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禁欲系の彼を諦めた後、彼は後悔した
禁欲系の彼を諦めた後、彼は後悔した
Author: シンデレラ

第1話

Author: シンデレラ
仏教を信仰している陸奥家には代々のしきたりがある。陸奥家の人間と結婚するためには、自ら「大吉」の御籤を引かなければならない。

だが、私が引いた九十九回の御籤は、すべて「大凶」だった。

そして百回目を引く直前、私はこの目で、陸奥俊彦(むつとしひこ)が籤筒の中身をすべて入れ替えるところを見てしまった。

「何度引こうと、彼女は必ず大凶しか引けないさ」

その瞬間、私はようやく悟った。彼は確かに私を愛していないのだ。

もういい。私だってもう彼と結婚したくない。

私は籤筒を投げ捨て、振り返って両親に電話をかけた。

「葉山家との縁談、私、承諾するよ」

寺を出るとき、私は再び俊彦に出会った。

彼の視線が私の腫れているまぶたに二秒ほど留まると、すぐにいつものように視線を逸らした。

代わりにその隣にいる、彼の友人である木村隼也(きむらしゅんや)が沈黙を破った。

「江崎さん、もう帰るの?」

私は泣き腫らした喉が声を出すのも辛く、ただうなずいた。

そして私は切符売り場へ行き、ケーブルカーで下山するつもりだ。

すると、隼也の少し訝しむ声が響いた。

「江崎さん、ケーブルカーで下りるの?歩かないの?」

振り返れば、隼也と俊彦の不思議そうな目があり、私は胸の奥がひどく苦くなってきた。

この三年間、私は九十九回もおみくじを引いてきた。私は毎回、膝をついて山を登り、その後、足を引きずりながら下山していた。神様に誠意を示し、一日も早く「大吉」を授かりたい一心だった。

だが結局、私がどれほど誠意を示しても、俊彦が与える気のない「大吉」は得られなかった。

ならば、なぜこれ以上苦しむ必要がある?

私はケーブルカーのチケットを買いながら、何気なく答えた。「疲れたの。歩きたくない」

私のかすれた声が落ちるや否や、隼也は手の中の車のカギを揺らした。

「ちょうど俊彦と一緒に下山するところだ。よかったら乗っていく?」

私が断る前に、俊彦の冷たい声が響いた。

「これから人を迎えに行くんだ。暇はない」

すれ違う瞬間、彼の足が止まり、私の蒼白な顔を見て、彼は結局口を開いた。

「疲れるなら、次からは跪いて登るのはやめろ」

彼は常に私に冷たい。その低い声色もまた冷たさを帯びている。かつては、どんなに辛辣な言葉でも、私は、彼の口から出れば心地よく感じたものだった。

その頃の私は、彼の口から紡がれる優しい言葉も、熱を帯びた吐息も、きっともっと美しいに違いないと思っていた。

今思えば、結局それだけのものだろう。

山を下りた私は焼肉屋へ直行した。

三年間、あの馬鹿げた「大吉」のために、私は肉や魚に一切口をつけず、無理やり菜食主義者のように生きてきた。

私が肉を頬張っている最中、扉が開き、耳障りなほどに、ある馴染んだ声が響いた。

「わあ、この匂いだけで涎が出そう!海外にいた間、ずっとこれが恋しかったの!」

顔を上げると、少し離れたところに江崎心美(えざきここみ)が立っている。

私はさらに気分が悪くなった。早く食べ終えて出よう。

次の瞬間、俊彦の、少し困ったようで甘やかす声が聞こえてきた。

「唐辛子は控えろ。胃に悪い」

私は驚き、顔を上げると、俊彦の姿が見えた。

江崎心美……心美……

そうか、俊彦の「大吉」は、心美のためだったのだ。

よりによって心美か。

私は胸が痛くて苦しくなり、食欲は一気に消え失せた。箸を置き、席を立とうとした。

バッグを手に振り向いた瞬間、心美と正面からぶつかった。

「きゃっ!」

心美は悲鳴を上げ、そのまま俊彦の胸に倒れ込んだ。

私は衝撃でよろめき、手が熱い鉄板の上に落ちた。

じゅっと焼ける音と共に、私は思わず息を呑んだ。立ち直ったときには、手の甲はすでに真っ赤に腫れている。

痛みに冷水で冷やそうと立ち去ろうとした瞬間、私は俊彦に手首を掴まれた。

「江崎望(えざきのぞみ)!心美に謝れ!」

手の甲の痛みが、心までじんわりと締めつけた。

私は必死で俊彦の手を振りほどき、一言も言わずに冷水を探そうとした。

しかし、彼は私の前に立ち塞がり、冷たい声で言った。

「謝れ!」

私は顔を上げ、涙を必死に堪えながら硬い声で返した。

「どうして?」

すると、俊彦の胸にいた心美は顔を上げ、いじらしく言った。

「俊彦、私は大丈夫よ。うっかりお姉さんにぶつかっちゃっただけだから」

私の目が一瞬で冷たく光った。

「誰が、あなたに私をお姉さんって呼んでいいって言った?」
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