私が貴方を死なせません!

私が貴方を死なせません!

last updateLast Updated : 2026-10-12
By:  まつなが しろUpdated just now
Language: Japanese
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六歳の時、私は前世の記憶を思い出した。 同時にここが前世で読み込んでいた漫画の世界で、私が転生した体は作中屈指の美人悪役令嬢イザベラ・アンブローズであることも、思い出す。 そしてこの世界には前世の私にとって人生最重要の推しがいる。彼の名前はルカ・キャリントン…ファメラ王国騎士団副団長で強力な風使いの魔法騎士。 しかし、このキャラは作中半ばで死んでしまう。彼は彼自身の大切な人を護って世界から消えてしまうんだ。 それがわかってるなら悪役令嬢になってる暇なんてない だって私にとって、あの人は私の人生を変えてくれた世界でたった一人の人だもの

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回想:前世と今世の記憶
   私がその景色を忘れることはないだろう。 うなされるほど夢に見た、彼が死するその瞬間を。「ルカぁっ!!」 今まさにその光景が目の前で起きようとしている。ミノタウロスの大斧が彼の前で振り上げられ、彼の後ろには少女が一人庇われていた。 彼がいかに優れた魔法騎士であったとしても、少女を庇ったままでは得意の風魔法を使う余力なんてないだろう。 だから私は叫んで、そのままミノタウロスと彼の合間に滑り込み、持っている盾で斧の切先を受け止めた。 この瞬間のために私は生きてきたんだから、受け止めた斧の重さと勢いで折れた腕なんてなんでもない。 確かに耳に響いた骨の折れる音と泣き叫びたいくらいの強い痛みを感じながら、それでも私は彼を護り続ける。 たとえこの目で今まさに、走馬灯が映っていても。  ******** 「お父様、私を勘当してくださいな!」 片田舎のカリスと呼ばれる領地から首都であるラザニーのタウンハウスに越してきたその日、幼い私は家に帰るなり家族が揃う居間でそう言い放つ。「な…何を言い出すイザベラ!」 しかし当然お父様は怒って私にそう返した。それもそうだろう、たった六歳の令嬢がいきなり親に向かって「勘当してくれ」だなんて、私が親でも卒倒しかねない。 だけど私はその反応を承知でこの話を切り出した。何故なら私はあることをきっかけに自分の“前世”というものを思い出したからだ。  ****  それはつい十五分程度前のこと。私は家族と共に引っ越してきたタウンハウスでやることもなく暇を持て余し、こっそりと引越し作業を進めるタウンハウスを抜け出して散歩をしていた。 しかし六歳児が早々帰り道など覚えていられるはずもなく、案の定帰り道がわからず彷徨ってしまったのである。 半べそをかきながら通りを彷徨っていると、何やら立ち止まっている人間を見かけた。相手はどうやら道に迷っているというわけでもなさそうだったので、何か知ってるんじゃないかとその時の私は思っただけ。「あの…」 そう小さく声を相手にかけた時、振り返った彼の姿を見て私の脳は弾けたように前世の記憶を解き放つ。 確かに、声をかける人間は本能的に危なそうでない人間を選んだつもりではあった。本当にただ帰り道を知りたかっただけで、それ以上に何か意図があったわけじゃない。 でも目の前にいたの
last updateLast Updated : 2026-10-06
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「お父様、私を勘当してくださいな!」
**** 「理由も話さないというのに勘当もなにもあるわけがないだろう。急にどうしたんだ」 「私は家を出て騎士になりたいのです。今日決めました」 あの漫画は、ルカさんは私の中でずっと生きていく希望になってくれていた。毎週深夜のコンビニであの漫画を読むことが少ない楽しみだったから。 異世界転生ものの定番といえば、やはり運命の改変。そして基本的に物語は大きく変わらなくとも悪役令嬢に転生したら本来の役割から外れ生き延びるために奔走する。 もし本当に私に私の運命を変える力があるならば、私はこの悪役令嬢という立場を一介のモブにまで貶めてでも彼を護るために奔走してみせようと心に決めた。 「そんなことは駄目に決まっているだろう。騎士など危険なばかりだし、野蛮な連中も多い。何があったらそんな場所にお前を送ろうと言うのだ」 しかし口頭一番の交渉は失敗。まぁわかってはいたけど。 何故なら、騎士は一部の家系を除いて貴族としての身分を持ったままなることはできないからだ。 この国で騎士は平民より地位が低い。