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10話. 家族だからと、隠しません

مؤلف: YuIm
last update تاريخ النشر: 2026-10-08 22:16:19

運用担当者からの返事は、短かった。

二件は設置前のキャンセル、一件は日程調整中。残りの一件は、体験を終えているが、回収が遅れている。

千尋は、四行のうち、最後の行の色を消した。顧客の不便はまだ残っているが、体験完了の件数が間違っているという根拠にはならなかった。残る三行に、確認した担当者と返信の日付を書き込んだ。

颯太が画面を見て、尋ねた。

「では、二十件のうち三件が、間違っていたんですね?」

「このサンプルでは、そうです。全体がこの割合という意味ではありません」

「パーセントにしては、駄目なんですよね?」

「計算はできても、今、報告する数字ではありません。全体を確認しないと」

千尋は自分にも、同じことを言っていた。叔父の会社だからと小さく扱うことも、これまでのわだかまりから、大きく扱うことも、やめよう。

業者の報告書で請求基準を探すと、『体験完了一件につき、一万円』という文言があった。請求件数の総数は、三千件だった。千尋は、三千万円と記された合計欄を、しばらく見つめた。今、確認した三件を、全体の誤りにまで広げて読むべきではなかった。

合計欄には、印を付けなかった。代わりに、『完了の基準について確認依頼』というメモを添えた。

大野が資料を受け取った。

「よくできたね。昨日、四件と言ったからって、無理に四件に合わせなくていい」

「回収の遅れは、案内改善案に、別途反映するつもりです」

「そうして。実績の誤りを確認することと、顧客の問題を改善することは、並行して進めていいけれど、ファイルは分けておいて」

隣から高橋が手を出した。

「運用側の担当者には、僕が電話するよ。キャンセルの情報が、いつ伝わったかも確認したいから」

千尋は資料を渡した。仕事を説明してから、人に任せることにも、勇気が必要だった。すべて自分で握っていなければ、という癖が、先に手首を引いたが、今回はペンを置いた。

昼過ぎ、星友プランニングから返信が来た。募集キャンペーンと、実際の運用システムでは基準となる時点が違うため、一部に差が生じ得る、という内容だった。完了基準への質問には、明確な答えがなかった。

大野は千尋を呼び、一緒にメールを読んだ。

「基準時点が違う、という説明だけでは、終わらせられないね。報告書を提出する前に、キャンセルされたものもあるから」

「はい。キャンセル日と提出日を、並べてあります」

「追加の元資料は、私から依頼する。あなたは、この件で叔父さんに個人的に連絡しないでね」

千尋は、すぐには答えられなかった。大野は書類を置いた。

「あなたが気まずいから、という意味ではなくて、会社がすべき質問を、姪としてしないでほしい、ということ」

その言葉で、まだ名前を付けられなかった不安が、整理された。叔父に電話したら、公的な質問も、いつでも、生意気な姪の言い掛かりに変わってしまう。

「わかりました」

「ひとまず、今日できるのは、ここまで。案内改善案は、金曜日に見ましょう」

千尋は席に戻り、修正中の画面を開いた。申し込みボタンの上に、追加の設置費用が発生する条件を入れ、完了の案内の下に、回収の申し込みリンクを付けた。顧客が知るべき情報を載せることに、誰が叔父かは関係なかった。

