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第10話

Auteur: 匿名
冬翔は一歩下がって、信じられないとばかりに首を横に振った。

そんなはずがない。

たしかに、二ヶ月前に柚希のプロポーズを受けた時ーー柚希の顔には、隠しきれないほどのよろこびがにじんでいた。

それなのに、どうして柚希から結婚式を取りやめるなんてことがあるんだ?

まわりにいた友人や家族も、何が起きたのか分からず戸惑っていた。

みんなちゃんと日取りは覚えていた。間違ってるはずがない。なのに、どうして「式が中止になった」なんて話になっているんだ?

冬翔の母はスタッフに何度もたずねた末、たしかに柚希のほうからキャンセルの連絡があったと聞き、怒りを抑えきれずに冬翔の腕をぐっとつかんでロビーのすみに連れて行った。

「どういうこと?結婚式の日取りなんて、とっくに決まってたよね?それなのに彼女、今日来てないどころか、半月も前に式を取り消してたって……いったい何を考えてるの?」

冬翔の顔を見て、冬翔の母もまた驚いているのを感じ取った。まるで今、はじめてこの事実を知ったかのような様子。それがまた、怒りに火をつけた。

冬翔の母は、柚希と冬翔が二十年の付き合いであることもよく知っていたし、柚希が冬翔のことをどれだけ大事に思っていたかも、ずっと見てきた。だからこそ、この嫁にはそれなりに満足していた。

まさか、結婚式当日に花嫁が現れないどころか、半月も前に式そのものを取りやめていたなんてーー。

それを、誰ひとり知らなかったなんて!

「今すぐ柚希に電話しなさい!まだ結婚する気があるのかどうか、はっきりさせて」

母の勢いに押されるようにして、冬翔はようやく現実に引き戻され、慌ててスマホを取り出した。

ふるえる指先で柚希の番号を押し、通話のボタンをタップする。

けれどその時ーー柚希はすでに、京市へ向かう便に乗っていた。柚希の電話は、もうつながらなかった。

スピーカーから流れてきたのは、つめたい機械の音だけだった。

冬翔の胸の中は、しだいに沈んでいった。

昨日までは何の問題もなかったのに、どうして今日に限って急に、連絡が取れなくなるんだ?

冬翔はもういてもたってもいられず、急いで家へ戻った。心のどこかで、まだほんの少しだけ希望を抱いていた。

だが、玄関のドアを開けた瞬間、部屋の中はしんと静まり返っていて、誰もいないことがすぐに分かった。

その時、彼はふと気づいた。
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