それは決して平民より貶められているのではなくあくまで騎士として国に住まうすべての民を支え、護るという名目の問題。 そして騎士団の入団には必ず“従士”と呼ばれる見習いから始まる。うまく騎士に成り上がり、さらに昇格すればその分いい暮らしができる…という仕組みだ。 ただこの従士というのは試験にさえ合格できれば平民でも貧民でもなることができて、最低限の衣食住は確保してもらえる。なので野蛮な輩も少なくないし、この世界がいくら少年漫画の世界だからって犯罪は多いし、魔族という異形と戦うのも騎士の仕事だ。それはどう考えたって危ないし、死なないなんてこともない。だからお父様が嫌がるのも頷ける。だけど、 「私はお父様が許して下さるまでここを動きません!」 「何を言っているんだお前は。そもそも騎士になりたいという理由はなんだ?」 「それは…言えません。言ってはならない呪いなのです」 譲らない私に対するお父様の怒りはわかるけど、こればかりは言う気にもなれない。 だって「実は異世界人なんです」なんて言っても証明できるものがないし、それを証明できたところで六年手塩にかけて育ててきた娘をおいそれと戦場に繋がる場所になんて出しはしないだろう。 そもそもこの世界は
last updateLast Updated : 2026-10-06
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貴方と出会って一年経って(1)
   ********  「百二十八、百二十九、百三十…」 あの日、ルカさんに出会ってからようやく一年。早速引越し先の荷解きを終えてから始めた筋トレやジョギングもだいぶ成長してきた。 最初の壁はイザベラの体の筋力のなさ。お貴族の令嬢だからイメージ通りっちゃそうなんだけど、前世の記憶を活かして少し走ってみようとしたら五百メートルも走らないうちにバテちゃうし、プランクは二十秒も続かないしでスタート地点の低さになんとも言えない気持ちになったのは記憶に新しい。 しかし今や毎朝四キロのジョギングにプランク、剣の素振り、スクワットに腕立てと一通りのことはできるようになり、最低地点である五百メートルから始まったジョギングの最高距離が日を追うごとに伸びていくのは快感すらある。やがては十キロまで伸ばす予定だ。 騎士と言うだけあって剣を扱う以上体力と筋力は欠かせないし、その点についてはだいぶ歳の割には高い値を維持てしていると思う。 でも将来のために勉強はしなくちゃいけないし、何よりこの世界で必要なのは“魔法”だ。「ふぅ…」 腕立てふせを終えて立ち上がり、水を飲みながら前世について考える。 この世界である漫画『神託の剣』の主人公のケントは孤児として故郷の村で生活していた。親戚の家に預けられ農民の一人として生活していたところ、神託を受けた聖女エルシィに運命を告げられて葛藤と小さな事件を経て冒険に出ることを決意する。 ブラック企業で口から魂を出しながら働いていた私にこの漫画を勧めてくれたのは親だった。私の家は親が漫画好きで、私は家中に漫画があるのが当たり前に育ってきている。そんな親が「息抜きに」と勧めてくれたのが『神託の剣』。 多分ストーリーが王道でわかりやすかったから勧めてくれたんだと思うんだけど、意外と独自設定多くて全容をきちんと把握しようとすると知識が求められるという絶妙な塩梅の漫画でもあった。 そのバランスが面白くて読み進めていた時だ、私が彼のあの顔を見てしまったのは。 推しであるルカ・キャリントンは本当に地味な男で、目元は基本的に長い前髪で見えないし、事務的な話し方のセリフも多く冷たい印象すら受ける。上騎士団長である兄がメインキャラの一人なので副団長というそれなりの立場なのにやや影すら薄い。 しかし作戦参謀としての腕がよく、設定では罠や継戦のた
last updateLast Updated : 2026-10-06
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貴方と出会って一年経って(2)
「すぅ…は…ぁ…」 心を無にするようなイメージで何度か深呼吸を繰り返す。それと同時に両手を胸の前に構えた。「…」 静かに目を開けて数秒、掌の前にゆらりと拳大の炎が浮かぶ。そのまま私は人の顔程度までそれを大きくしてから、何事もなかったかのように炎を消した。「よし…」 今日も基礎は順調なようだ、と次は右腕を眼前に伸ばす。 今私の魂が入っている体の本来の持ち主であるイザベラ・アンブローズは、『神託の剣』内でも高い人気を誇る悪役令嬢だ。 イザベラは勇者として城にやってきたケントに一目惚れし、彼と仲のいいヒロインである聖女エルシィを妬んで何かと横恋慕や嫌がらせをしてくるキャラクターでもある。 