Masuk中学卒業式の〝嘘告白事件〟をきっかけに、俺——————久山雅春は人を信じられなくなった。 そんなトラウマを抱えたまま進学した高校で、なぜかクラスの人気者たちが俺に近づいてくる。 いや、待て待て。絶対に〝なにか〟あるだろ! 俺はもう騙されない。 守るためなら悪役になることだって厭わない。 だから、何としてでも——————コイツの本性を暴いてやる!
Lihat lebih banyak「ごめん、これ全部罰ゲームでやったことなんだ」
クラスのマドンナだった女子生徒が口を開いたと同時に、植え込みの方からスマホを構えた女子生徒二人がケタケタと笑いながら姿を現した。 周りの音は遠いのに、笑い声だけが鮮明に聞こえる。 手は小刻みに震え、全身の体温がスッと抜けていくのを感じる。 そこで俺——————久山雅春《ひさやま まさはる》はようやく理解した。 やられた。 これ、嘘告白だったんだ、と。 緊張のあまり声が上手く出せず、上ずった声音になりながらも相手の告白に返事をしているところをマドンナの友人たちにバッチリ録画されており、しかもそれを面白半分にSNSにアップされる始末だ。 【拡散希望】 嘘告白に引っかかった童貞www マジうけるwww #卒業式 #黒歴史 #美女と野獣 もちろん彼女たちの行動を非難する声も上がっていたが、その頃には全てがもう手遅れ。 インターネットの大海に動画が公開されれば、完全に根源を絶ち切るのはハッキリ言って難しいだろう。 だからこそ、高校入学初日から俺のことを知らない人は数少なかった。不名誉な意味で。 「あの人、嘘告白の人でしょ?」 「それ知ってる! どうして嘘告白だって気が付かなかったのかな……」 「まあ、あんなに可愛い子に告白されたら……ねぇ?」 「でも、アイツそこまでイケメンって訳でもなくね? 普通疑うと思うけどな」 「それな、ハニートラップにかかったアイツも悪いよな」 新しい門出だというのに、登校初日から気分は最悪……と言いたいところだけど、全てがどうでもよかった。 だって、所詮は他人。他人なんて心底どうでもいいからな。 でも良かったね、新しく友達ができて。まあ、そもそも前の学校からの繋がりかもしれないけど。 それから時はゆっくりと流れていき、ようやく下校の時刻になった時には俺の気力は0に等しかった。 寝みぃ、さっさと帰りてぇ……。 下校の予鈴と共に、俺は颯爽と家に帰ろうとしたのだが、それを阻むかのように生活指導の先生に呼び止められた。 呼び止められた理由は何となく察した。 「ここで話す内容でもないしな。とりあえず場所を変えようか」 そして俺は、生活指導室に案内された。 「まあ、とりあえず座りなさい」 「失礼します」 「気楽にしていい。堅苦しい話はあまり好きじゃないんだ」 生活指導がそんなこと言っていいのか? と心の中でツッコんでおく。 話の内容はというと、俺を気遣っての与太話だった。 相手の話に適当に相槌を打って、俺は颯爽と生活指導室を後にする。 「……早く帰って寝よう」 重い足取りを一歩ずつ進めていると、とある教室の前で俺の足は反射的に止まった。女子の声? 「ふふふ、やっぱり。やっぱりここか! 時刻、座標、共にここで間違いない! ハハハ! 私はようやく見つけたぞ‼ 後はどうするかだけど……」 教室の中でコンパスでも広げてんのか? 仮にそうだったとしたら意味不明だし、仮に違うのなら普通に変なやつだな、おい。どこのどいつだ……? そして俺は、クラスプレートを確認してみる……待って、俺のクラスじゃん。 周りをあんまり見ていなかったからよく分からなかったけど、まさかクラスにこんな愉快なヤツがいたとは思わなかった。 まあ、だからといってお近づきになろうなんて決して思わないが。 俺は何も聞いていなかったかのように教室の前をスッと通り過ぎていく。 「あっ! いたぁ‼」 意味不明な内容を含んだ馬鹿デカい声が後ろから聞こえてきたが、俺は振り返らず歩み続けた。 「待て待て待て! そこの少年、止まりなさい‼」 「……」 「こら! そこのお兄さん、ただちに止まりなさい‼」 「……」 「止まれと言っておるだろうがぁ‼」 威勢の良い声と同時に、俺は頭を思いっきり引っぱたかれた。 「いってぇ! いきなり何すんだ!」 思わず振り返ると、すぐそこには先ほどのイタイ発言をしたとは思えないほどの美少女が不貞腐れたように頬を膨らませていた。 透き通る金髪のミディアムヘアに、アーモンドのような大きな瞳に宿る碧色の宝玉。 