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従士としての日々の徒然(3)

last update publish date: 2026-10-08 16:21:00

********

今日は剣のぶつかり合う高い音がよく響いている。

この間従士としてここに来てから一年経ったとニコが祝ってくれたけど、逆に言えば一年私は昇進できなかったことに焦りを覚えた。

ニコの気持ちはわかる。ここでの日々は過酷で目が回るし、毎日泥のように眠っては眠い目を擦って早朝には訓練が始まる…そう思い返すと一年同じ生活を続けられただけで大したものだ。

だからニコの気持ちは素直に嬉しいし、私も一緒にお祝いに参加している。まぁ参加者二人だけど。私たちの他に女の従士なんていないし。

しかしそれはそれ、やはり従士としての一年というのは重みがある。従士は六年昇級できなかったらクビになるシステムだ。その中で六分の一が過ぎてしまったことになると思えば、少なからず焦る気持ちを抑えられない。

今日は一日訓練の予定だけど、私は休憩時間ですら素振りに励んでしまう。落ち着かない感情を剣にぶつけてなんとかしようというのは、結局何にも繋がらないのに。

功を焦って前に出て、何度怒られたことだろうか。毎度協調性がないと教官には言われるけど、それはこの焦りからくるのか私の本質なのか…もうわからない。

ここに来るまでの四年間欠かさず鍛錬を積んだつもりでいて、お父様からの許可も出て…きっと調子に乗っていたんだろう。ここに来てからは壁ばかりだ。

人間、とんとん拍子に物事が進まなければ少なからず焦るもの。わかってはいるんだけど、自分を御しきれない。

「…っ」

休憩時間に休憩できない精神と、これまでのこと、どちらも合わさって悔しさが顔に出る。こんなことではあの人を護るなんて夢のまた夢だと、心の奥が囁いてくるから。

「くそっ…」

そう言って、少しだけ当てつけるように剣を雑に下ろした。そのまま何気なく顔を上げると、ある光景が目に入る。

私の視線の先には従士としてまだここにいるカトレアと、ルカさんの姿があった。確か本編が始まった段階でカトレアまだ新人だったと思うから彼女が従士なのは不思議なことじゃないんだけど、本編で見れる染めた銀髪でない…本来の黒い髪をした彼女はいまだに見慣れない。

カトレアは、おそらく私より先に騎士へと昇級するだろう。でなければ本編との時間軸が合わないから。とはいえ彼女のいた村は特殊な部族で構成されていて、部族の人間はみんな魔法を使える素養がありながら一切それを使わない。その代わりにその魔力を特殊な術式で肉体強化に転じさせる。

実際その能力を買われて彼女は勇者パーティに入るんだけど、それを推薦したのは他でもないルカさんであることが、カトレアを主人公にした番外編で語られていた。

歳は私と大差ないのに、確かに従士の段階でカトレアには光るものがあったのは記憶に新しい。

彼女が肉体強化の術式を発動すると、術式が刻まれた体の部位がわかりやすく光るので使っているか否かは分かり易い。だから普段の訓練で使っていないことは明白だ。

だけど彼女は従士の中で誰にも負けたことがない。彼女が先輩として指導してくれた時私も一回負けてるし…彼女の突出した素早さを追うのは並大抵なことじゃないとその時思い知らせれている。

だけど、私はルカさんが彼女に直接指導しているところを見たことがない。カトレアを保護したのはキャリントン家で、実際作中でもルカさんとカトレアは手紙などでやり取りをしていたり親密な描写も少なくないんだけど…。

少なくとも私の見ている範囲でカトレアが贔屓にされているところも見たことないし、ルカさんとカトレアが揃って見れる瞬間なんてあぁして時折話している時くらいだ。

「…」

だけど、その瞬間に彼はとても穏やかに微笑む。

あの笑顔なんだ、私が護りたいのは。

静かな貴方が優しく微笑んだ時、私は貴方の幸せを願ってしまう。その微笑みが長く続く世界であってほしいと。

あんな人に好きになってもらえたら、なんてあの時感じてしまった何かは私の世迷い言だ。絶対にそんな日は来ない。

彼の笑顔を何度も見返した。カトレアが微笑む彼を回想する瞬間は確かに温かくて、ずっと二人に仲良く会って欲しくて、私はあの物語のページを希望を抱いてめくっていた日々。それは私のたった一つの救い。

正直ルカさんはあの細い体で武器も魔法もなんでもござれで、その上あの長い前髪の下には息を呑むほど美しい顔が待っている。まぁ漫画の登場人物なんて八割は顔整ってるものだけどさ…イザベラだって本来の姿なら見惚れるほどとびっきりの美人だし。

「それにしてもこの間の演習すごかったなぁ…」

考え事の流れでつい先日の従士向け演習を思い出してしまった。本当に独り言が出るくらいあの演習はすごかったなぁ。

その日は数人の騎士が代表して簡単な演目をいくつか私たち従士に見せてくれたんだけど、ルカさんは初級の風魔法で遊園地のクリスマスツリーにでも使えそうな大木をあっさり切り倒してしまったんだから、どう考えても普通じゃない。その上なんでもないことのように目の前で行われるアスリート級の弓捌き…彼、設定では槍使いなのに。

従士だからって彼の隣をすれ違わないわけじゃない。でもその時に見かける彼はいつも少し卑屈そうに見える。本当に、何度見ても勿体無いのでもっと胸を張ってほしい。

「おい、見ろよ」

一人妄想に耽っていたら不意に他人の声が耳に入ってきた。そちらに視線だけ向けると、何やらさっきまではいなかった二人の従士があからさまにひそひそと話をしている。

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