結衣が椅子の後ろから、身を寄せた。

「この文章、硬すぎる。『追加費用が発生する可能性』じゃなくて、『こんな場合は、設置費用が別途かかります』はどう?」

千尋は二つの文章を、並べてみた。

「いいね。条件を示すイラストも、ここに付ければいいんだ」

「ほら。結婚しても、私がいなきゃ駄目なんだから」

結衣の冗談に、千尋は笑った。一日中強張っていた顎が、ようやく緩んだ。

* * *

家に入ると、炒めた玉ねぎの匂いがした。

蓮はキッチンの調理台の前で、包装を開けていた。容器には、近くの店の名前が印刷されている。千尋が近づくと、彼が先に言った。

「自分で作ったと、言うつもりはありませんでした」

「私、まだ何も言っていませんけど」

「表情が、質問していました」

千尋は笑いながら手を洗った。広い食卓の中央に、温かい料理が二皿並んだ。一緒に夕食を食べると印を付けた日だったのに、思った以上に遅くなった。

「待っていたんですか」

「十五分ほどです」

「次は、先に食べていただいてもいいのに」

「今日は、待ちたかったんです」

千尋はグラスに水を注ぐ手を、一瞬止めた。そんな言葉を、業務報告のように淡々と言うから、かえって返事に困った。

最初、二人は食べ物の話だけをした。千尋は玉ねぎが甘いと言い、蓮は辛いソースが別添えだとは知らなかったと言った。彼がソースをすべて入れようとしたので、千尋はスプーンで半分を取り分けた。

「最初は、これくらいで。かなり辛いですよ」

彼は一口食べ、すぐに水を飲んだ。千尋は笑わないよう、唇を結んだ。

「言うとおりにして、よかったです」

彼が認めるので、結局、笑いがこぼれた。

食事が終わりかけた頃、蓮が尋ねた。

「今日は、かなり大変でしたか」

千尋はすぐに、いいえと言いかけて、箸を置いた。

「少し。家族と仕事が、重なることが見つかって」

彼の顔が真剣になった。千尋は会社の資料を出さなかった。顧客情報も、未確認の数字も、食卓へ持ち込まなかった。

「星友プランニングの資料に、確認すべき点があります。課長へ提出して、運用側と確認中です。叔父の会社だということも、伝えました」

蓮はしばらく、彼女を見ていた。

「白石主任が、直接、家族の相手をする必要はありません」

「はい。業者への連絡は、課長が引き受けてくださいました」

「必要なら、私が……」

彼は言葉を止めた。千尋は待った。

蓮は水のグラスを置いた。

「会社の経路で上がってくる資料を、確認します」

今、変わった文章を、千尋は理解した。代わりに処理すると、言うこともできたはずだ。彼が自分で止まったことが、ありがたかった。

「家では、ただ聞いてくださればいいんです」

「何を?」

「家族のことだから、目をつぶりたい気持ちが、まったくないわけではない、ということです」

千尋はナプキンの端を折った。五百万円を返した日の、叔父の顔が浮かんだ。正しいことをしたのに、恩知らずになった気がした。会社の問題まで持ち出したら、彼は何と言うだろう。

「お金は、すべて返しました。でも、助けてくれたのは事実ですよね。母も、あのときは感謝していましたし」

「はい」

蓮はその事実を、小さく扱わなかった。

「でも、設置もできなかったお客様を、体験した人にはできません。母がお金を貸してくださった方に感謝していることと、私がここで働いていることは、別なので」

千尋は折っていたナプキンを、開いて置いた。

「私の家族のことだからといって、会社の問題を、隠すわけにはいきません」

蓮の視線が、彼女の顔に留まった。

「その言葉は、私の家族にも、同じように言ってください」

千尋は顔を上げた。

「社長のご家族にも?」

「必要なことが起きれば。私も、含めて」

簡単には約束できない言葉だと、わかっていた。千尋は答える代わりに、少し長く、彼を見た。彼が視線を逸らさないので、ゆっくり頷いた。

「では、あとから怒らないでくださいね」

「腹が立つことは、あるかもしれません。それでも、白石主任の言葉が間違っているとは、限りません」

その答えが完璧だから、うれしかったのではない。怒らないと断言する代わりに、怒っても、それは区別するという言葉が、うれしかった。

千尋は空いた皿を二枚重ねた。蓮は反対側から、グラスを持った。

「これは、私がやります」

「今日の食事は、社長が用意してくださいましたよね」

「注文しただけです」

「それも、用意です」

少しのやり取りの末、千尋が皿をすすぎ、蓮が食洗機へ入れた。奥の棚に大皿が引っ掛かると、二人は同時に身をかがめた。肩が軽く触れて、離れた。

千尋は、何でもなかったように、水を止めた。

今日は、誰も自分の仕事を代わりにしていないのに、一人だった日より、疲れていなかった。

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