しかし同時に彼女は上級魔法まで易々と使えてしまう炎魔法の天才で、敵に回ってしまうには厄介なキャラクターだ。 アンブローズ家というのが元々魔法に強いようで、炎、水、土、雷、風の五元素の中でも炎魔法に特化した血脈らしい。お父様が教えてくれた。 とはいえお兄様は炎だけでなく雷と風も若干使えるのでそれはそれで羨ましい。魔法の属性は先天的な才能に依存するらしく、イザベラは炎の素養しか持っていない。 まぁだからこそ炎魔法であれば極めれると漫画の中の彼女を信じてこうして練習を重ねている。「『火蜥蜴招来《コール・サラマンダー》』…」 伸ばした手の向こうを見つめて一つ呟く。すると目の前に炎の輪が現れ、その内側から炎の体を持つオオトカゲが現れた。 のそり、と現れたそれは私の方を見て指示を待っている。『火蜥蜴招来《コール・サラマンダー》』は文字通りサラマンダーと呼ばれる炎のオオトカゲを召喚する魔法。炎の精霊の一種であるサラマンダーを召喚し、一時的に使役することができる。 とは言え私はまだ無詠唱でこの魔法を使えない。詠唱破棄はできるとはいえ戦に使うなら魔法名の詠唱すらしてる暇はないんだけどな。「サラマンダー」 私が召喚したサラマンダーに声をかけると、相手は小さく反応を示す。なので私は用意した的に向かって指を差しサラマンダーの視線を誘導して、「アタック」 そのまま攻撃の指示を出した。するとサラマンダーは反射的に三発の火球を作り出し正確に的に当てる。当然木でできた的は燃え上がり、地面に崩れ落ちた。 とは言え下は土なので後で水でもかけておけば問題ない。「オッケー、ありがと」
last updateLast Updated : 2026-10-06
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従士としての日々の徒然(1)
******** 「はい、こちらで登録は完了です。この紙を担当者に持ち込んでください」 騎士団の宿舎が置かれている建物群の一画に置かれた事務所と思しきその建物で、私はメガネをかけた美人のお姉さんからその紙を受け取る。 「ありがとうございます」 お姉さんが私の署名を確認して返してきた書類には『従士契約書』と書かれていた。契約書というだけあって署名欄があるけど、書いてある中身は“六年以上昇格がなければクビ”とか“従士だからといって犯罪は容認しない”とか、そんなことが堅苦しい言い回しで書かれているだけ。これに同意できなければ当然従士にはなれない。 とは言え、四年間地道に訓練を重ねてお父様を説得し切った割には従士って簡単に慣れてしまうものなんだな、と冷めたことを考えながら事務所と思しき建物を出る。 従士なんて、見習いとは言っても殆ど雑用係みたいなものらしいし、サブスクの登録より簡単なのかも。 そのくせ訓練は厳しくて、雑用も力仕事ばっかりだし扱いも雑だから根性のない人は去っていくけど。 昇級すればもちろん程度に応じて権限も増えるし、貴族階級と同じ扱いを受けることもできるけどそんなに簡単なわけもなく。要は気合いと根性の世界なので当然のし上がることができなければルカさん護るどころか近くに行くことなんてもってのほか。 「にしても、担当者ってどこにいるんだろ…」 ざっくり見回しても周囲にそれっぽい人はいない。書類をもらった場所に写真があったからその人を探せばいいんだけど…。 「ぅわぷ!」 ぼけっとしてたら曲がり角で誰かとぶつかってしまった。思いっきりぶつかってしまったせいで痛む鼻を押さえながら慌てて頭を下げる。 「も、申し訳ありません!」 この場
last updateLast Updated : 2026-10-06
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従士としての日々の徒然(2)
******** この間道に迷っていた女の子はニコと名乗っていた。明るくややサバサバした性格と親しみやすい庶民感に懐かしいものを感じ親しくなってから早三ヶ月。 彼女と仲良くなって三ヶ月ということは、私が従士となって三ヶ月経つことにもなる。 しかし短いこの期間ですら山のような雑務と食事当番や掃除当番に追われ、今も目の前で赤毛のツインテールを揺らすニコとともに騎士たちが訓練用に使っていた武器の手入れをたった二人で行なっているところ。 「ぐぬぬ…どんな使い方したらこんなに武器がボロボロになるのさ!」 ニコはぐぬぐぬと悔しい時の口癖を言いながら必死に槍の切先を磨いている。私は私で大剣の刃こぼれを研ぎ直しているわけだけど、彼女の言った通りここに置かれた武器たちはどれも粗雑に扱われていたのがよくわかる程度の具合だ。 しかしこれも立派な従士の仕事。従士たちは皆騎士たちや自分たちの使った服や訓練用の武器を当番制で手入れして、同時に食堂の食事や各寮の掃除に訓練場の整備まで全部当番で回しながら行なっている。 