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第260話

Author: 風羽
中川は心の中で毒づいた——そんなもん、気持ちってやつか。

……

夜——瑞風苑。

九郎は子どもと遊んでいた。

ちょうどその時、アシスタントから電話がかかってきた。

「上原さん、あの持ち株三〇パーセント、一社が即決で買い取りました。交渉なしの一括です」

電話の向こうで、アシスタントは驚きを隠せなかった。

「九百億って、簡単に支払えるなんて、すごい会社ですよ!」

スマートフォンを耳に当てながら、九郎は黙っていた。

彼の脳裏に浮かんだのは——一人だけ。

京介だった。

立都市でこれほどの即断即決ができる人物など、そうはいない。

そして彼がなぜ買ったかも察しがついた。

当時の借りを返すためだろう。

アシスタントは続けた。

「明日、支払いの小切手をお届けします」

「……了解」

電話を切った、そのすぐあと——

白のスーツを着た紗音が玄関から入ってきた。

一日中働き詰めだったのだろう、玄関でヒールを脱ぎながら尋ねた。

「電話してたの?真緒、今日どうだった?」

九郎はスマホを置き、積み木を積んでいた真緒の隣に座った。

真緒は、ふてくされたように顔を伏せ、母を見ようとしない。

紗音が近づき、そっと頭を撫でた。

「……ママに怒ってるの?」

真緒は、か細い声で答えた。

「怒ってない」

「じゃあ、ママと遊ぼうか?」

紗音は笑顔でそう言ったが——

九郎はその光景を見つめながら、突然口を開いた。

「紗音……俺、事務所の株を売った。それで——真緒を連れて海外に行こうと思ってる」

「……え?」

一瞬、紗音は言葉を失った。

彼が持ち株を手放し、子どもを連れて世界旅行に?

まるで信じられないという表情で彼を見つめる。

「なんで……私に相談もなしに?」

九郎は真っすぐに彼女を見ながら答えた。

「今、してる。これが相談だよ。紗音、仕事はまた始められる。でも——真緒は一人だけだ。唯一の娘なんだ。

俺、秘書に頼んでオーストラリア行きのチケットを三枚取ってある。

一緒に考えてみてくれないか。

真緒には今両親が必要なんだ」

三枚……

紗音は子どもを見つめた。

真緒は明らかに、母を慕いながらも距離を取っていた。

普段のふれあいが足りなかったのだ。

心は求めているのに、それを言葉にできず、ただ母を見つめている。

その視線に、胸が締
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