LOGIN修吾が、手を出すように言った。
紗月は夕食のあいだじゅう、その瞬間を待っていた。食卓を片づけ、外出着を着替え、母の写真を見せると、次は手を揉んでもらう時間だった。そのたびに彼はテレビの音を下げ、紗月はソファの同じ場所に座った。
「今日は、このまま寝ます」
言ってから初めて、断ったのだと気づいた。
修吾が彼女を見た。
「どうしたの。そんなに痛い?」
「少し」
「そういうときこそ、ほぐさないと」
彼が手を伸ばす。逃げないように、紗月は膝に力を込めた。修吾の指が触れる直前、先に肩がすくんだ。
修吾が止まった。
短い沈黙のあと、彼が聞いた。
「外で、何かあった?」
「お母さんを見たら……」
母を言い訳にしたくなかった。それでも今日は、本当に母を見て泣きたくなった。嘘を作る代わりに、その感情だけをつかんだ。
「すごく、年を取ったみたいで」
修吾が彼女を引き寄せた。紗月は彼の肩に額をつけた。抱かれた瞬間、知らずに呼吸が緩んだ。そのことが、いちばん恐ろしかった。この人が何をしたか知っているのに、体は慣れた場所に寄りかかってしまう。
「一人で抱え込ませたりしないよ。俺がいるだろう」
彼のシャツから、いつもの洗剤の匂いがした。この匂いの中で眠り、痛い日には泣いた。今日は、肩に触れた額を、どこへ移せばいいのかわからなかった。
修吾が背中をなでた。紗月は左手で右手を包んだ。彼の腕の中で、もう一度手を取られないように。
「ありがとうございます」
癖のように出た言葉は、のみ込めなかった。代わりに、その先は言わなかった。信じている、と。以前のようには言わなかった。
* * *
夜明け前、紗月は小さな部屋へ移って座った。修吾は書斎で仕事をしたまま眠り、彼女は母へ送る写真を整理すると言っておいた。
鷹宮蓮司の名刺を、机に置いた。
一行を書くのに、長くかかった。
【支援に関する書類で、確認したいことが出てきました。ほかの方を介さず、お話しできますか。七瀬紗月です】
送ったメールをもう一度開いた。ファイルは添付していない。里香の声も、名前も書かなかった。まだ、誰を信じていいのかわからない。
朝には返事が届いていた。
【本日午前中でしたら、直接お電話できます。ご都合のよい時間をお知らせください】
紗月は10時と書いた。修吾が出勤して、ほかのスタッフが来る前の時間だった。
蓮司は約束どおりの時刻に電話をかけてきた。
「七瀬紗月さんですか」
「はい」
「今、お話ししても大丈夫ですか」
紗月は扉を見た。自分の部屋の扉。鍵はかけていなかった。
「この前、問題のある支援について伺ったことなんですが。生徒たちのことだけじゃ、なかったんです」
蓮司は口を挟まなかった。紗月は50万円の受領確認書から説明した。受け取ったのが誰なのか。昨日、カフェで何を聞いたのか。ファイルに入っているのが誰の声なのかを話すときには、言葉が途切れた。
「力になれる方法を探します」
その返事に、紗月はスマートフォンを強く握った。
「修吾さんも、助けてくれるって言いました」
言い方がきつくなった。すぐ謝りかけて、紗月は口を閉じた。
蓮司も、何でもないようには流さなかった。
「私の言葉を先に信じる必要はありません。弁護士に確認してから、決めていただいても」
「先に、鷹宮社長にお会いしたいです」
紗月は息を整えた。
「修吾さんが、あなたを嫌っているから。今、私が知っているのは、それだけなんです」
電話の向こうで、蓮司が短く息を吐いた。
「わかりました。蒼和の本社一階に、外部の方用の相談室があります。来られる時間で決めましょう」
紗月は、その日の午後にオークション資料を届けることになっていたのを思い出した。麗華の担当者から、蒼和の審査用資料を送るよう依頼されている。仕事で訪ねても、おかしくはなかった。
