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【エピソード34〜再会を誓い合って〜】

Author: 水沼早紀
last update Last Updated: 2025-05-23 10:09:08

 それから数日間、私たちは二人での時間を過ごしていた。

 明後日になったら、ついに爽太さんはイギリスへと旅立ってしまう。 寂しいし、本当は行ってほしくない。ずっと一緒にいたい。

 だけど爽太さんとは、これからもずっと一緒にいれるんだ。

 愛してる人とずっと一緒にいられる。 それって素晴らしいことだって思ってる。

 だから爽太さんのことを信じて、これから私は生きていくの。後はこの子を産むために、一生懸命頑張るだけだ。

 赤ちゃんが産まれる瞬間を、一緒に見たかったけど……仕方ない。

「……爽太さん、明日、見送りに行ってもいいですか?」

「え、来てくれるのか?」

「はい。爽太さんを笑顔で、見送りたくて」

 私は爽太さんにそう告げると、爽太さんは「ありがとう、紅音」と微笑んでいた。

「俺はイギリスに行っても、紅音のことを絶対に忘れないからな。 毎日紅音のことを思いながら、向こうで頑張るよ。後、子供のこともな」

「はい。そうしてください」

 私は爽太さんから預かった結婚指輪を、ネックレスにして首にかけていた。

 爽太さんからの愛の証を、常に身に着けていたいから。

「紅音、愛してるよ。これからもずっと」

「はい」

「一年間、待たせてしまうし、色々と大変な思いをさせてしまうけど……待っててくれるか?」

 その問いかけに、私は「当たり前です。だってこの子は、私たちの子供なんですよ?……大切に大切に、育てていきますから」と答えた。

「ああ。……帰ってきたら、お前たちをギュッと抱き締めていいか?」

「はい、もちろんです。 ギュッと抱き締めてくださいね」

 だけど離れてもしまっても、私たちはまた必ず会える。

 こうしてお互いを思い合う気持ちがあれば、私は頑張れる。この子と一緒に、爽太さんのことを待つ。

「日本に帰ってきたら、赤ちゃんのこと、抱いてあげてくださいね」

「いいのか?」

「当たり前じゃないですか。 この子の父親は、爽太さんだけなんですよ?」

 そう話した私は、爽太さんに抱きついて、爽太さんの温もりを感じた。

「……大好き、爽太さん。愛してる」

 明後日になったら、爽太さんはイギリスに行ってしまう。 とても寂しい。

 それまで爽太さんの温もりを感じることが出来なくなるから、いっぱい温もりを感じたい。 しばらく抱き締めてもらえないし、キスもしてもらえないから。

✱ ✱ ✱

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     それからというもの、徐々にカウントダウンだけが進んでいった。 確実にその日は、やって来ようとしている。 以前よりもお腹は大きくなっていき、本当に妊娠しているのだという自覚が出てきた。 最近はよく、赤ちゃんがちょっとだけど、お腹の中で動くようになってきた。 その度に赤ちゃんがちゃんと生きてるんだって感じて、なんだか嬉しくなる。私たちの赤ちゃんは、こんなにも元気なんだって感じる。「紅音、お腹……触ってていいか?」「いいですよ」  最近の爽太さんは、よくこうして大きくなってきたお腹を触るのが日課になっている。 そして赤ちゃんに話しかけながら、嬉しそうな表情をしているんだ。「お、赤ちゃん今、動いたな」「動きました?」「ああ、動いた。……すげえ、嬉しいもんだな」 爽太さんは幸せそうに笑みを浮かべながら、そう言っていた。「爽太さんもすっかり、父親の顔になってきましたね」 と言うと、爽太さんは「だって俺、この子の父親だからな」と言っていた。「確かに、そうですね」 爽太さんが父親というだけで、この子はきっと幸せだ。……爽太さんは離れていても、私しとこの子のことを一番に思ってる。 そう言ってくれたから、信じることが出来る。「俺はこの子のために、いい父親になりたいって思ってる」 爽太さんは突然、そんなことを言ってきた。「……大丈夫ですよ、爽太さんならなれます」 私は爽太さんの言葉に、そう返した。「そう思うか?」「はい。……だってこの子の父親に相応しいのは、あなたしかいないんですよ?」 あなただけが私の夫であり、家族になる人なんだから……。 この子の父親として、爽太さんはきっと私たちを幸せにしてくれると信じてる。「そうだな……。俺はこの子の父親、だもんな」「そうですよ。この子もパパが爽太さんだと分かって、きっと喜んでくれてると思いますよ?」 あなたの父親は、とても優しくて心の温かい人なんだって……ちゃんと伝えたい。「そうだといいな。……俺もたくさん、愛してやりたい。紅音のことも、この子のことも。世界一幸せにしてやりたい」「それは嬉しいです。 きっとこの子も、嬉しいと思います」 お腹に手を当て優しく撫でながら、こうやって微笑み合うのももう少しか……。 この一瞬を、この瞬間を、大切にしていかなきゃって思う。爽太さんとは一年間、