斜陽に照らされた彼女は、まるで別次元から来たと言われても何もおかしくないほどに美しかった。 てか、こんなヤツクラスに居たっけ? これだけ特徴的な見た目なら流石に知っててもおかしくないけど……。 「おやおや? 私に惚れちゃったのかな?」 「……フッ」 「おい、なんで今鼻で笑った?」 これほどまでに極端な美人であれば、俺の反応は必然的にこうなる。 「いやいや失礼したね。君の腕力に思わず惚れちゃったよ。凄い怪力だね」 「いや~。褒めても何も出てこないよ? 手以外はね」 「別に褒めてないから手を上げるな」 「それじゃあ、私は馬鹿にされただけじゃん! 馬鹿にされ損じゃん!」 コイツは一体、何を言ってるんだ? とりあえず、面倒なことに巻き込まれる前にさっさと帰ろう。 そして俺は、彼女に背を向けるように踵を返した。 「はいはい、それじゃあまた明日な」 「ちょい待てい! まだ話は終わってないぞ!」 「……」 「は~い。プッチンきました~」 廊下を駆ける音がしたと思ったら、俺を追い越した彼女が腕を掴んで思い切り引っ張ってきた。 「何! 何だよ!?」 「無視をした罰として、これから私と一緒にカフェに行っていただきま~す」 「は? 誰も行くとは……」 「嫌なの?」 ふと、こいつの顔から今までの無邪気な笑顔がなかったかのようにスッと消える。 人は一生涯笑顔で過ごすことはありえない。 誰もが知っている当たり前のことだ。 でも、コイツの四時限目を終えて迎えた昼休み。 俺と花音《かのん》は、桜花《おうか》と一緒に人気のない校舎裏のベンチで昼食を取っていた。 本来であれば、俺と桜花の二人で昼食を取るはずだったのだが、アクシデントに見舞われて花音も一緒に昼食を取ることになったのである。 花音の噂の件で、少しでも情報収集できればと思っていたんだが、状況が状況なので仕方がない。 もちろん桜花には事前に相談しており、話があると言っていたのにも関わらず快く承諾してくれた。 相変わらず性格が完璧すぎるので、後々が凄く怖いんだが……。 その一方、花音の方はというと桜花の昼食同席には露骨に嫌そうにしていた。 こちらは相変わらず性格が腐っていて、凄く安心した。 だが、俺が無理を言って聞いてもらっているのもあったので、花音には事情を説明してなんとか桜花の同席を許してもらった。 そう、花音は嫌そうにしていた……はずだったんだけど……。 「えぇ!? ひめのんってそうだったの!? アタシてっきりもっとグイグイいくタイプかと思ってたよ!」 「ふふん! こう見えて私、慎重派なんだよね〜。ちゃんと相手を分析して、それから……って感じなんだよね〜」 「相手を分析って……。すごいね、アタシにはできないや……」 俺をよそに、めっちゃ恋愛トークで盛り上がってた。 席順も右から桜花、花音、俺の順番。文字通り蚊帳の外である。 花音さん、あなた数時間前までは全然乗り気じゃなかったですよね? ちなみに、俺的にはあなたの言う慎重は臆病の裏返しかと思うのですが。 とはいえ、花音に俺以外の友達ができるのは喜ばしいことだ。 なんせ、放課後恒例のカフェタイムに付き合わなくて済むようになるからな! 手始めに、俺は二人の関係がより良いものになるようにこの場の空気となろう。 「ねぇ! ひさるんはどう思う?」 「………………………………俺?」 「そりゃそうでしょ。この場に私とマサくんしかいないんだから」 永い沈黙の後に返事する俺に対して、花音が呆れたように溜息を吐く。 いやいや、いきなりニックネームでひさるんって呼ばれても、どこの誰ですかって普通なるやん? てか、ニックネームがキラキラしすぎてて普通に恥ずかしいんだが……。 「——————それで、ひさるんはどう思う?」 桜花の純粋無垢な瞳の