「午後に、私が直接届けることにします」
「それで危険になることはありませんか」
「まだ、大丈夫です」
電話を切り、修吾が決めた午後の予定を開いた。蒼和へ直接行ける時間に印をつけた。
* * *
相談室の扉には、小さなガラス窓がついていた。外では人々がエレベーターを乗り降りしている。蓮司は上座につかず、紗月が選んだ席の向かいへ来た。
紗月はスマートフォンを、テーブルの中央に置いた。
「まず、聞いてください」
声が流れると、蓮司はペンを置いた。最後の一言が終わっても、その手は動かなかった。
紗月は、彼がスマートフォンを取り上げるものだと思っていた。誰かへ電話をして、どこへ行くようにと言うのだと。
蓮司は音量を下げ、スマートフォンを彼女のほうへ戻した。ペン先が押していた紙に、小さなくぼみが残っていた。
「一条修吾の声だと、判断されているのですね」
「私がいちばん、よく知っています」
「わかりました」
蓮司は写真も確かめた。支払日と管理番号を、別に書き留める。
「これで、修吾さんを捕まえられますか」
「それは、私が決めることではありません。もとの録音と支払いの記録、当時の状況を併せて確認する必要があるはずです」
紗月の手が、テーブルの下へ落ちた。
今すぐ連れていって、手錠をかけられると言ってほしかったわけではない。けれど実際に慎重な返事を聞くと、外へ出ても何一つ変わらない気がした。
「じゃあ、私はまた、あの家へ帰らなきゃいけないんですか」
蓮司がペンを置いた。
「帰りたくないのですか」
「帰りたい人なんて、いるわけないでしょう」
声が大きくなった。ガラス窓の向こうを通る社員が、ちらりとこちらを見た。紗月はうつむいた。
「すみません」
「謝らないでください」
今度は、蓮司の返事が早かった。
「帰りたくないという言葉まで、ここで小さくする必要はありません」
彼は水のボトルの蓋を開け、グラスの横へ置いた。紗月は水を飲んでも、スマートフォンを握る手を緩められなかった。蓮司はその手から視線を外した。
「まず、出る方法を探しましょう。あの男が何を言ったか説明するのは、そのあとです」
「母がいるんです。病院の費用も、あの人が払っています。私が出ていったら、何が起きるかわからない。自分のお金じゃ、長くはもたなくて」
蓮司はしばらく聞いたあと、白い紙を彼女の前へ向けた。
「今日、必要なことから書いてみましょう」
紙には、母、住まい、法律相談と書かれていた。
紗月が目を上げると、蓮司はペンを置いた。
「順番は、紗月さんが決めてください」
紗月は「母」に丸をつけた。それから「法律相談」に線を引き、「住まい」の前へ、あとで、と小さく書いた。
「自分に何ができるのか、先に知りたいです。修吾さんがしてくれると言ったことじゃなくて」
蓮司がうなずいた。
「連絡先をお渡しします。独立して事務所を構えている、橘という弁護士です。紗月さんから直接、ご依頼ください」
「社長の言うとおりにする方では、ないんですか」
蓮司の口元が、初めて少し動いた。
「そうなら、ご紹介できません。私の言うことを聞いてくれず、困ったことは何度もあります」
紗月も、一瞬だけ笑いそうになった。けれどすぐ、スマートフォンに視線が戻る。
「どうして修吾さんを調べているんですか」
蓮司が窓の外を見た。目をそらしたのではなく、言葉を選んでいるようだった。
「姉が亡くなりました。検事だった、鷹宮怜子です。2019年の交通事故でした」
彼は短く言葉を切った。
「姉が扱っていた事件に、天城総合が出てきます。事故後に残された資料だけでは、つながりを明らかにできませんでした」
「修吾さんがやったことだと、思っているんですか」
