FAZER LOGIN私の周りは完全武装した警察や軍人たちで、警備が固められている。そこまでする必要はないと何度も言ったが、上層部は軽装での外出を許可してくれなかった。懐かしい首都の風景を見て、私の目は涙で潤んだ。十年の歳月が、過去の全てを洗い流してくれた。この十年間、司も義父母も私に連絡を取ろうとしたようだが、私は一度も電話に出なかった。首都に来る前夜、私は義母の電話に出た。義母は驚き喜び、しどろもどろになりながら謝罪してきた。私は笑って言った。「お義母さん、電話に出たのは、お二人が昔私を世話してくれたことにお礼を言うためです。西園寺家がますます発展していると聞きました。おめでとうございます。私も元気にしています。でも、これからはもう連絡しないでください」電話を切る直前、悲痛な叫び声が聞こえた。それでも私の心は平穏だ。過去に未練など何もない。全てを淡々と受け入れられるようになったのだ。私は娘の髪を撫でた。娘はおもちゃの爆弾の解体に夢中で、隼人が横でタイムを計っている。娘が手際よく爆弾を解体するのを見て、隼人は笑顔で拍手した。「華子(はなこ)はすごいな、前回より5秒も縮まったぞ!」華子は嬉しそうに隼人の腕に抱きついた。「パパの教え方がいいからだよ。パパ、次はもっと5秒縮める!」隼人は目を細めて頷いた。私は窓の外に広がる雲海を眺めながら、彼らと共に笑った。【番外編・西園寺司の独白】俺には三十二人の愛人がいる。彼女たちの目は、どこか理沙に似ている。鼻が似ている子もいれば、耳が似ている子もいる。俺は理沙のフィギュアを集めるように、気づけば三十二人も集めていた。彼女たちには指一本触れていない。ただ、養っているだけだ。理沙に似た人たちが苦労しないように、少しでも幸せでいてほしいと思ったからだ。でも彼女たちは分別のない子ばかりで、すぐに理沙の前に出たがる。最初の愛人が理沙の前に現れた時、理沙は失望したように見えた。俺は地面に跪き、行かないでくれと哀願した。理沙は俺の頬を撫で、泣きながら言った。「あなたは、私が離れられないと分かっていて、図に乗っているのよ」それでも俺の心は恐怖でいっぱいだった。理沙は高校卒業後、両親と同じように警察官になることを望んでいたからだ。彼女を行かせたくなかっ
次に意識を取り戻した時。私は病院のベッドに横たわっていた。傍らには一人の警察官が端座している。彫りの深い顔立ちで、その瞳は鷹のように鋭い。私が目覚めたのを見て、彼の目に喜びの色が浮かんだ。彼はすぐに水を注いでくれた。「如月さん、大丈夫ですか?」私はお腹を押さえ、慌てて尋ねた。「私の子供は?」取り乱す私を見て、男は急いで慰めた。「お子さんは無事です。少し母体に負担がかかりましたが、安静にしていれば大丈夫ですよ」私はようやく安堵のため息をついた。温かい水が喉を通ると、冷え切った手足に血が巡り始めた。男の名は黒田隼人(くろだ はやと)。国から私の警護に派遣された人物だと知らされた。彼は私が気絶した後の出来事を話してくれた。西園寺家の人々が彩美を連れて慌てて家を出るのを見た隼人は、異変を感じたという。五分待っても私が現れないため、西園寺家に突入し、倒れて意識不明になっている私を発見したのだ。私は両親の形見のことを思い出した。「私の荷物は……」隼人は言った。「ご安心ください。すでに我々が回収し、整理しました」私は胸を撫で下ろした。その時、司と彩美が病室の前を通りかかった。入り口に立つ警察を見て、彩美が言った。「中にいるのはきっと犯罪者よ。じゃなきゃこんな警備がつかないわ……あれ!如月さんじゃない!」彩美の言葉に、入り口の警察が厳しい声で告げた。「発言に注意しろ!我々が警護しているのは国家の重要研究員だ」兵士の言葉に、彩美は信じられないといった様子で私を凝視した。司は顔色を変え、病室に入ろうとしたが、職務に忠実な警察に阻まれた。私は隼人に頼んで、司と彩美を通させた。司は慌てて尋ねた。「研究員ってなんだ。理沙、仕事はしてないはずだろう?」私は静かに微笑んだ。「国の極秘プロジェクトに参加することになったの。数日後には北東へ発つわ」それを聞いて、司は信じられないといった様子で私を凝視し、歯を食いしばった。「認めないぞ!」私は鼻で笑った。「あなたが認めなくても関係ないわ。これは離婚届よ。サインして」私はサイドテーブルの袋から、一枚の離婚届を取り出した。司は離婚届をひったくった。私の署名があるのを見て、顔を歪めて変な表情になった。彼は離婚届をビリビリに破り捨てた。その様子を見て、私は