よほど人が少なければ騎士の人たちが手伝ってくれたりするけど、基本的には班分けされた従士たちが協力してこれらの雑務を回し、その上で騎士になるための訓練を行なっているわけで…正直睡眠時間は短い。 だけど悲しいかな、社畜であった頃よりはずっと眠れている。その代わり肉体労働で割と体はボロボロだし、爪に入り込んだ泥が綺麗になる予感はしない。 「はぁ…」 それにしても、とため息が出る。一日中訓練で使い潰されてるって言ってもこんなにボロボロにされたら武器が可哀想だ。 どの武器も刃こぼれや柄の部分が痛んでいたり、物によっては刃と柄を繋ぐ
last updateLast Updated : 2026-10-07
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従士としての日々の徒然(3)
******** 今日は剣のぶつかり合う高い音がよく響いている。 この間従士としてここに来てから一年経ったとニコが祝ってくれたけど、逆に言えば一年私は昇進できなかったことに焦りを覚えた。 ニコの気持ちはわかる。ここでの日々は過酷で目が回るし、毎日泥のように眠っては眠い目を擦って早朝には訓練が始まる…そう思い返すと一年同じ生活を続けられただけで大したものだ。 だからニコの気持ちは素直に嬉しいし、私も一緒にお祝いに参加している。まぁ参加者二人だけど。私たちの他に女の従士なんていないし。 しかしそれはそれ、やはり従士としての一年というのは重みがある。従士は六年昇級できなかったらクビになるシステムだ。その中で六分の一が過ぎてしまったことになると思えば、少なからず焦る気持ちを抑えられない。 今日は一日訓練の予定だけど、私は休憩時間ですら素振りに励んでしまう。落ち着かない感情を剣にぶつけてなんとかしようというのは、結局何にも繋がらないのに。 功を焦って前に出て、何度怒られたことだろうか。毎度協調性がないと教官には言われるけど、それはこの焦りからくるのか私の本質なのか…もうわからない。 ここに来るまでの四年間欠かさず鍛錬を積んだつもりでいて、お父様からの許可も出て…きっと調子に乗っていたんだろう。ここに来てからは壁ばかりだ。 人間、とんとん拍子に物事が進まなければ少なからず焦るもの。わかってはいるんだけど、自分を御しきれない。 「…っ」 休憩時間に休憩できない精神と、これまでのこと、どちらも合わさって悔しさが顔に出る。こんなことではあの人を護るなんて夢のまた夢だと、心の奥が囁いてくるから。 「くそっ…」 そう言って、少しだけ当てつけるように剣を雑に下ろした。そのまま何気なく顔を上げると、ある光景が目に入る。 私の視線の先には従士としてまだここにいるカトレアと、ルカさんの姿があった
last updateLast Updated : 2026-10-08
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従士としての日々の徒然(4)
「『おこぼれ様』だぜ。またカトレアと話してやがる」 「偉そうだよなー…いつも澄ました顔してよ。団長の|お情け《、、、》で副団長って椅子に座ってやがる癖に」 まただ、また聞こえる。 あの人を『おこぼれ様』などというゴミみたいな雑音が。 「カトレアもカトレアだよな、あんなやつにすり寄るなんてよ」 「あいつも“おこぼれ”がほしいんだろ。どうせ———」 私が耳にした雑音はそこまでだった。 なぜかと訊かれれば、私が相手を思いっきりぶん殴ったからに他ならない。 「い、イザベラ!? なんだ急にぃ、いっ!?」 当たり前だがもう片方も殴っておく。やかましい雑音再生機はぶん殴るに限る。 「大して実力もないくせに、相変わらず口だけはでかいんだな」 「なんだと!? お前も従士だろうが!」 「だから言ってるんだ。雑魚のくせに副団長に要らない雑音を聴かせないで」 「何言ってんだお前、あんなやつ所詮おこぼ——ぐぁっ」 また聴こえた雑音は無理やり止めた。相手の脛は時に踏みつけるためにある。 「だから雑音を吐くなと言ってるだろうが。次は容赦しない」 「ぐっ…」 地面に這った相手を睨みつけながら吐き捨てた。そういえばもう一人がいないと思ったら、不意に自分の影が揺らぐ。 「舐めてんじゃね…お゛[#「お゛」は縦中横]ごっ!」 なので後ろに回った相手には回し蹴りをプレゼントしておいた。勢いよく顎に私の踵を喰らった相手は気絶したのか動かなくなり、脛を踏んでいた方に視線を戻せばそいつは後ずさりしたまま去っていく。 特に追いかけたりはしない。面倒だし、こうして私が暴れてれば多少はあの雑音も収まるかもと思ってこんなことを続けている。 しかしそこで私はハッとルカさんの存在を思い出し慌てて辺りを見渡す。 「いない…」 よかった、彼はもうその