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     夕食が出来上がった頃、爽太さんが仕事から帰ってきた。そしてすぐさま、私を抱きしめてくる。   「爽太さん……?」「ただいま、紅音」「おかえりなさい」 爽太さんのその温もりは温かくて、なんだか安心する。「赤ちゃん、元気にしてるか?」    そう聞かれて私は「はい。とても元気ですよ」と答えた。「それは良かった。 少しだけど、お腹大きくなってきたな」「はい。少しだけ、ですけど」「産まれてくるまでにまだたくさん時間はある。ゆっくりと成長してくれたら、それでいいさ」 そんな爽太さんの言葉に、私は「そうですね」と答えた。 私たちの赤ちゃんは、必ず元気に産まれてきてくれるに違いない。 そして元気に育ってくれるはずだ。「それより、腹減ったな」「じゃあ、ご飯にしましょうか」「ああ。手を洗ってくるよ」 爽太さんは一旦部屋に戻り、着替えてからキッチンにやってきた。「「いたただきます」」   と手を合わせて夕食を食べ始める。「うん。美味い」「良かった」 こうやって二人でご飯が食べれるのも、残りわずか……。 カウントダウンは、もうすでに始まっている。「……あの、爽太さん」「なんだ?」「離婚届の、ことなんですけど……」 カウントダウンが始まった今、離婚するという選択肢にきっと、変わりはない。 だからこそ、今という瞬間を大切にしたい。……だけどまた、プロポーズしてくれるというその言葉を信じて、私は爽太さんのことを待つ。「……紅音」「はい」「そのことで、俺から話があるんだ」  「話……ですか?」 爽太さんからそう言われて、私はお箸を置いて爽太さんを見つめる。……話とはなんだろうか。「すまない、紅音。先に謝らせてくれ」 そして爽太さんは、たった一言だけそう答えた。「え? なにが、ですか……?」 私たちが本当の家族になるには、まだ時間がかかることに間違いはない。 私たちは、普通の夫婦じゃないから。「紅音、離婚届について……後で俺から改めて話をさせてほしい」 「……はい。わかりました」 子供のために頑張るなんて言ったけど、本当は私は、自信なんてない。 一人で頑張れるか、不安を抱えている。 でも爽太さんにその不安は見せたくないから、つい強がりそうになってしまう。「紅音には、苦労ばかりかけてすまない」 爽太さんから突然

