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第3話

Auteur: 白黒ねこ
心も体も疲れ切って、ようやく家に戻ると、翔太はソファに座ったまま私を待っていた。

「ママ、パパ探しに行ってたの?」

私は小さく頷き、翔太の隣に腰を下ろした。

「じゃあ……パパ、もう僕とママ、いらないの……?」

まだ3歳の翔太は、目を真っ赤にしながら必死に涙をこらえていた。

そんな翔太を前に、嘘をつくことも、本当のことを話すこともできなかった。

私はたまらず翔太を強く抱きしめた。こらえていた涙が、一気にあふれた。

「大丈夫。パパがどう思っていても、ママはずっと翔太のそばにいるからね」

健気に涙をこらえる翔太を見ていると、幼い頃の自分を見ているようだった。

「うん。僕、知ってるよ。ママ、僕のこといちばん好きだもん!」

翔太は涙をこぼしながら、それでも一生懸命笑ってみせた。

私は翔太の頬に残った涙をそっと拭い、笑いかけた。

「翔太、ママと一緒に来てくれる?」

母がたった1人で祖母と私を養ってくれたのだから、私にだって翔太を大人になるまで育てていける。

「うん!ママが行くなら、僕もどこにでも行く!」

翔太は大きく頷くと、そのまま私の胸に飛び込んできた。

その小さな体を抱きしめた瞬間、これまでの苦労なんて、もう大したことじゃないと思えた。

あの夜のあと、私は翔太を身ごもった。

子供ができれば、准も少しは私への態度を変えてくれるかもしれない。

あの頃の私は、そんな期待を抱いていた。

けれど、私の妊娠を知った准は、態度を変えるどころか、ほとんど家に帰ってこなくなった。

「これは俺の子じゃない。米沢家に嫁ぐために、お前が仕組んだんだろ!」

そんな言葉を何度も浴びせられながら、私は翔太を産んだ。

翔太は准の実の息子だったのに、「パパ」と呼びたくても、その機会さえほとんどなかった。

そこまで翔太を受け入れられないのなら、私たちはもう離れたほうがいい。

翔太をもう一度寝かしつけたあと、私は結婚したときに持ってきたスーツケースを取り出し、2人分の荷物を詰め始めた。

荷造りをしているうちに、結婚してこの家に来た日のことがふと頭に浮かんだ。

あの日、祖母は私のために選んでくれたスーツケースを軽く叩きながら、笑ってこう言っていた。

「優衣、つらくなったら、いつでも荷物を持って帰っておいで。おばあちゃんはいつでも待ってるからね」

米沢家のような裕福な家に嫁いでも、楽な暮らしにはならないと、祖母はあの頃から分かっていたのかもしれない。

まさか、こんなに早く本当に荷物をまとめて帰ることになるとは思わなかった。

そのとき、玄関のドアが開く音がした。

顔を上げると、険しい表情をした准が入ってきた。

「優衣、お前、さっき俺を探しに店まで来ただろ?」

准は玄関に立ったまま、冷たい目で私を見ていた。

「ええ」

私は隠すことなく頷いた。

「何の用だったんだ?」

そう言いながら、准は荷造りをしていた私の腕をつかんだ。

「翔太があなたに会いたがってたから、時間があるか聞きに行っただけよ」

私は腕をつかんでいた准の手を外し、そのまま荷造りを続けた。

准はスーツケースに目をやり、わずかに眉をひそめた。

「……何で荷物なんかまとめてるんだ?」

「別に。少し整理してるだけよ」

不思議なくらい心は静かで、私はそのまま荷造りを続けた。

准は鼻で笑うと、再び私の腕をつかみ、乱暴に立たせた。

「整理してるだけ?俺がそんな言い訳を信じると思ってるのか?

ちょっと整理するだけで、クローゼットの服を全部スーツケースに詰める奴がいるかよ。

お前……他に男でもできたのか?」

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