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第795話

Author: 栄子
誠也はあまり眠気はなかったが、綾がしっかり休めるように、昼休憩の間中、同じ体勢を保っていた。

2時になると、スマホのアラームが鳴った。

綾が目を覚ました。

目を開けると、誠也がじっと自分を見つめていることに気づいた。

彼女は少し間を置いてから尋ねた。「寝てなかったの?」

「眠くない」昨夜一睡もしていない誠也は、本当は疲れていた。しかし、綾を抱きしめていると、心がうずうずして、どうにも眠れなかった。

「2時半から会議があるから、起きないと」

誠也は彼女を解放した。

綾は起き上がり、洗面所へ顔を洗いに行った。

洗面所にも、化粧品セットが置いてあった。

顔を洗って軽く化粧をした綾は、すっかり元気を取り戻した。

誠也はドア枠に寄りかかって彼女を見ていた。

仕事中の綾からは、どこか冷ややかな雰囲気が漂っていた。

歳月とともに、彼女は着実に成長していた。しかし、成長した綾は、どこか他人行儀な部分も出てきたように思えた。

彼女の心には壁があるようで、彼女が望めば、誰であろうとシャットアウトできるようだった。

誠也は胸が少し締め付けられるような気がして、思わず彼女に尋ねた。「綾、今の状況に満足しているのか?」

口紅を塗っていた綾は、彼の言葉を聞いて振り返った。「どういう意味?」

「仕事のことだ」

「仕事には満足しているの」綾は言った。「以前、アトリエを経営していた時も楽しかったけれど、輝星エンターテイメントは、私の人生に新たな経験を与えてくれた。骨董品修復は過去を追い求め、歴史の足取りをたどる仕事。

それは、私を過去に浸らせるけど輝星エンターテイメントでは、新しいものを創造することを学んだ。映画の製作でも、タレントの育成でも、私にとって、プロジェクトが成功する度新たな成果へと導いてくれているの。この感覚がとても気に入っている」

彼女の言葉を聞いて、誠也は自分が当初下した決断は正しかったのだと、改めて確信した。

彼は唇の端を上げて、優しく落ち着いた声で言った。「お前が幸せなら、それでいい」

口紅を塗り終えた綾は、彼のところへ歩み寄り、襟を直してあげた。

そして、ふと顔を上げて誠也を見つめた。「あなたは?今の状況に満足しているの?」

誠也は熱っぽい視線で彼女を見つめ返した。「ああ」

「今のあなたは、自分の会社を持っていない。栄光グループ
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とろん
え?まだ何かあるの?
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