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概念次元の戦士たち

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-10-06 07:33:29

リナとマナが突入した概念次元は、言葉では説明しがたい世界だった。

「ここは……」

リナが周囲を見回す。

抽象的な概念が、具体的な形を持って存在している。

「愛」が温かい光の球体として浮遊している。

「憎しみ」が黒い霧として這いまわっている。

「希望」が虹色の橋として空に架かっている。

「絶望」が底なしの穴として地面に口を開けている。

「お母さん……」

マナが不安そうに手を握る。

「怖い……」

「大丈夫よ」

リナが娘を抱きしめる。

「お母さんがついてる」

その時、ノアの声が響いた。

「リナさん、マナちゃん、聞こえる?」

「ノア……」

「うん。概念次元、不思議なところだね」

「不思議どころじゃないわ」

リナが答える。

「何もかもが理解を超えてる」

「なんとなく……」

ノアが優しく言う。

「でも、二人なら大丈夫」

「お母さんと娘の絆は、どんな概念よりも強いから」

「絆……」

リナがマナを見つめる。

確かに、娘への愛情は何よりも強かった。

その時、概念次元の奥から巨大な影が現れた。

それは、概念の化身。

無数の抽象的なシンボルが組み合わさった、理解不能な存在。

《概念侵食者検出》

《存在意義削除》

《概念改変》

攻撃が始まる。

リナとマナの周囲から、様々な概念が消えていく。

「勇気」が消える。

「優しさ」が消える。

「信頼」が消える。

「まずい……」

リナが震える。

「概念を消されてる……」

「このままでは……」

マナも恐怖を感じていた。

周囲から温かい概念が消え、冷たく暗い概念だけが残っていく。

「怖い……お母さん……」

「マナ!」

リナが娘を強く抱きしめる。

その瞬間、二人の間に新しい概念が生まれた。

「母親の愛」

それは、どの概念よりも強く、輝いていた。

《予想外》

《新概念発生》

《分析不能》

概念の化身が混乱している。

「母親の愛……」

リナが理解する。

「これが私たちの武器なの」

「なんとなく……」

ノアの声が励ます。

「それそれ!」

「家族の愛は、概念次元でも最強」

「消すことができない概念」

確かに、「母親の愛」の概念は、化身の攻撃を受けても消えなかった。

それどころか、消された他の概念を再生させ始めた。

「勇気」が戻ってくる。

「優しさ」が戻ってくる。

「信頼」が戻ってくる。

すべてが、母親の愛から派生して再生していく。

「すごい……」

マナが驚く。

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