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18.知らないけど知ってる人⑦

Author: 鷹槻れん
last update Last Updated: 2025-09-09 06:28:04

 そんな風に思う私の横から告げられた和音《かずね》ちゃんの言葉に、私はいつかのぶちゃんと一緒に行ったお寿司屋さんで、奏芽《かなめ》さんの足元にしがみついていた彼女のことを思い出した。

 あの時は和音《かずね》ちゃんを奏芽さんのお嬢さんだと思って、モヤモヤしたんだった!

「ああいういの、私が生まれた時からずっと毎月欠かさずなんだって」

 和音《かずね》ちゃんの言葉に、私は驚いて瞳を見開く。

「パパとママにせめて月に1回ぐらいは恋人に戻れる時間を作ってあげたいっていう奏芽の優しさよ」

 言われて、私は奏芽さんのおふたりへの愛情の深さを垣間見た気がしたの。それと同時、私には絶対入り込めない絆みたいなものを感じて、少しだけ胸が苦しくなった。

「和音《かずね》ちゃんは……寂しかったりしないの?」

 自分が寂しいものだから、思わずそう聞いてしまってから、愚問だったと思ったの。だって和音《かずね》ちゃん、奏芽さんのこと大好きだもの。

 大好きな人と一緒にいられる時間が寂しいものであるわけがない。

 そう思ったんだけど。

「前までは嬉しくて堪らなかったんだけど……ここ数ヶ月は少し寂しいかな」

 ムッと小さく口をとんがらせる和音《かずね》ちゃんの予想外の返答に、私は驚いて彼女の横顔を見やった。

「お姉さんのせいなんだからね?」

 言われて、私はやっと悟った。

 私の存在。和音《かずね》ちゃんが何とも感じてないわけなかった。

「ごめんなさっ」

 謝ろうとしたら「そういうの嫌い」って遮られてしまう。

「お姉さん、あの時一緒にいたお兄さんじゃなくて奏芽《かなめ》を選んだってことでしょう? 奏芽の方が素敵だって思ったってことでしょう?」

 真剣な目で射すくめるように見つめられて、私は一瞬言葉に詰まった。

 でも、すぐにハッキリと「はい」って答えてうなずいたの。

 私の返答に、和音《かずね》ちゃんが小さく吐息を漏らした。

「奏芽にも言われたのよ。お姉さんとのことは本気だか

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  • 私のおさげをほどかないで!   18.知らないけど知ってる人③

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