「——————なあ、ちょっと良いか」 一限目が終わり、俺は机上に教科書やノートを広げたまま後ろを振り返った。 相変わらず、花音《かのん》はニッコニコのスマイルを俺に向けてくる。 だが榊《さかき》曰く、花音は俺に対して殺意の視線を送っているらしい。 多分、俺が見てないところでやってるんだろうなぁと容易に想像がつく。 不幸中の幸い、一限目はちょっかいかけられなかったけど、もし花音が本気でシャーペンとかを背中にぶっ刺してきたら……と考えただけでも総毛立《そうけだ》つ。 とりあえず、大ごとになる前に原因の究明と解決に専念ねせば! 「なんで怒ってんだよ」 「……」 「おい、ちゃんと言葉にしないと伝わらんぞ」 「……ナンデダトオモウ?」 「はい?」 「ダカラ、ナンデオコッテルンダトオモウ?」 「いや、分からないから聞いてるんじゃん」 「ナンデダトオモウ?」 めんどくせー。これが巷《ちまた》で噂の「私がなんで怒ってるかわかる?」ってやつか。 正解するまでエンドレスで続くとかなんとか……。 クソッ! 花音の前の席じゃなかったら今ごろこの場から逃げ出していたのに! 二時限目開始まで、残り一五分程度。 ひとまず、心当たりがあることから順に答えていくしかない。 「お前をおいて、榊《さかき》と遊んだこと……か?」 ゴクリと固唾を呑む。 そして花音は、笑顔のまま両腕を大きく使って頭上で丸を作った。 よかった、どうやら一問目で正解できたらしい。 「ソレモアル」 「その答えはせこいだろ。なんだよ、それもあるって」 「セコクナイ。ジッサイ、ダレモオコッテルリユウハ、ヒトツトハイッテナイ」 「確かに……って、なんで俺も納得してんだよ」 思わず、自分の発言に自分でツッコミ入れちゃったよ。 てか、怒ってる理由あと何個あるんだよ。 残りの数言われても、正直答えられる自信ないぞ。 「なあ、答え教えてくれよ。本当に怒ってる理由分かんないんだって」 「……はぁ、仕方ないなー」 やれやれと言った様子で、花音は自分のスマホ画面を俺に見せてきた。 すでにLINEが起動されており、トーク画面には俺の名前が表示されている。 「これがどうしたんだよ」 すると花音は、俺のことを睨みつけながら画面の一点を指差す。 指先には「既読」の表示が
翌朝、俺は頬杖をつきながら二人の女子生徒を観察していた。 もちろん、俺の視線を悟られないようにね。 これだけは言っておくが、別に邪な思いがあって見てたわけじゃない。 花音《かのん》の噂の件で少し気になったから見ていただけだ。 一人の女子生徒は、我部香凜《がべ かりん》。 茶髪ロングヘアの我部の第一印象は、ザ・陽キャって感じ。 入学して間もないというのにも関わらず、制服は着崩しているし、おまけにピアスまで開けてる。 そして恐らく我部は——————榊《さかき》のことが好きっぽい。 現在、我部は他の女子生徒と一緒に榊と話しているわけだが、その表情がもう恋する乙女のそれなんだよなぁ。 とりあえず榊さん、我々に構わず彼女と末永くお幸せに……。 そう心の中で呟いて、俺はもう一人の女子生徒に視線を移す。 さて、本題はここからだ。俺が一番怪しいと踏んでいた人物。 その名は——————桜花春《おうか はる》。 桃色のミディアムヘアに、桜がモチーフの耳掛けヘアピンを付けた桜花の第一印象は——————春って感じだ。 一々説明する必要もないと思うが、あくまで春というのは比喩表現だ。 暖かな春を連想させる、まるで陽だまりのような女の子。それが桜花春という女子生徒だった。 雰囲気で言うなら、陽キャのそれに近いかもしれない。 だが、あくまで近いだけであってジャンルとしては別物と言っても過言ではない。 さて、そんな心穏やかそうな桜花を、どうして俺は一番怪しいと思うのか。 それはひとえに、彼女が人当たりの良い人格者だからだ。 人というのは、無意識のうちに表の良い顔と裏の悪い顔を上手に使い分けている生き物である。 要は、誰しも長所と短所はあるよねって話。 人は、人に気に入られないと社会という生存競争に生き残ることができない。 だから人は、己の短所を長所で隠しながら生活しているのだ。 そうでもしないと、何らかの問題という形で社会から隔離されてしまうから。 だが、桜花の場合は—————— 「マジで良い子すぎるんだよな……」 そう、欠点という欠点が、まるで見つからない。 会話のテンポが絶妙なのもそうなんだけど、桜花の周りに人が集まる要因、ずばりネガティブ発言を一切口にしないことだ。 友達に何か相談されたり、愚痴を聞いても桜花は全てポジティブ発言で
