」その冷徹な声は、まるで頭から冷水を浴びせられたかのように、華と弥助の背筋を凍らせた。もう逃げ道はない――その事実が、二人を完全に支配していた。その時、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。隼人はすでに、瑠璃のあとを追いながら警察に通報していたのだ。だが華と弥助にとって、その音はもはや死の鐘でしかなかった。瑠璃が君秋を抱き、隼人の庇護のもと去ろうとするその姿――まるで理想の家族のような光景が、華の心に嫉妬の炎を燃え上がらせた。「待てぇぇぇ！！」華は突然立ち上がり、全力で玄関へ走った。「ドン！」と、壊れかけのドアを乱暴に閉め、自らその前に立ちはだかった。隼人はすぐさま瑠璃を背後にかばいながら、低く鋭く言った。「どけ」「誰も出させないわ！！今日は……あんたたちを道連れにしてやる！！」華の顔は醜く歪み、歯を食いしばっていた。「ねぇ、あなた！今日で終わりよ！どうせ娘は死ぬし、私たちも
目黒様に囚われた新婚妻 第0513話
男は振り返り、その細く美しい瞳にふっと笑みを浮かべた。「……俺のこと、心配してるのか？」「……」瑠璃は慌てて彼の手を離した。「心配なんかじゃない。私は……君ちゃんに傷がつくのが嫌なだけよ」「安心してくれ。俺は絶対に、息子に何もさせない」隼人は真剣な目でそう誓い、突然、瑠璃の手を優しく握りしめた。「千璃ちゃん……車に戻って待っててくれ。君ちゃんは、俺が必ず無事に連れてくる」なぜか、その言葉に瑠璃の胸が少しだけざわめいた。そのまま隼人は、軽く彼女の背を押した。「早く戻って」彼の目は誠実そのもので、語調も穏やかだった。だが瑠璃の心は動かなかった。「隼人、私はあなたに借りなんか作りたくない。君ちゃんは私の子よ。自分の手で助ける」その一言で、隼人の瞳から光が失われた。「俺に何も借りなんかない。あるのは俺の方だ。どれだけお前が否定しても、君ちゃんは俺たち二人の子供だという事実は変わらない」そう言うと彼は強引に瑠璃の手を取り、路地裏に停めた車のところまで連れていった。瑠璃は抵抗できなかった。無理に動けば、弥助や華に気づかれる可能性があったからだ。「ここで待ってろ。絶対に近づくな」隼人は強くも静かな口調でそう命じた。瑠璃が思わず反論しようとしたそのとき、彼女のスマホが振動した。――華からの電話だった。予想通りだった。スーツケースには暗証番号のロックがかかっている。華たちは開けられず、彼女に連絡してきたのだ。隼人は本来、すぐにでも行動に移すつもりだった。だが、そのとき電話の向こうから華の声が聞こえてきた――「瑠璃、ふざけた真似をしてくれたわね！暗証番号は何なのよ、さっさと教えなさい！」瑠璃は冷静に返した。「私が君ちゃんに会えない限り、あんたたちは一銭も手にできないわ」「このっ……」華は怒りに震えながら叫び返した。「いいわよ、そこまで会いたいなら、今すぐ場所を送ってやる！」しかしそのとき、瑠璃は小さく笑った。「もう着いてるわ」「……」華が言葉を失った瞬間、「バンッ！！」と、木の扉が派手に蹴り開けられた。スーツケースの暗証番号をいじっていた弥助は、飛び上がるように後退りし、その姿を目にした瞬間、隼人の姿に恐怖で蒼白になり、尻餅をついて地面に座り込んだ
