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第4話

作者: 夢静か
賢斗が辛いものを苦手なことくらい、私が一番よく知っている。

彼に嫁いだあの日から5年間、私はずっと彼の舌に合わせて、かつて自分が好きだった刺激的な料理を封印し、あっさりとした優しい味付けに変えてきたのだから。

けれど今日はどういうわけか、まるで自分の中の何かに導かれるかのように、食卓を辛い料理ばかりで埋め尽くしてしまっていた。

賢斗が冷ややかな一瞥をこちらへ向けると、玲那のすぐ隣の椅子に腰を下ろした。

口いっぱいに頬張る彼女を見て、彼はテーブルの上のティッシュを1枚手に取り、いかにも慣れた手つきで汚れた口元を優しく拭ってやった。

「そんなに慌てないで、ゆっくり食べろ。お腹……」

そこまで言ってから無意識の失言に気づいたのか、賢斗はふと私の方に目をやり、慌てて残りの言葉を飲み込んだ。

玲那はその言葉を聞くと、まるで条件反射のように、お腹を庇うようにそっと手を添えた。そして賢斗に向かって舌をぺろりと出し、小さく甘えるように呟く。

「先生が言ってくれないと、つい忘れちゃうところでした。さすが先生、とっても優しいんだから」

ふたりは声を潜めて話していたが、その内容はしっかりと私の耳に届いていた。

玲那がお腹に添えたその手に視線を移した時、私は初めてある事実に気がついた。

ピンクのワンピースの下、彼女の腹部はわずかに妊婦特有の膨らみを見せていた。それは明らかに、妊娠して数ヶ月が経っていると分かる膨らみだった。

思わず、息を呑む。

玲那が、妊娠していた?

「奥さん」

私の思考を遮るように、玲那が口を開いた。箸を置き、いかにも申し訳なさそうな顔をする。

「私が悪いんです。せっかく妊娠してるのに、こんなに辛いものなんて食べちゃって。赤ちゃんに良くないですよね」

頭の中で、張り詰めていた糸がぷつりと音を立てて切れた。ありえないと思いながらも、すべての辻褄が合う考えが、脳裏に浮かび上がった。

玲那は口元に微かな笑みを浮かべ、得意げな光を宿した瞳で、私を見つめていた。

箸を握る手に力を込め、まっすぐに彼女の瞳を見据える。

「……そのお腹の子は、賢斗の子なの?」

込み上げる感情を無理やり抑え込み、できる限り平坦な声でそう尋ねた。

彼女の肩が明らかに強張った。まるで不意打ちで突きつけられたかのように、言葉を失っていた。

椅子に座っていた賢斗が、勢いよく立ち上がった。激しい怒りに満ちた険しい表情で、こちらを睨みつけてきた。

「なつめ、それはどういう意味だ!」

茶碗のご飯を箸でつつきながら、私は何でもないふりをしていた。けれど胸の奥では、激しい憎しみが渦巻いていた。

その瞬間、はっきりと悟ったのだ。賢斗もしょせん、こんなものだったのだと。表面は輝いていても、中身は腐りきっていた。根っこの部分は、いつからかとうに腐り果てていたのだ。

長年連れ添った夫婦なのだ、彼のこんな下手な演技くらい見抜けないはずがなかった。

きっと本人すら気づいていないのだろうが、嘘をつく時、彼の視線はいつも必ず不自然に泳ぐのだ。今のように、どれほど怒りを装ってみせたとしても。

「そんな。奥さん、考えすぎですよ。私と賢斗さんの間には、本当に何もありませんから!」

そう言いながら、彼女は困り顔を作り、目元をほんのりと赤く染めて、声を細かく震わせ始めた。

「全部私が悪いんですよね……私が今日お邪魔しなければ、奥さんがこんな誤解をすることもなかったのに」

玲那は今にも泣き出しそうな顔で、賢斗の袖をつかんだ。

「賢斗さん、お願い……先に送ってくださいっ。私が悪かったですから」

賢斗はなかなか動こうとしなかった。激しい呼吸で胸を上下させながら、その鋭い視線だけは確かに私に注がれていた。

私は静かに微笑み、手元の箸を置いた。

私は後悔の色など一片も見せず、まっすぐに彼を見つめる。

「ねえ賢斗。賭けをしない?」
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