last updateLast Updated : 2026-10-08
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まだここはスタートラインだ(1)
******** 十歳で入団してから五年。大切な日が、とうとうやってきた。 待ちに待った今日はここまでで一番、悔しさを明日に繋げていける日になるような気がする。 でもここはあくまでスタートラインだ。今日私が従士から騎士に昇格すると言っても、やっと初めの一歩を踏んだだけ。 …昇格といえば、カトレアはルカさんとすでに手紙の交換を続けていたりするのだろうか? 作中でルカさんとカトレアは定期的に手紙の交換をしている描写がある。なんでも“騎士に上がったら会うことも減ってしまから”、とカトレアがルカさんに手紙を送り始めてそれが作中の時間軸でも続いている…という流れなんだけど、私よりとっくの昔に昇級したカトレアはもう彼と手紙を交わしているのだろうか…と、そんなことが気になった。 同時に、“そうだといいな”なんて考える。二人の手紙はいつも温かくて、ある日寝泊まりした宿に届いた手紙ではカトレアが自分の実力についての不安を綴った手紙への返答が記されていた。これが本当に優しくて温かくて、二人が幸せになってほしいなと思ってちょっと泣いたのを思い出す。 さらに言えばルカさんは兄のレオと共に王国の第一王子サミュエルから特命を受けたり、大きな戦いだと作戦参謀として活躍していたりと地味なサブサブキャラの割には出番多いんだよね。ファンとしては嬉しい…けど、よく考えたらその姿を生で拝むことは難しいな。もうこの世界の住人なんだから俯瞰からこの世界の出来事を覗き見ることはできない。ちょっと切ないことに気づいてしまった。 「…でも私ももう十五か」 騎士に上がるのが少し遅すぎたな、と訓練場の隅に植えられた巨木の下で考える。 でも原作の第一話の段階で勇者ケントが十七歳、そして聖女エルシィにカトレア、そして本来のイザベラが同い年だから…あの瞬間までもう二年もない計算になる。 正直、十歳で従士になって十五歳で昇格というのは、契約書的にすごくギリギリの昇格だ。でも私は魔法の腕ばか
last updateLast Updated : 2026-10-09
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まだここはスタートラインだ(2)
今日は従士から騎士へと位を上げる昇級式なわけだけど、本当にここまで長かったなと話をしながら改めて考える。 前世の記憶を取り戻し、親を説得しきるまで四年。そこから従士として実質五年…その九年の歳月を私はルカさんを護れるようになりたくて捧げてきた。 でもなんの悔いもない。むしろこの程度でしか彼に恩は返せないと思ってる。 だって前世で一番苦しい時期の私に光をくれたのはルカさんだったもの。 前世の職場では人間関係がうまくいってなくて、奴隷のように扱われていた。化粧も上手くないから地味だなんだと揶揄されて…他人のやりたくない、地味で面倒だったり他人にものを教えては失敗に付き合わされるような仕事ばかりやっていた。 その上上司の苛立ちに付き合わされて、八つ当たりのように飛んでくる罵倒に何かを返すことも許されない日々。 本当に辛かった。生きていたくないというよりかは存在を根本から抹消したい人生。 大人になるというのは働くことでもあるし、家にお金もないからと高卒で就職したけど、そのせいで今があるなら奨学金の返済に首を絞められてでも大学でやりたいことをはっきりさせた方が良かったんじゃないか、なんてたらればばかりが頭をめぐって。 本当に限界ギリギリの時に親に勧められて勝手に送られてきたのが『神託の剣』。当時は何か気分転換にできるものを見つけるか、いっそ会社を辞めて実家に帰ってくるよう言われていたけど、そんな余裕はないと突っぱねていた時期でもあって。 かといって送られてきちゃったなら仕方ない…と読んでみるとわかりやすい導入とテンポの良いコマ割り、そして真っ直ぐなストーリーと時々少しだけ難しい設定に惹かれ読み進めるようになっていた。 寝る前に読む一冊が楽しみになっていった中で、私はそれを見る。 初登場時はレオの後ろに側近として仕えているような地味な登場で、でもモブにしてはキャラデザインが明確だなと思った程度だった。 でも勇者たちが旅立つその日、朝早くに出立の挨拶をするカトレアに向かって優しく微笑んだその姿を見た時、私の目は一
last updateLast Updated : 2026-10-10
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