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第539話

Author: 風羽
背後に広がるのは、きらびやかな芸能界。八年をかけて築き上げた地位。

智也が歩けば、誰もが「業界のトップスター」と認めた。

それなのに——彼は澄佳を失った。

あれほど激しく愛され、全身全霊で支えられていたのに、別れは驚くほど冷淡で、徹底していた。

澄佳の決意は揺るぎなく、智也の胸には冷たい虚無だけが残った。

夢をすべて手に入れたはずだった。

数百億円規模の財産、母親に最上の老後を約束できる力、一生困らない生活。

大した犠牲も払わず、欲しいものを次々と手に入れた。

なのに、別れは——ワインを浴びせられただけで終わった。

涙も罵倒もなく、彼女はもう夢から醒めていた。

まだ夢の中に取り残されているのは、自分だけだった。

衝動に駆られ、智也はガラス扉を押し開け、宴会場を飛び出した。

「桐生さん、今日は晴れ舞台ですよ!今出れば明日の見出しが……」

マネージャーの制止も耳に入らない。

ただひとつ——澄佳に会いたい。その思いだけだった。

……

夜風を切り裂き、黒いスポーツカーは走る。

辿り着いた別荘では、すでに作業員たちが家具を運び出していた。

澄佳が大事にしていた花瓶、油絵。

そして、外のゴミ置き場には額縁が雑に投げ出されている。

覗き込むと、それは彼と澄佳のツーショット写真だった。

かつては宝物のように大切にされていた写真が、いまや粗大ゴミのように放り出されていた。

智也の胸に、言いようのない痛みが走った。

そのとき、現場監督風の男が歩み寄り、一本の煙草を差し出した。

「有名な俳優さんですよね?葉山さんなら、もう引っ越しましたよ。探しても無駄です」

智也はゆっくりと顔を上げた。目の奥には、自分でも気づかぬほどの紅が差していた。声は震えていた。

「どこに……引っ越した?」

男は苦笑を浮かべ、肩をすくめた。

「そんなこと、俺が知るわけないでしょう」

普段なら、智也はこういう男たちを相手にすることすらなかっただろう。

だが今は違った。彼は無言で財布を取り出し、数万円を押しつける。

その見返りに、彼は澄佳の新しい住所を手に入れた。

立都市で最も高価な「白金雅苑」

……

その扉が開いた瞬間、澄佳の顔に驚きが走った。

「どうやって入ってきたの?」

ドア口に立つ智也は、もはやトップ俳優の威厳もなく、ただ狼狽し、憔悴してい
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