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真夏に消える彼
真夏に消える彼
Author: シシリン

第1話

Author: シシリン
動画の中で、男の子はスタンプで顔を隠された男の肩車をしてもらっていた。

「パパ、たかいたかいして!」

「よし、パパが優太をたかいたかいしてやるぞ」

夏央の声だった。

7年も愛し合ってきたのだ。聞き間違えるはずがない。

コメント欄には、羨ましそうな質問が寄せられていた。

【何年経ってもこんなに幸せそうだなんて、一体どうやったら愛を長続きさせるんですか?コツを教えてください!】

米村花奈(よねむら はな)はこう返信していた。

【秘訣は、お互い10か月間それぞれのことに忙しくして、残りの2か月を二人で思いきり愛し合うことかな】

窓から差し込むまぶしい陽射しが、スマホの画面に反射していた。

私は全身から血の気が引いていくのを感じた。

夏央と付き合って7年。

彼はいつも忙しいと言っていた。

会議に追われ、出張に飛び回り、二人の未来のために必死で働いているのだと。

記念日のデートが取りやめになるのは当たり前で、私の誕生日でさえ、どうにか時間をつくって一緒に昼食を取るのが精いっぱいだった。

私だって、不満を口にしたことはある。

「一日くらい、休みを取れないの?」

すると彼は困ったように言った。

「もう子供じゃないんだ。デートより大事なことだってあるだろ」

けれど、本当は休みがなかったわけではない。

彼の休暇が、私のためのものではなかっただけだ。

私は花奈のプロフィール画面を開いた。

丸5年間。

毎年7月と8月になると、一日も欠かさず投稿が更新されていた。

動画の中で、夏央は男の子に絵本を読み聞かせ、一緒にレゴを組み立て、泣いて駄々をこねれば、不器用な手つきで抱き上げてあやしていた。

花奈のカメラに映る彼は、非の打ちどころのない夫であり、父親だった。

私は投稿を一つずつ遡っていった。

そして、昨年7月に投稿された動画にたどり着いた。

位置情報は、南の島。

夏央は男の子を抱きかかえ、打ち寄せる波の中で楽しそうに笑っていた。

花奈は、こんな言葉を添えていた。

【あなたたちと一緒なら、どこにいても最高の夏】

投稿日は7月10日。

その日、制御を失ったトラックが、私の車に正面から突っ込んだ。

車体は大きくひしゃげ、私は肋骨を折る大ケガを負った。

さらに複数の臓器が損傷し、内出血を起こしていた。

病院は何度も彼に連絡を取り、合計47回も電話をかけたが、ただの一度もつながらなかった。

私は丸2か月間病院に入院し、その間に何度も生死の境をさまよった。

夏央がようやく現れたのは、9月になってからだった。

彼は私の手を握り、申し訳なさそうな目で言った。

「小暖(こはる)、すまない。あのプロジェクトは本当に重要で、どうしても抜けられなかったんだ」

私は、どうにもならなかったという彼の事情をすべて理解し、受け入れた。

けれど今、その「どうしても抜けられなかった」という言葉が、画面に映る南の島の陽射しと、男の子を抱いて無邪気に笑う彼の声に重なった。

突然、胃がぎゅっと引きつり、吐き気とともに酸っぱいものが喉元までせり上がってきた。

私はトイレに駆け込み、便器にしがみつくようにして何度もえずいた。

そこへ母から電話がかかってきた。

「小暖、さっき送ってきた、縁談を受けるっていうメッセージ、本当なの?」

電話の向こうから、隠しきれない喜びが伝わってきた。

「やっと気持ちを切り替えてくれたのね。よかったわ。そういえば、あの子とはあなたも小さい頃に会ったことがあるのよ。来週帰国するから、私が二人の顔合わせをセッティングするわね。お互いに問題がなければ、そのまま婚約を進めましょう」

母は昔から夏央を気に入っていなかった。

普通の家の子なのに野心ばかりが強く、結婚相手にはふさわしくないと思っていたのだ。

私は彼のために、何度となく家族に反抗した。

勘当される覚悟で親に歯向かったことさえある。

今になって思えば、あのとき交わした激しい言葉の一つ一つが、痛烈な平手打ちとなって私の頬を打ち据えているようだった。

ひりつくほど、痛かった。

電話を切ると、私は南の島行きの最も早い便を予約した。

――夏央。

あなたがどうしてもこちらへ飛んで帰れないというのなら、私のほうから、あなたの夏をこの目で確かめに行く。

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