Masuk高校の入学式にまさかの一目惚れ!主人公の緋夏が猛アタックするも...
Lihat lebih banyak高校の入学式。
体育館には少し緊張した空気が漂っていた。新しい制服、新しいクラス、新しい人間関係。期待と不安が入り混じる中、私は何気なく周りを見渡していた。 ――その時だった。 壇上の先生でもなく、隣の席でもない。 少し前の列に座る男の子が目に入った。 整った横顔。ふと笑ったその表情に、心臓がどくんと音を立てる。 「……待って、あのイケメン、タイプなんだけど。」 隣に座る幼なじみの蒼人へ、小声で話しかける。 蒼人とは幼稚園からの付き合いだ。家も近く、気づけばいつも隣にいる。兄妹でも恋人でもない。ただ長すぎる時間を一緒に過ごしてきた、腐れ縁みたいな存在。 「私、頑張ってアタックする。」 「……頑張って。」 返ってきたのは、いつも通りのそっけない一言。 蒼人は昔からそうだった。励ましもしないし、余計なことも言わない。返事だって驚くほど淡白。 それでも、不思議と冷たいとは思わなかった。 長年一緒にいるからわかる。 この短い言葉の中に、ちゃんと私の話を聞いてくれていることも、応援してくれていることも。 だから私は安心して何でも話せた。 この時はまだ知らなかった。 この恋が、三年間ずっと続くことも。 そして、私が必死に誰かを追いかけている間、ずっと変わらず私を見つめ続けている人がすぐ隣にいたことも。街がイルミネーションで彩られ始める頃。 クリスマスが近づいてきた。 今年はどうなんだろう。 樹くん、予定あるのかな。 スマホを開いて何度も文章を打ち直す。 そしてようやく送信した。 『クリスマスって部活とかある?』 遠回しすぎる聞き方だとは思った。 それでも、「予定ある?」なんて聞く勇気はまだなかった。 少しして通知が鳴る。 『部活ではないんだけど』 その一文を見て胸が少しざわつく。 予定、あるのかな。 そう思った次の瞬間。 『あ、そうだ。イブ空いてる? ちょっと付き合ってほしいんだけど。』 「……え。」 思考が止まる。 もう一度画面を見る。 何度見ても文章は変わらない。 「えっ……!」 思わずベッドへ飛び込んだ。 樹くんからのお誘い。 それだけで胸がいっぱいになる。 何着て行こう。 髪巻こうかな。 樹くんってどんな服が好きなんだろう。 そんなことを考えている時間さえ幸せだった。 ◇ クリスマスイブ。 いつもより少しだけ時間をかけて身支度をした。 鏡の前で何度も前髪を直して、待ち合わせ場所へ向かう。 「ごめん! 待った?」 振り向くと、樹くんが少し息を切らしていた。 「ううん! 全然待ってないよ!」 「良かった。」 そう笑う顔を見るだけで嬉しくなる。 「じゃあ、行こっか。」 二人で並んで歩く。 これだけで十分幸せだった。 「今日は何するの?」 私が聞くと、樹くんは少しだけ困ったように笑った。 「実はさ。」 その表情を見た瞬間、なんとなく嫌な予感がした。 「体育祭実行委員で一緒だった子、いるじゃん?」 心臓が音を立てる。 「あの子と明日遊ぶ約束してて。」 世界の音が一瞬だけ遠くなった。 それでも私は笑う。 笑わなきゃ。 「プレゼント渡したいんだけどよく分かんないから、一緒に選んでほしくて。」 「できれば...告白も。」 そういうことだったんだ。 今日、一緒にいたかった相手は私じゃない。 私はただ。 相談相手だった。 胸の奥がぎゅっと締めつけられる。 それでも口角だけは下げなかった。 「いいけど!」 精一杯笑って答える。 「ちゃんと結果
夏休み。 一学期が終わってからというもの、なんだかんだ告白のことを引きずってしまっていた。 メッセージを送る勇気も出ない。 遊びに誘うなんてもってのほか。 結局、樹くんとはほとんど話さないまま夏休みは終わった。 ◇ 二学期。 この時期の一番のイベントといえば、文化祭だ。 ――今度こそ。 体育祭では振られたけど、まだ諦めたわけじゃない。 一緒に文化祭を回れたら、また少し距離が縮まるかもしれない。 そんな期待を胸に、休み時間を見計らって樹くんの席へ向かった。 「樹くん……!」 「ん?」 「あの、文化祭……一緒に回ってくれないかな?」 一瞬だけ樹くんが考えるような表情を浮かべる。 「あー、ごめん。」 その一言で、胸が少しだけ締めつけられた。 「違う人と回る約束しちゃってるんだ。」 「……そっか!」 できるだけ明るく笑う。 「ごめんね! ありがとう!」 先約があるなら仕方ない。 そう自分に言い聞かせながら、その場を離れた。 その足で、いつもの席へ向かう。 「蒼人ー!」 机に突っ伏していた蒼人がゆっくり顔を上げる。 「文化祭回る人いないから回ろーよ!」 「……。」 「てか回るから!」 「なんで拒否権ないんだよ。」 「いいでしょ! どうせ友達少ないんだから!」 「失礼な。」 呆れたような声に思わず笑う。 こういう何気ないやり取りだけは、昔から変わらない。 ◇ 文化祭当日。 クラスの屋台当番を終え、私は蒼人と校内を歩いていた。 初めての文化祭。 教室いっぱいに並ぶ出し物。 廊下まで響く笑い声。 写真を撮る生徒たち。 高校生になったんだな、と改めて実感する。 「次どこ行く?」 「お化け屋敷!」 「え、絶対嫌。」 「え、苦手なの?」 「別にそんなのじゃなくて」 そんなくだらないことで笑い合いながら歩いていると、不意に見覚えのある後ろ姿が目に入った。 樹くんだった。 その隣には、一人の女の子。 体育祭実行委員で一緒だった子だ。 二人は楽しそうに笑いながら歩いている。 自然な距離。 自然な笑顔。 その光景を見た瞬間、胸が少しだけ苦しくなった。 ……もしかして。 好きなのかな。 そんな考えが頭をよ
片付けが終わり、私は重たい足取りで昇降口へ向かった。 さっきまであんなに賑やかだった校舎も、少しずつ静けさを取り戻している。 「おつかれ。」 聞き慣れた声がして、思わず顔を上げた。 「っ、なんでいるの!? 蒼人、委員会じゃないよね!?」 驚いて声を上げると、蒼人は少しだけ眉をひそめる。 「……まぁ、ちょっと。」 「……あ、さては筋肉痛で動けないんでしょ?笑」 私はにやりと笑った。 「普段どんだけ運動してないの? もうおじいちゃんじゃん。」 「うるさい。」 ぶっきらぼうに返す声が、いつも通りで少し安心する。 結局そのまま二人で歩き始めた。 夕日が道路をオレンジ色に染めている。 何気ない帰り道。 でも今日は、胸の中にぽっかり穴が空いたみたいだった。 「そういえばさ。」 私は前を向いたまま口を開く。 「聞いてよ。」 「ん。」 「私、樹くんに振られちゃった。」 少しだけ間が空く。 「……そう。」 返ってきたのは、短い一言だけ。 「なんかさぁ!」 私は思わず笑ってしまう。 「慰めるとかないの!? 薄情!」 「別に。」 蒼人は前を向いたまま答える。 「慰めなくても、どうせ諦めてないんでしょ。」 図星だった。 「……まぁ、そうだけど!」 「じゃあいらないでしょ。」 それだけだった。 励ましの言葉もなければ、「頑張れ」もない。 でも、その言い方があまりにも当たり前で。 まるで私ならそうするって、最初から分かっていたみたいで。 「……何それ。」 思わず笑ってしまう。 「蒼人、私のこと分かりすぎ。」 「まぁ腐れ縁なんで。」 その一言だけで会話は終わる。 しばらく二人で黙って歩いた。 蝉の鳴き声だけが響いている。 「ねぇ。」 私が口を開く。 「私さ、本当に諦めなくていいと思う?」 少しだけ歩く速度が遅くなる。 蒼人は前を向いたまま、小さく息を吐いた。 「後悔しないなら。」 「え?」 「自分で決めたなら、それでいい。」 それだけ言って、また歩き始める。 やっぱり蒼人は優しい。 言葉は少ないけれど、私が進みたい方向を無理に変えようとはしない。 「よし!」 私は空を見上げる。 「絶対振り向かせる!」 「……頑張れば。」
体育祭が終わり、校内は片付けをする生徒たちで慌ただしくなっていた。 そんな中、私は辺りを見渡しながら樹くんの姿を探していた。 ――いた。 体育館の入口近く。 友達と話していた樹くんが、私の声に気づいて振り返る。 「樹くん!」 目が合った瞬間、心臓が大きく跳ねた。 「あの……ちょっといいかな?」 「うん、いいよ。」 樹くんは何も聞かずについてきてくれた。 人のいない空き教室。 扉を閉めると、急に静寂が広がる。 さっきまで聞こえていた歓声も、片付けの声も、遠くに感じた。 手が震える。 息がうまく吸えない。 それでも、今日を逃したらきっと言えない。 大きく息を吸う。 「樹くん!」 一度名前を呼ぶ。 そして、勇気を振り絞って言葉を続けた。 「好きです。付き合ってください。」 静かな教室に、私の声だけが響く。 返事を待つ数秒が、何分にも感じられた。 やがて樹くんはゆっくり口を開く。 「……ごめん。」 その一言だけで、全部わかった。 「期待には応えられない。」 優しい声だった。 だからこそ、胸が痛かった。 「……そっか。」 泣きそうになるのを必死にこらえながら笑う。 「でも、私……諦めないから。」 そう言うと、樹くんは少し困ったように笑って、 「……うん。」 小さく頷いた。 その表情を見て、私は勝手に安心してしまう。 まだ嫌われたわけじゃない。 まだ、可能性はゼロじゃない。 そう思いたかった。 その時、廊下の向こうから男子の声が響く。 「おーい、樹ー! 片付け手伝えー!」 「あ、ごめん。」 樹くんは申し訳なさそうに笑った。 「もう行くね。」 「うん。わざわざごめんね。笑」 それだけ言うと、樹くんは教室を出ていった。 扉が閉まる音だけが静かに響く。 一人になった教室で、私は小さく息を吐いた。 「……よし。」 笑顔を作る。 まだ終わってない。 これは失恋じゃない。 ただ、一回目の挑戦が終わっただけ。 そう自分に言い聞かせて、私はゆっくりと教室をあとにした。