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第79話

Author: 栄子
足音が遠ざかると、遥はホッとして、小さく息を吐いた。

誠也はドアを見つめ、険しい顔をしていた。

遥は誠也を見上げたが、その表情からは何を考えているのかは分からなかった。

「誠也?」

誠也は我に返り、遥を見た。

「二宮さんも焦る気持ちから、つい強い口調になってしまっただけよ。気にしなくていいわ」遥は優しく言った。「入江おばさんが早く見つかるといいな。もうすぐお正月なのに......」

「昨日、お前は入江さんと、本当に何も話してないのか?」

誠也は遥の言葉を遮り、鋭い視線で彼女をじっと見つめた。

遥は、彼の視線にドキッとした。「誠也、私のことを疑っているの?」

誠也は目を細め、遥の顔を見ながら冷たく言い放った。「質問に答えろ。彼女に、何か言ったのか?」

「私......」遥は一歩後ずさりし、動揺を隠せなかった。

誠也は弁護士で、心理学も学んでいた。

遥は、この状況で嘘をつき通すのは無理だと分かっていた。誠也がこんな風に聞くということは、すでに自分を疑っているのだ。

もし嘘を突き通せば、誠也は、今後、自分のことを警戒するようになるだろう。

遥は目に涙を浮かべて言った。「ごめん。入江おばさんに、悠人の本当の母親は誰なのかって聞かれて......私、嘘がつけなかったんだ」

誠也の顔が曇った。「遥、帰国前に悠人のことは誰にも言わないと約束したはずだ」

遥は言葉を失った。

「悠人のことだけは、譲れない」誠也は冷たく言った。「今回ばかりは、お前が悪い。帰れ」

遥は青白い顔で首を横に振り、「ごめん、誠也。わざと言ったわけじゃない。入江おばさんがしつこく聞いてきたの。悠人の前で余計なことを言われたら困ると思って、つい......」と言った。

「とにかく、帰れ」誠也は背を向け、窓辺へと歩いて行った。

これ以上、彼女の言い訳を聞きたくなかった。

遥は唇を噛み締め、彼の後ろ姿を見つめながら、

涙を流していたが、しばらくして遥は部屋を出て行こうとした。

ドアの前まで来たところで、遥は気を失って倒れた。

「桜井さん!」

清彦が駆け寄り、「社長、桜井さんが倒れました!」と言った。

誠也は動きを止め、急いで遥のそばに行くと、彼女を抱き上げた。

「車を出せ。病院へ行く」

......

遥は、緊急処置の後、無事に意識を取り戻し、病室に移された。

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Comments (2)
goodnovel comment avatar
Miho
そうです。頭に異常があるんです。
goodnovel comment avatar
Miho
いちいち三文芝居しやがって
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