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私を愛してくれる人はいない
私を愛してくれる人はいない
Auteur: まりか

第1話

Auteur: まりか
幼い頃から、兄と父は、ずっと姉・朝倉紗良(あさくら さら)ばかりを可愛がってきた。私を嫌っていた。

パーティーで私がいじめられたとき、助けてくれたのは――裏社会の組長、橘智也(たちばな ともや)だった。そして私が彼の最愛の人だと宣言し、今度誰かが私をいじめたら絶対に許さないと言った。

智也は私のために森の奥にある別荘を買い取り、私の大好きなチューリップをいっぱいに植えて、全国で話題になった豪華な結婚式を挙げてくれた。

一時、私は誰もが羨むような存在になった。

妊娠七ヶ月のとき、父の誕生日パーティーに参加していたら、突然大火事が起きた。

偏愛している父と兄は紗良を守って逃げ、私は火の中で死にかけた。最後に智也が私を救い出してくれた。

病院で目を覚ますと、私は心が砕けるような場面を目にした。

「誰がこの火事を起こさせたんだ!」智也は顔を曇らせて言った。「彼女はまだ妊娠七ヶ月だぞ。こんなことして早産させて、結花とお腹の子を殺すつもりか!」

兄と父は小声で言い訳した。「紗良の白血病はもう待てないんだ。医者も早く手術しろって言ってる。子供の骨髄が必要だから……」

「俺はお前らより紗良の命を心配してる。

そうじゃなきゃ結花と結婚したりしない!

だが結花を傷つけるのは許さない。俺には俺の計画がある!」

智也は警告するように言った。

「紗良を救うのが目標だが、紗良を救うために結花のことを犠牲にするなんて許せない!俺は認めない!」

私は慌ててその場から逃げ出した。彼が私と結婚したのは愛していたからじゃない、紗良を救うためだったのだ!

彼の私への優しさも、すべて紗良のためだった。

彼も父や兄と同じで、好きなのは紗良で、私じゃなかった。

誰も私を愛さないなら、私は去るとしよう。

病院の廊下で、私はぽろぽろと涙を流していた。

頭の中で、これまでの出来事が何度も浮かんでは消えていく。

母は私を産んだ直後、術後の感染症で命を落とした。

そのせいで、兄と父は私をずっと遠ざけていた。

彼らが可愛がっていたのは、七歳年上の姉、紗良だけだった。

紗良の成人祝いでは盛大なパーティーが開かれ、学校のみんなが招待されて、十段もある誕生日ケーキが用意された。

彼女が病気になったときには、兄も父も交代で病室に付き添っていたのに、私が肺炎で入院したときには誰ひとり見舞いに来てくれなかった。

「母を死なせた私なんて、愛される資格なんてない」私はずっと、そう思い込んでいた。

けれど、紗良の成人式のパーティーで、彼女にわざとプールへ突き落とされ、「母を殺した子、誰にも愛されない子!」と、笑われた。

私は必死に岸に向かって泳いだが、紗良の友人たちに何度も水中へ沈められた。息ができなくなり、意識が遠のきかけたそのとき、助けてくれたのが、橘智也。

彼は私を水から引き上げ、タオルをかけてくれた。そして、私を嘲笑っていた人たちにきっぱりと言い放った。「結花は、俺にとって大切な人だ。これから彼女をいじめる奴は、絶対に許さない!」

そのときの彼は、まるで天から舞い降りた救い主のようだった。私は一瞬で彼に心を奪われた。

裏社会の頂点に立つ彼が、母を死なせたとみんなに嫌われてきた私を愛してくれるなんて、まるで夢のようで、どこか現実味がなかった。

結婚してからも、どこか信じ切れない気持ちが残っていた。

本当に、彼は私を愛してくれている。そう信じていた。だけどまさか、彼が私と結婚したのは、紗良のためだったなんて。

三年前、紗良は慢性白血病と診断され、骨髄移植が必要になった。

家族全員が適合検査を受けたが、誰とも適合しなかった。

そのとき医者は、「あなたが子どもを産めば、適合する可能性が高い」と提案した。

それが、智也が私と結婚した理由?

あの愛も、優しさも、すべて、紗良のためだったの?

胸が張り裂けそうなほど痛む。病室の前まで来たとき、中から声が聞こえてきた。

「私、病気なんかしてないよ。白血病はすべて演技」紗良の得意げな声が耳に飛び込んできた。「私はただ、結花に絶望させたかったの。お父さんもお兄さんも、私だけを愛してるって思い知らせたかった。

特に智也。あの人、子どもの頃誘拐されたときに助けたのが私だと思ってるし、ピアノを弾く私に一目惚れしたって信じてるけど……本当は、どちらも結花だったの。

彼が本当に愛していたのは結花。でも残念ね、この真相は一生知られることはないのよ」

私はその場で凍りついた。

智也は最初から人を間違えていたのだ。

紗良のために私を傷つけていたのに、実は彼が愛していたのは私だった。

気がつくと手を握りしめていた。そのとき初めて、スマホの録画機能が作動していたことに気づいた。今の会話がすべて録音されていた。

深呼吸して気持ちを整え、スマホをしまって医者のもとへ向かった。

「中絶手術を受けたいのです」

医者は驚いた表情を浮かべた。この子を授かるために、私はたくさんの薬を飲み、長く安静にして、ようやく育ってきた命なのに。今になって、それを手放したいと言うなんて。

医者は説得を試みたが、私の意思が固いことを悟るとこう言った。「ご家族である橘智也さんの署名があれば、中絶手術を行うことができます」

私は「中絶手術同意書」を受け取り、診察室を後にした。

病室へ入った時、ちょうど智也と鉢合わせた。

彼は慌てた様子だった。

「どこに行っていたんだ?さっき見えなくて、何かあったのかと思った……」私の手を握り、安堵の表情を浮かべていた。

その手のぬくもりに、以前なら安心できたはずなのに。今は、ただ心が痛いだけだった。

「心配してくれたの?」

唇を噛みしめ、涙が目に浮かんだ。

「結花は俺の妻だろう?心配するのは当然だ。お前がいなくなったら、俺はどうすればいいんだ。それに、お腹には俺たちの子どもがいるんだぞ」

鼻の奥がツンとした。

智也、あなたが心配しているのは、私じゃない。私に何かあったら、紗良への骨髄移植ができなくなる。それが怖いだけなんだろう?

私は深く息を吸い、同意書を差し出した。「検査があるの。サインしてほしい」

「どんな検査だ?」

彼が書類を開こうとしたそのとき、電話が鳴った。

「智也、早く来て……紗良の具合が悪くて……」兄の小さな声だったが、私には聞こえた。

智也は顔を強張らせ、電話を切ると、書類に署名してその場を離れた。

「会社で急用があって……すぐに行ってくる。検査は俺が戻ってからでいい」

彼が去ったあと、私は書類を開いた。「中絶手術同意書」という文字に、涙がこぼれ落ちた。

医者の診察室の前まで来た。

そのとき、お腹の赤ちゃんが突然動いた。この子を諦めるなんてできないと思った。

まるで私の不安を感じ取ったかのように、胎動はどんどん激しくなっていく。長く悩んだ末、私はくるりと背を向けた。

この子を産もう。

この子と一緒に、嘘ばかりのこの場所から離れよう。

紗良のいる家も、智也も、すべて置いて行こう。

赤ちゃん、これからは、ママと二人で生きていこうね。

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