「疑っています。確信したい気持ちと、証明できることは別だと、思い知らされました」
テーブルの紙が、照明を受けて白く見えた。紗月は自分の指で、その角を押さえた。この人にも、まだ終えられないことがあった。
「それなら、私の資料が必要なんですね」
「必要です」
蓮司は否定しなかった。
支払日を記したメモに、彼の手が触れる。
「次の内部会議に、この資料を出すつもりでした」
紗月の体がこわばった。
「まだ、お渡しするとは言っていません」
「承知しています」
蓮司がメモを裏返した。
「姉のことに役立つのではないかと、先走りました。会議は延ばします。公開する範囲は、橘弁護士と決めてから教えてください」
紗月は裏返された紙から目を離せなかった。この人も、資料を欲しがっている。ただ、彼女の返事を聞いて、手を止めた。
紗月は置かれたペンを見た。彼が自分の口でした約束を、紙に書いた。
「ファイルは先に、弁護士の先生に見せます」
「そうしてください」
「私の許可なく公開しないでください。母にも、まだ話さないでください」
「わかりました」
紗月は名刺を受け取り、鞄にしまった。相談室を出てロビーに立つと、運転手からメッセージが来た。もうすぐ着くという。
蓮司はエレベーターの前までしか、ついてこなかった。
「今日またあの家へ帰ることも、紗月さん一人で片づける問題ではありません。弁護士と連絡がつく前でも、危険なら助けを求めてください」
「社長は、すぐ来てくださいますか」
蓮司がしばらく彼女を見た。
「行きます。緊急なら、私からの連絡を待たずに通報してください」
紗月は名刺の縁に触れた。
「何度、電話しても?」
「出ます」
今度は、蓮司はためらわなかった。
「それは、約束できます」
紗月は財布の中の二枚の名刺に触れた。
帰る車は、まだ修吾がよこしたものだった。それでも、明日話せる人が一人増えた。
車へ乗る前に、橘法律事務所へ電話した。蓮司は数歩離れ、自分の車へ歩いていった。
電話がつながり、名前を告げた。予約をお願いしたいと言ったあと、息が詰まった。
「私を傷つけた人が、私の治療費を払っているんです」
スマートフォンを握る手に力がこもった。黒い車の隣に、修吾がよこした運転手がいる。そちらを見ながら、紗月は言葉をつないだ。
「母の病院の費用も。あの家を出るには、何から始めたらいいでしょうか」
篠原直人は、保管センターへ着く前に天城総合へ呼び出された。月曜の午前、地下鉄の出口を出ようとしていたときだった。黒田室長から電話があり、閲覧前に確認する書類ができたと言われた。午後三時に代理人たちと会う約束までは、時間があった。篠原は自分の弁護士に、訪問することを知らせた。予定の時刻までに連絡がなければ確認してほしい、とも伝えた。それから天城総合の建物へ入った。長年持ち歩いた入館証が、ロビーで通らなくなった。「臨時の入館証をお受け取りください」警備員が言った。篠原は首に下げていたカードを見下ろした。昨日までは、他の人が待つドアを、このカードで先に開けていた。今日は警備員の前で、自分の名前をもう一度告げなければならなかった。ストラップが耳に引っかかった。強く引くと、カードが胸にぶつかった。代表室に修吾がいた。窓辺のテーブルには、見慣れたファイルが置かれていた。「ここに座ってください」修吾は言った。篠原は椅子を引いた。鞄は両足の間に置いた。「今日の原資料の閲覧の件で、呼ばれたと伺いました」「その前に、なぜ外で別の約束をしたのか、聞かせてもらいたいですね」修吾は紙を向けた。外部保管センターへ送った、相談室の利用申請だった。篠原の申請名の下に、代理人同席と書いてあった。「自分の責任について、相談しているところです」「誰に、私の責任を説明するつもりで?」「私自身の責任と申し上げました」修吾は笑
