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第16話

作者: 連衣の水調
静華が救急室に運ばれたとき、胤道は拳を壁に叩きつけた。

指の骨から血が滲んだが、それでも彼の怒りは収まらなかった。

逃げる?また逃げるつもりか?

二年前、彼女は子供を使って自分を繋ぎ止めようとしていた。彼を見つめる瞳には愛と執着しかなかった。

それがどうして、突然変わった?

一体、何があった?

「胤道!大丈夫!?」

慌ただしく駆けつけたりんは、胤道の血の滲む手を見て、すぐさま彼の手を両手で包み込んだ。

「こんなに血が出てるのに、どうして気にしないの?一体どうしたの?」

「大したことはない」

胤道は無造作に手を引き抜き、冷淡に問い返す。

「お前がここにいるのは、どういうことだ?」

りんは、佐藤が彼に関する情報を連絡してきたとは言えなかった。

そこで適当な理由をつける。

「病院に来ていた友人が、あなたを見かけて、知らせてくれたの」

彼女は病室の中をチラリと覗き、点滴を受けている静華を見つける。

「……これは、森さんじゃない?何があったの?」

胤道はイライラを抱えたまま、まともに答える気もなく言い放つ。

「ちょっとした事故だ。俺が病院へ連れてきた」

「森さんの事故なのに、どうしてあなたが病院へ?」

りんの唇が、僅かに引きつった。

「……まさか、二人で会っていたの?」

彼女は問い詰めるような目で、胤道を見つめる。

静華はもう、以前の静華ではない。

顔は醜く爛れ、視力も失った。

普通の男なら、近寄るだけでも嫌悪感を抱くはず。

それなのに、どうして?

胤道は不機嫌そうに短く「うん」とだけ返した。

りんの目が、わずかに潤む。

「胤道……あなた、最近私と会う時間が減ったわ」

彼女は不安そうに声を落とし、彼の腕に触れる。

「森さんと会ったせい?それとも……あなたの心の中に、まだ彼女がいるの?」

心の中に、まだ彼女がいる?

この言葉が、胤道の眉を僅かに顰めさせた。

冷たい黒い瞳には、怒りの色が滲む。

「そんなこと、あるわけがない」

静華ごとき女に、彼が未練を持つなど、あり得ない。

それに、追いかけるのはいつも静華の方だった。

「じゃあ、どうして……?」

「俺が知りたいのは、子供の行方だけだ」

胤道は淡々と告げる。

「何せ俺の子供だ。当然、外に流れさせるわけにはいかない。ましてや、森が今こんな状態ではな。俺
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