私は学校が終わるなり、速攻家に帰った。 別に、友達がいないわけじゃないよ? 私にはマサくんがいるもん。 ただ、ちょーーーーーーっと予定が合わなかったからバイバイしただけ。 予定がないから寄り道せず真っ直ぐ家に帰る。至極当たり前のことだよね? 別に、浮気を疑ってるわけじゃないよ? ただ、ちょーーーーーーっとだけモヤモヤするかな。 だってそうでしょ? 私が誘う時は、いつも露骨にめんどくさそうにするもん。 なのに、今回はマサくんの方から友達を誘って遊びに行った。 別に、怒ってるわけじゃないよ? ただ、ちょーーーーーーっとだけムカムカするかな。 「いや、怒ってるじゃん。私」 ツッコミつつ、私は玄関扉を開ける。 すると、すぐさま世一《よいち》にぃが出迎えてきた。 この兄は相変わらず帰りが早すぎる。 「ただいま」 「おかえり、今日は随分と早いね。雅春《まさはる》君と遊びに行っていないのかい?」 「今日は別の友達と遊ぶって言ってたから、学校でバイバイしてきた」 「なるほど、浮気とは感心しないな。ここはお兄ちゃんに任せておけ」 「絶対にやめて。マサくんに絶交なんかされたら学校で一人ぼっちになっちゃう」 そう、マサくんに絶交を切り出されたら冗談抜きで一人ぼっちになってしまう。 他の友達を作ればいい——————そんな簡単な話じゃないんだよなぁ。 この件に関しては一方的に私が悪くて、どうしても人の言葉の裏を読もうとしてしまうクセがあるのだ。 要は、誰かと話している時も「この人は一体何を考えている?!」となってしまうわけよ。 全く、小学生まではそんなこと考えることもなかったんだけどな……。 「でも、雅春君がずっと一緒にいてくれる保障もないだろう?」 世一にぃの言う通りだ。 マサくんがずっと一緒にいてくれる保障はどこにもない。 例えば、たくさん友達ができたり、女ができたり……とか? いやいや、だったら私一人で良くない? 友達と女を両立できる人——————ほら、私しかいないじゃん! ということはつまり、マサくんの相手をできるのは私だけということだ。 「ふふふ、その辺りは大丈夫だよ。私、マサくんの中で最強の逸材だから」 「その自信はどこからくるんだか……。とりあえず、着替えておいで」 「ほ〜い」 気の抜けた返事をしな
姫柊《ひめらぎ》家訪問から一夜明けた翌朝。 静かに席に突っ伏していると、いきなり肩をツンツンされた。 一々確認するまでもない、どうせ花音《かのん》だ。 ぼっちの俺に、こんなイタズラをしてくるのは彼女だけだからな。 「んだよ、せっかく良い夢みてたの……」 そう言いかけて、俺は言葉を詰まらせた。 思いがけないことが目の前で起こっていたのだ。 花音が……泣いてる……。 「ごベんね、ぎのうは、ごべんね。ごべんね、おんどうに、ごべんね……」 「あっ、えっと……」 大変綺麗なお顔をぐしゃぐしゃにしながら号泣する花音。 エマージェンシー、エマージェンシー!
聞くところによると、わざわざ俺に会いに来たこのお兄さんは姫柊世一《ひめらぎよいち》さん。花音《かのん》のお兄さんらしい。 純白の白スーツで迎えに来た世一さんは、さながら白馬の王子のようで——————まぁ、片膝をついて手を差し伸べられた時はさすがに引いたけど。 「いやー、急に連れ出すような真似をして悪かったね」 言いながらも、ケタケタと笑っている。 本当に申し訳ないと思っているのだろうか。 こういうところ、花音に似てるかも。 ちなみに現在、姫柊宅にお邪魔しております。 何気にクラスの女子の家に来るのは今回が初だ。 それなのにどうしてだろう、全然ドキドキしな
健康診断を終えて迎えた午後、俺は体操着から制服に着替えて机の上に突っ伏していた。 女子の健康診断がまだ終わってないようで、当初の予定よりも早く終わった男子が教室で待機しているという構図だ。 ちなみに、机の上に突っ伏しているのは単純に暇だからである。 特に雑談が出来る友達がいるわけでもなく、スマホを開いて何かすることもない。 こういう自由な時間を設けられた時、ぼっちは虚無地獄《きょむじごく》を味わわないといけないのだ。 まあ、変な期待をしてこっぴどく裏切られた時の精神的ストレスに比べればこの程度どうってことないんだけど。 にしても、花音がいないと凄く静か! 「学校っ
花音《かのん》の様子がおかしい。 いや、そもそも花音が頭のおかしい子だというのはいつものことなんだけど、今日の彼女はいつもと違う雰囲気を漂わせていた。 自分の席へと向かう際に自然と花音の姿が目に映り込んできたわけだが、彼女は机に両肘をついて身動き一つ取ることなくジッと一点を見つめている。 何というか、虎視眈々《こしたんたん》と何かを狙っているかのような……。 まあ、何を狙ってるかなんて俺には心底どうでもいいことなんだけど。 そして俺は、花音に挨拶することなくスッと自分の席に着く。 本日の予定は、午前中に健康診断で午後に部活動紹介。はっきり言ってクソめんどい。 健