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第32話

Auteur: カフェイン中毒男
葉月は辺りを見回すと、なんとそこは見慣れた月霞庵の寝室だ。

葉月は昨日本当に飲み過ぎた。多くの記憶が途切れ途切れで、走馬灯のように一瞬ずつ浮かんでは消えていくだけだ。

葉月は体を起こして座ったが、全身がだるく、体も痛む。すでに初体験は済んでいるのに、下半身に感じる違和感が昨夜何が起こったかを葉月に思い出させた。

布団をめくると、服もパンツもきちんと身につけており、服に至っては新品のパジャマだ。

しかも体もさっぱりしていて清潔感がある。事後に洗ってもらったのだろう。

葉月は頭を激しく振り、昨日具体的に何があったのか思い出そうとした。

しかし葉月はかろうじて、ダイニングで逸平を見かけたような気がするだけで、その後は何も覚えていない。

最悪だ。葉月は本当に頭がおかしくなりそうだった。どうしてこんな時に限って、また逸平とあってはいけない関係になってしまったのか。

葉月はベッドに座り、ただただ心がソワソワするのを感じた。

しばらくして、葉月はようやく現実を受け入れベッドから出たが、歩き出すとやはり無視できない違和感が下半身にあった。

葉月は心の中で呟いた。「このクソ男が」

南原は葉月が階段を下りてくるのを見ると、慌てて笑顔で迎えに行った。「井上夫人、ちょうどいい時に目が覚めましたね。お粥がちょうど炊き上がりました。以前お気に入りだったものです!」

葉月は階段の上に立ち、あたりを見回したが、その姿は見当たらない。

「彼は?」

南原はもちろん葉月が誰のことを聞いているか分かっており、にこやかに答えた。「井上様は急用があり、30分前に出かけられました。用事を済ませたらすぐに戻ると井上夫人にお伝えするように、とおっしゃっていました」

葉月は唇を噛み、何も言わずに食卓に座った。

壁掛け時計を見ると、時間はすでに10時を過ぎていた。

南原は葉月が目覚めて逸平に会えなかったから不機嫌になったと思い、逸平に代わって説明した。「井上夫人、井上様は昨夜から今朝までずっとあなたのそばにいました。本当に急用がなければ、きっと井上夫人が目覚めるのを待っていたでしょう」

葉月は南原から渡されたお粥を受け取り、南原を見て首を振った。「昨日はただ飲み過ぎて、頭がまだ少し痛いだけなの」

目覚めて逸平がいないことにはすっかり慣れており、冷たいベッドに向き合うことはこの3年間
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