  • 私たち期限付き夫婦でしたが愛に包まれ本物の夫婦となりました。   【エピソード30〜親としての自覚〜】

     それからまた時は幾度となく、過ぎていった。 早いもので間もなく、安定期を迎えようとしていた。 つわりも段々と治まりつつあり、食欲も少しずつだけど回復してきた。 今まで通りの食事が出来るようになってきたことは、私にとって嬉しいことだ。「小田原紅音さーん、ニ番の診察室へどうぞ〜」「は、はい」  定期検診にも爽太さんは、よく一緒に来てくれるようになった。 少しでも父親として、出来ることがあれば何でもしたいからと、嬉しそうに言っているのだ。  【少しは父親としての自覚が出てきたか?】と爽太さんはよく聞いてくるけど、充分父親になるために色々とやってくれているし、自覚は充分にあると思う。 私自身もまだちゃんと母親になれるのか、分からないし、たくさん不安もあるけど……。それでも私は、母親としてこの子を守りたいのだ。 爽太さんが日本に帰ってきた時に、成長した姿を見せたい。 爽太さんが少しでも安心できるように……。「小田原さん、分かる?赤ちゃん、だいぶ大きくなって来ましたね」「……本当、ですね」 前の検診の時よりも、赤ちゃんは少し大きくなっている。 お腹の中で確実にちゃんと少しずつだけど、私たちの赤ちゃんは成長している。 こうやって改めてその姿を見ると、すごく実感する。赤ちゃんがちゃんと、生きているって……。 これがどれだけすごいことなのか、私にはわかる。毎日つわりに耐えていた日々は、このためにあったんだな……とつくづく実感している。「可愛い……」 この子が、私たちの赤ちゃん……。とんでもなく可愛いと感じる。 まだ小さいけどこうして少しずつ顔や手、心臓などが見えるだけで嬉しくなっている。「あなたたちの赤ちゃんは、とても元気ね」「はい」 そんなことを言われるとやっぱり、私は母親なんだなって思うし、母性本能みたいなものも生まれる。「心拍も問題ないし、血圧や血液検査の結果も問題なし……と。 うん、特に問題なさそうだし、今日の検診はこれで終わりでいいわ」「先生、ありがとうございました」「まあ強いて言うなら、もうちょっとだけ体重増やした方がいいかな」 と先生から言われ、私は「はい、すみません。 頑張ります」と答えた。「無理しすぎると良くないから、ほどほどにね」「はい。分かりました」  私はそう答えると、上着やカバンを手に待合室へと戻

  • 私たち期限付き夫婦でしたが愛に包まれ本物の夫婦となりました。   【エピソード29〜父親としての自覚〜爽太SIDE〜】

    ✱ ✱ ✱「……親父、親父に話したいことがあるんだ」 俺はその数日後、紅音には内緒で実家に来ていた。「話? なんだ」 親父には、紅音のことを話さなければならないと思った。 ちゃんと妊娠していることを、話す義務が俺にはあるから……。「紅音が、妊娠したんだ。……俺の子だ」「……そうか」 親父はてっきり、怒るかと思っていた。だけど口を開いても、言ったのはその一言だけだった。「……すまない。約束を破った」 親父と約束した、子供は作らないと。……なのにその約束を、俺は破ってしまった。「……そうだな。破ってしまったようだな、約束」「すまない」  謝って許してもらえるかは分からないが、とにかく謝った。「……まあ、出来てしまったものは仕方ないからな。責める訳にはいかないだろ」「怒らないのか……?」 と俺が問いかけると、俺はこう言ってきた。「怒る訳はないだろう。……ただもし、お前たちに子供が出来たら、お前はイギリスには行かないと言い出すのではないかとは……思っていたがな」「……親父」 確かに今、俺はイギリスに行くか行かないか、迷っていた。 紅音に子供が出来た以上、日本を離れる訳にはいかないとさえ思った。 日本を離れて紅音を一人にしてしまったら、誰が紅音を守ると言うんだ……って。 ましてや子供が産まれれば、紅音は子育てで忙しくなるし、そんな時に一人になってしまったら……何かが起こったら、紅音は確実に不安になるに違いない。 産むことももちろん大事だけど、産まれた後のことも考えていくと、やっぱり紅音を一人には出来ない……。 紅音を守っていけるのは、俺だけだっていうのに……。 俺はあの子の父親になるのに、何も出来なくなる。そんなのはやっぱり、俺はイヤだ。「親父、やっぱり俺……」「決めるのはお前たちだ。……好きにしろ」 親父はそれだけ言うと、コーヒーのマグカップに口を付けた。「親父……俺は間違ってると思うか?」 俺がそう聞くと、親父は「……さあな」と答えた。 わからない。間違ってるのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。 だけどその答えなんて、俺には分からない。「答えは一つじゃない。……だけど人生の選択肢なんて、限られている」 人生の選択肢……? 確かにそうだ。答えなんて一つじゃないし、いくつもある。 だけど正しい答

