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Author: はなきち
last update publish date: 2026-07-26 00:05:15

体育祭まで、あと一週間。

予行練習で使う道具を体育館へ運ぶことになり、私は玉入れのかごいっぱいに詰められた玉を抱えて階段を上っていた。

「玉入れの玉って……こんなに重いんだ……。」

一段上るたびに腕が悲鳴を上げる。

もう少しで踊り場。

そう思った時だった。

「俺持つよ。」

後ろから聞き慣れた声がした。

振り返ると、樹くんが笑って立っている。

「重いでしょ。」

そう言うと、返事を待つこともなく私の腕から箱を受け取った。

「あ、ありがとう!」

急に軽くなった腕をさすりながら隣へ並ぶ。

「樹くん、優しいね。」

そう言うと、樹くんは少し照れくさそうに笑った。

「困ってる人を助けるのなんて当たり前だよ。」

その一言だけで、胸がふわっと熱くなる。

こういうことを何気なくできる人だから、きっとみんなから好かれるんだろうな。

……それに比べて蒼人ときたら。

愛想なんて欠片もない。

少しくらい見習ってくれてもいいのに。

そんなことを考えながら、二人で体育館まで歩く。

たわいない話を交わす時間が、どうしようもなく幸せだった。

このまま体育館までの道が、もっと長ければいいのに。

そんなことまで思ってしまう。

体育館へ着くと、樹くんは箱を降ろしてくれた。

「ありがとう。」

「ううん。」

短く返事をして、私は細かな準備を始める。

すると向こうから大きな声が聞こえた。

「おーい、樹! こっちも手伝って!」

「はーい!」

樹くんはすぐに返事をして、駆け足で向こうへ向かっていく。

クラスメイトに頼られ、先生に呼ばれ、また別の競技の準備へ。

あちこち走り回って、額には汗がにじんでいた。

私は作業をしながらも、気づけば何度もその姿を目で追っていた。

男子にも。

女子にも。

先生にも。

誰かが困っていたら、樹くんは迷わず手を貸している。

その姿を見て、改めて思った。

ああ、この人は優しい人なんだ。

でも――。

その優しさは、私だけに向けられたものじゃなかった。

みんなに同じように笑って、同じように手を差し伸べる。

それが樹くんなんだ。

胸の奥が、少しだけ痛くなる。

嬉しいはずなのに。

好きになる理由がまた一つ増えたはずなのに。

“特別じゃない。”

その事実だけが、小さな棘みたいに心へ刺さった。

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