遠山は褒めるより先に、抜けているページ数を尋ねた。日曜の午前、紗月は宿から最終リストを送り、電話を受けた。昨日のリハーサルで刷り直した伴奏譜の枚数が、返却リストに反映されていなかった。「前のものは捨てたんですか。それとも演奏者が持っていきましたか」紗月はメモを開いた。演奏者が比較のために両方の版を持っていった。確かに見たのに、返却の数から一つを落としていた。「最後に、数量を直していませんでした。両方とも貸出中として整理します」「そうしてください。それ以外は伝わっています。現場の担当者も、次はまず確認の場を設けると言っていますよ」紗月は修正したリストを送り直した。今回の現場確認とリスト整理の報酬、1万8,000円は、その日の午後に入った。楽譜室の6万円とは別だった。入院費の表の今日の欄を埋め、来月の欄を見た。まだ空いていた。少しして、小劇場からまた連絡が来た。「次の公演もお願いできますか。今回より資料が多いんです」紗月は予定から先に送った。月曜は資料を引き継ぐ約束があり、平日にはもともとの楽譜室の仕事もあった。担当者は日程が迫っているため、まず他の人を探すと言った。紗月はメッセージ欄に、午前中だけでもやりますと書いた。けれど資料の量を聞いたのに、終えるべき量を少なく見積もっていた。月曜の約束には代理人も来るし、篠原がまた気を変えるかもしれなかった。文章を消した。遠山にもう一度電話をかけた。「次の現場の仕事は、引き受けられないとお伝えしました。楽譜室の作業は、約束どおりできます」「それは別ですから。月曜に来る時間は、
ピアノが止まったのに、ヴァイオリンは先へ進んだ。悠真の弓が宙で止まった。ピアニストは鍵盤に手を置いたまま、自分の楽譜をめくった。二人は同時に相手を見た。「そこは繰り返さないことにしましたよね」「繰り返していません。ここへ飛ぶことにしたでしょう」土曜の朝の小劇場は、まだ暖房が行き渡っていなかった。紗月は客席の二列目に、メモを膝に置いて座っていた。昨日貼った付箋は、伴奏譜の上にそのままあった。演奏者たちはリハーサルを始めるのに忙しく、読まなかったらしい。担当者が客席で手を上げた。「すみません。整理した資料に、手違いがあったようです」視線が紗月に向いた。体が先に立とうとした。謝って楽譜を取ってくれば、この気まずい瞬間は早く過ぎる。紗月は肘掛けを掴み、離した。「整理するときに間違えた箇所ではありません」舞台の上の二つの楽譜を指した。「昨日から、書き込みが違っていました。お二人に尋ねるために貼った付箋が、今もそこにあります」小さな声だったが、舞台まで届いた。担当者が黙った。ピアニストは付箋を読み、スマートフォンのファイルを開いた。「私が送ったファイルですね。でも宮坂さんは、一つ前の版をお持ちです」悠真が自分の楽譜を見下ろした。誰が間違えたのかを決める会話になりかけた。紗月は舞台脇のテーブルへ行き、二つの資料を広げた。「どちらにするか決めていただければ、合わせます。お二人が決めた日付が違っていたんです」演奏者二人がテーブルに来た。紙を指で
「秘書をなさっていたなら、進行の電話も受けていただけますね」金曜の午前、小劇場の事務室で、担当者が公演の連絡先を紗月のほうへ向けた。遠山から聞いていた仕事は、リハーサル資料の照合だった。紗月は紙を受け取らず、向かいの空いた椅子を見た。「今日は、連絡業務も含まれているんですか」「難しく考えなくていいですよ。電話が来たら、何時までに来てくださいと伝えるだけです」担当者はもう別の電話に出ていた。慣れない職場で、最初の返事から断りたくはなかった。けれど楽譜を開く時間も足りなかった。通話が終わるのを待って、紗月は言った。「連絡を受けている間は、楽譜の確認が止まります」電話の横に、開いた楽譜を置いた。