  • 私たち期限付き夫婦でしたが愛に包まれ本物の夫婦となりました。   【エピソード28〜本音と気持ち〜】

     妊娠していることが、爽太さんにバレてしまった。 もう隠し通すことは、出来ない……。「……紅音、子供はどうするつもりだ?」 どうするつもり? そんなことを聞かれても、私の答えなんて一つしかない……。「この子は産みます。……私が一人で、育てます」「え……?」「この子が産まれる時には、私たちはもう夫婦ではありません。……だけど私は、誰に何を言われてもこの子を絶対に産みます。 一人でこの子を育てていくって、もう決めたんです」 私は自分の想いを爽太さんに伝えた。お腹に手を当てて、語りかけるように話した。「認知してほしいなんて言いませんし、父親になってほしいなんて言いません。 だけど私、この子を守りたいんです。……母親として、ちゃんとこの子を守ってあげたいんです」 そう話すうちに、涙が止まらなくなってしまった……。「だからお願いです、爽太さん……。産むことを、許してください。……お願いします」 私は泣いた。泣きながらそう爽太さんにお願いした。「……紅音、顔を上げてくれ」「お願い……します」 私は爽太さんともう長く一緒にいられない。だからこそ、この子だけは守っていきたい。  私はこの子のために、出来ることならなんだってやる。そう決めたの……。「……すまない」「……え?」「気付いてやれなくて、すまなかった」    爽太さんは私に謝ってきた。 そして私を抱きしめると、何度も「ごめん」と謝ってきた。「紅音が悩んでいることに気付いてやれなくて……。そんなに辛い思いをさせていたことに気付けなくて、ごめん」「っ……爽太さん……」 爽太さんの言葉や気持ちは、私の涙を更に誘った。「……紅音。俺はお前に何もしてやれないのが悔しい」「え……?」「これからは、もっと俺を頼ってほしい」 そう言われて私は「でも……」と言葉を返した。「紅音が辛い時、そばにいれるのは俺だろ?守ってやれるのは、俺しかいないだろ?」「っ……でも、赤ちゃんは……」 私がそう口にすると、爽太さんは「……堕ろしてくれだなんて、言える訳ないだろ?」と言ってくれた。 てっきり堕ろしてくれと、言われると思っていた……。「紅音の産みたいって気持ち、伝わったから」「でも……産んでも、いいんですか……?」「紅音は、産みたいんだろ……?」 爽太さんからそう問いかけられて、私

  • 私たち期限付き夫婦でしたが愛に包まれ本物の夫婦となりました。   【エピソード27〜知ってしまった秘密〜爽太SIDE〜】

    「よく眠ってるな……」 ニ週間のシンガポール出張を終えてようやく自宅へと帰宅した俺は、今すぐにでも紅音に触れたくてそのまま紅音を抱いてしまった。 行為の後、紅音は疲れたようですぐに眠りについてしまった。 俺は眠っている紅音の髪や頬を撫でると「愛してる」と呟き、そのままシャワーを浴びた。 シャワー後、パジャマに着替えリビングに行くと、紅音が作ってくれたメニューたちが食卓に並んでいた。 「うわ、美味そうだな」 ちゃんと俺のリクエストしたローストチキンとビーフシチューだ。 本当に作ってくれたのか……。ありがとう、紅音。 俺はビーフシチューを温めて器に盛り付け、そしてローストチキンもレンジに入れて温めた。「……いただきます」 熱々のビーフシチューを一口食べると、すごく美味しかった。 お肉もかなり柔らかくなっていて、食べやすくなっていた。「美味い……」 こんなに手の混んだ料理を作ってくれる妻、他にいるのだろうか……。 あまりの美味しさに手が止まらなくなり、そのまま完食した。 「ごちそうさまでした」 そして食器を片付けていたその時ーーー。「おっと……!」 俺は近くに置いてあった紅音のカバンを蹴ってしまった。 あ、やべ……!「紅音、またこんなとこに置きっぱなしにしてたのか……」 紅音のカバンを蹴ってしまったせいで、中身が飛び出してしまっていたようだった。 俺はそれを拾おうと手を伸ばした。「ん? なんだ、これ……?」 ーーーその時、あるものが俺の視界に飛び込んできた。 「……え?」 これって……。そこには紅音の名前がしっかりと書いてあった。【小田原紅音】と。「母子、手帳……?」    なんでこんなものを、紅音が持っているんだ……? いや、母子手帳を持ってるってことは……。「え……まさか」 紅音はもしかしてだけど……。「妊娠……してるのか?」 俺はイケないと思いながらも、その中身を見てしまった。「……っ!」 やはり、間違いないようだ。 紅音は妊娠している。俺の子供を……妊娠、しているんだ。 その事実を知ってしまった俺は、戸惑った。 紅音、妊娠しているのなら、なぜもっと早く言ってくれなかったんだよ……。 どうして今まで、隠していたんだよ……。 母子手帳を見ると現在は、妊娠八週目のようだった。「……待てよ

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