私の言葉を聞いて、教授は絶句した。長い沈黙の後、彼の顔に怒りの色が浮かんだ。その激怒を見て、私の心は救われたような気がした。もし両親が生きていて、目に入れても痛くないほど可愛がった娘がこんな扱いを受けていると知ったら、きっと同じように怒ってくれただろう。私は言った。「教授、私は豪門の飾り妻にはなりたくありません。両親も、私が日々の裏切りの中で心を麻痺させていくことなど望んでいないはずです」私はそっと自分のお腹を撫でた。ここに一つの命がある。私と血の繋がった命、この世界で唯一の家族。私は続けた。「私と司は深く愛し合っていました。でもいつからか、彼が私を見る目には愛のかけらもなくなっていました。私も、いつまでも彼を待つつもりはありません。この子は私の子供です。司には彼の子供がいますから。きっと、この子は強い子に育つと思います」私の言葉に、教授はようやく折れた。「分かった。君がそこまで決心しているなら……実は心配することはないんだ。研究所にも夫婦はいるし、子供たちもいる。あの子たちは普通の子供と同じように学校に通っているし、国トップクラスの学者が宿題を見てやったりもしているんだよ。ある悪ガキなんか、悪知恵ばかり働くくせにテストはいつも0点でね。両親が勉強を教えるたびに過労死しそうな顔をしてるよ」教授の話に、重かった心が少し軽くなった。私たちは北東研究センターへ向かう計画を練り直した。いくら体力が人よりあるとはいえ、私は妊婦だ。万全のケアが必要になる。行程が確定した後、教授は病院を後にした。窓から見下ろすと、彼が警察官たちに守られ、通り過ぎる人々から尊敬の眼差しを向けられているのが見えた。私は誇らしい気持ちになった。両親が私の決断を支持してくれるかは分からない。でも、きっと応援してくれるはずだ。高校卒業の年、私が警察大学校への進学を希望した時、司はかつてこう言った。「おじさんとおばさんは、理沙に平穏な一生を送ってほしいと願っていたはずだ」と。この数年、彼は常に私に「平穏」であれと言い聞かせてきた。だから私は夢を心の奥底に封印し、物理学の道を選んだのだ。司が初めて浮気をした時、私は空が崩れ落ちるような絶望を味わった。でも、彼の愛人たちの目元が私に似ているのを見るたび
医師の言葉を聞いて。私は呆然と、平らな自分のお腹に手を当てた。この中に小さな命が宿っているなんて、どうしても信じられない。私の妊娠の知らせは、すぐに教授の耳に入った。彼が病院に駆けつけた時、私はまだ茫然自失の状態だった。この突然の小さな命が、私たちの計画を狂わせたのだ。教授は心配そうに言った。「北東研究センターへの道のりは険しい。そう簡単には行けないんだ。それに研究センターの環境も過酷だ。妊婦の体には耐えられないかもしれない。君の体が心配だ」彼はため息をついた。「この子は……」教授が何を心配しているのか、私には分かっている。飛行機で近くまで行けたとしても、そこからバスに乗り換え、山道を何時間も揺られなければ研究所には辿り着けない。妊娠初期の私に、その振動は危険すぎる。北東地域の気候も不安定。彼が私の体が持たないことを恐れ、この子に何かあることを心配しているのは明らかだ。同時に、この子の処遇についても悩んでいる。もし私が一時的に残り、この子を産んだとしたら。子供が生まれた直後に私が去ることになれば、子供の未来にとっても良くないし、母親として無責任だ。しかし、私がこの子を連れて行くとなれば、父親である司への説明がつかない。この「シリウス計画」は、最短でも十年、最長で無期限の任務だ。子供が父親と触れ合う権利を奪い、父親が子供に会いたいと願う心をどうして止められようか。どう転んでも正解はない。私が残ることを選び、計画への参加を諦めるしかないのか。教授の目を見て、私は瞬時に彼の考えを理解した。彼が口を開こうとしたその時、私は慌てて遮った。「以前、両親と友人が写っている写真の中に、教授のお姿を見つけました。私の両親をご存知だったのですか?」私の言葉に、教授の目に懐かしさが宿った。彼はゆっくりと頷いた。「君のご両親とは、親友だった。君が生まれる前、私たちは長い間共に働いていたんだ。その後、あるプロジェクトが終わった時、お母さんが君を妊娠して、第一線から退いた。あのテロリストたちは、君を人質にご両親を脅し、国家プロジェクトにスパイを送り込もうとしたんだ」両親の過去を聞いて、私の心は波打った。その時、教授が言った。「君は極めて優秀な人材だ。国も研究所も、君の