「両方終わったとは、お伝えできません。今日、必ず終えるほうを先に決めてください」担当者は手の中の電話と、テーブルのファイルを交互に見た。「では、資料からお願いします。演奏者からの連絡は、私が受けます」大した争いもなく終わった。紗月だけが、椅子に座っても少しの間、背を伸ばせなかった。明日、演奏者たちが同じ場所で止まり、また入れるよう、ページと書き込みを合わせる仕事だった。入力より、自分で読んで聴く必要があるため、紗月に声がかかった。ピアノ譜とヴァイオリンのパート譜を並べた。印刷された音符は同じなのに、演奏者たちの手書きが違った。一方には繰り返さないという印、もう一方には繰り返しの区間から別のフレーズへ進む矢印があった。「この印は、いつ決めたものですか」紗月が尋ねると、担当者がメールを探してくれた。
「4万円、今、振り込みました」遠山がスマートフォンを置いた。紗月は机の角にある自分の電話を、すぐには見なかった。最後に直した編曲者の項目がきちんと反映されているか確認し、それから画面を点けた。入金の通知が出ていた。先にもらった2万円と、今日の4万円。約束の6万円がすべて入った。残りの仕事も引き受けます、と言わなければならない気がして、唇が動き、止まった。「次の束は、どれくらいありますか」まず作業量を尋ねた。遠山は脇の箱を指した。「今回より少し多いです。同じペースでは、日程がきついかもしれません」紗月は橘と約束した来週の予定を見た。作業できない日があった。空いている時間を伝えると、一部は別の人に分けると遠山は言った。「全部私がやると、遅れそうです」「だから、前もって聞いているんです。引き受けた分だけ、日を守ってください」紗月は頷いた。遠山は次の束から、彼女の分を分けた。箱が一つ減った。その分、次にもらう金も減った。検収を終えた行の横に署名し、楽譜を閉じた。階段で銀行アプリを開き、入院費と宿泊費を差し引いた。長く残る金ではなかった。次にもらう分も減ったが、今日した仕事の代金は、すべて入っていた。蓮司にメッセージを送った。【検収が終わりました。今夜、お時間は大丈夫ですか】返事には、少し時間がかかった。【飛行機を降りました。遅くても構わなければ、会いたいです】紗月は代理人の事務所に寄ったあとで行ける店を探した。高い店を選びかけ、自分が
母の新しいベッドには、陽が差していた。水曜の午後、窓側の相部屋へ移る間、紗月は小さな収納ケースを膝に載せていた。看護師が母をベッドに移してくれてから、ようやくテーブルの下に入れた。せっかく寸法を測って買ったのに、奥へ押すと引き出しが壁につかえた。「もう少し前に」母が言った。「ここ?」「それじゃ足に当たる。横に置いて」紗月はケースの向きを変えた。三度目でようやく、母はそれでいいと言った。隣のベッドの患者が笑いながら、場所一つ変えるほうが引っ越しより難しいね、と口を添えた。カーテンを閉めれば一人で、開ければ隣の人が見えた。夜、体を起こしてもらうケアも、そのまま続くとあらためて説明を受けた。紗月は担当者と次の支払日を確かめてから、ベッドのそばへ戻った。母は陽射しを避け、少し顔を背けていた。「眩しい?」「好きだからって、全部顔に浴びることはないでしょう」紗月がブラインドを下ろすと、母はそこで止めてと言った。窓の外の枝が見えるくらいだけ、残った。椅子に座った。今日受け取った提案への返答が、スマートフォンに入っていた。一度署名すれば、もっといい部屋で暮らせただろうか。また、その考えが浮かんだ。「何かあったの?」母が尋ねた。「お母さんに、いいことをしてあげられなかった気がして」「ここ、よくないって?」「そうじゃなくて……」母は布団の下で足を動かした。&n