私はホテルのベッドに座り、長い間迷っていた。それでも、教授に電話をかけた。電話が繋がり、受話器の向こうから穏やかな声が聞こえてくると、喉に綿が詰まったような感覚に襲われた。私は目に溜まった涙を堪え、平静を装って言った。「こちらの用事は片付きました。予定より早く出発できます」一週間後、私は健康診断の結果を受け取りに病院へ向かった。この一週間、義父母も司も、私を訪ねてくることはなかった。心は苦かったが、私はよく分かっていた。彼らの心の中には今、彩美と彼女のお腹にいる子供しかいないのだ。私は所詮、部外者に過ぎない。病院に着くと、入り口で彩美に出くわした。彩美は洗練されたドレスを身にまとい、耳元のイヤリングがキラキラと輝いている。私を見ると、彼女は驚いて目を丸くした。関わりたくないから、私は足を速めて立ち去ろうとした。しかし、彩美が私を呼び止めた。悪意に満ちた声が聞こえてきた。「あら、如月さん、どうして病院に?」彼女はまだ目立たないお腹を撫でながら、私の下腹部をジロジロと見た。そして、全てを悟ったような笑みを浮かべた。「如月さんも検査ですか?言わせてもらいますけど、無駄な努力ですよ。産めないものは産めないんです。いくら検査しても無駄ですって。もしかして、焦ってるんですか?如月さん、愛のない結婚なんて辛いだけでしょう。早く諦めた方が身のためですよ」彩美の顔に浮かぶ意地悪な笑みを見て、私は苛立ちを覚えた。彼女と話すことなど何もない。立ち去ろうとしたその時、彼女が私の手を掴んだ。彩美の力は強く、腕に痛みが走った。私は反射的に彼女の手を振り払った。「きゃっ!」彩美は悲鳴を上げ、地面に倒れ込んだ。お腹を押さえ、泣きながら私に訴えた。「如月さん、私のことが嫌いなのは分かります。でも、お腹の赤ちゃんは無実なんです!私と司は心から愛し合ってるんです。私たちのこと、認めてくれませんか?」地面で迫真の演技を続ける彩美を呆気にとられて見ていると、背後から怒号が飛んできた。「理沙!何をしてるんだ!どうして彩美に手を上げる!」振り返ると、激怒した司の姿があった。司は駆け寄り、慎重に彩美を抱き起こした。彩美は彼の胸にすがりつき、泣きじゃくった。「司、怖いよ……如月さんが私を止めて、行かせてく
私と司は幼馴染だ。両親は警察官だった。まだ幼い頃、テロリストに拉致されたことがある。テロリストは私を人質に取り、両親に服従するよう脅迫した。私は狭くて暗い部屋に閉じ込められ、外では両親とテロリストが対峙していた。冷たいドアに耳を押し当て、分厚い板越しに両親の声を聞き取ろうと必死だった。数発の銃声が響いただけだった。外の世界は、死のような静寂に包まれた。いくら「お父さん、お母さん」と叫んでも、返事はなかった。私は恐怖で震えていた。どれくらい閉じ込められていたのか分からない。やがて、ドアが開いた。そこに立っていたのは、驚きと焦燥に満ちた司の顔だった。その後ろには大勢の警察官がいたが、私はその中から両親の顔を探した。でも、どこを見渡しても二人の姿はなかった。両親は私を守るため、そしてテロリストを完全に排除するために、彼らと相打ちになることを選んだのだと、後で知った。独りぼっちになって、帰る家はもうどこにもなかった。その後、西園寺家が私を引き取ってくれた。こうして私は西園寺家で暮らすことに。しかし、テロリストとの接触や両親の死を間近で感じたことで、私の心には深い影が落ちてしまった。暗闇が怖くてたまらなくて、一人でいるのも恐ろしくて、誰のことも信じられなくなっていた。唯一信じられるのは、司だけだった。救出されたあの日、眩しい日差しと共に現れたのは、涙で顔を濡らした司だったからだ。私が自分を殻に閉じ込めていた日々に、司はずっとそばにいて、私の手を握り、低い声で子守唄を歌ってくれた。悪夢から目覚めるたび、最初に目にするのは司の心配そうな顔だった。西園寺家と司のおかげで、私は少しずつ過去のトラウマから抜け出すことができた。暗闇や孤独への恐怖は消えなかったが、司の声を聞けばいつも安心して眠る。だから司は毎日電話をかけて、私を寝かしつけてくれた。悪夢にうなされ、飛び起きた時も、いつも司の優しい声がそこにあった。十五歳の時、隣の学校の男子生徒に呼び止められ、顔を赤くしてピンク色のラブレターを渡されたことがある。私はどうすればいいか分からず、その場で立ち尽くしていた。すると突然司が現れ、その手紙を男子生徒に突き返し、私の代わりに断った。男子生徒は不満げに問い詰めた。「お前、理沙のなんなんだよ!ただ家に住ませてるからって







